熱帯において水力発電ダムの建設がブームになっているため、誇張されることの多い真の経済的有益性と、過小評価されることの多い生物多様性と水産業に対する広範かつ長期にわたる影響を十分に評価することが重要であると、Policy Forumの著者らは述べている。Kirk Winemillerらは、水力発電プロジェクトは重要なエネルギーニーズに取り組むものであることを認める一方で、豊かな生態系が存在する熱帯地方において特に、水力発電ダムによる真の損害が考慮されていない例を無数に挙げている。アマゾン川、コンゴ川、メコン川の流域では、これまでは水力発電ダムの開発がほとんど行われていなかったが、これら3つの川の流域では新たに450以上のダム建設が計画されており、最近の調査では、これらの流域における生物多様性を保存する上で、ダム建設場所の選定が大きな意味を持つことが示されている。しかし、熱帯の発展途上国の一部では、水力発電ダム建設の指針となるプロトコールがなく、多くの国では小さなダムについては正式な決定プロセスが適用されていない。例えばブラジルのベロ・モンテでは、この地域にのみ生息する桁外れに多くの生物種を擁する場所がダム建設用に選定されたため、これまでに例のない生物多様性の喪失が生じる可能性がある。著者らはまたタイの例を取り上げているが、そこでは88のダム建設が計画されており、これにより、現地の水産業に及ぼすダムの影響を埋め合わせるために農耕地の19~69%の拡大がもたらされる。著者らは、メコン川上流の農村共同体が、計画中の6つのダムが建設されれば、同様の問題に直面する可能性があることを指摘している。より注意深い評価と計画を行わなければ、世界の熱帯地方の河川流域における新たな水力発電ダム建設により、生態学的、社会的、さらには財政的にマイナスの影響がもたらされることになると、著者らは結論付けている。
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