News Release

異なる種類のニューロンの相互作用が、手を伸ばしてつかむ動作を可能にする

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

Mice Attempt To Retrieve Pellets

video: Inhibiting or exciting D1 or D2 neurons has different impacts on the mouse. The first clip shows a mouse with both D1 and D2 neurons working as normal successfully retrieving the reward. The second clip shows a mouse whose D1 neurons have been excited failing to retrieve the reward due to an initial error. The third clip shows a mouse whose D2 neurons have been excited failing to retrieve the reward due to a final error. view more 

Credit: The video clips were published in the research paper in Cell Reports.

    - 本研究では、脳の一部である大脳基底核に存在するニューロンを調べた。大脳基底核は、損傷を受けると人の運動能力に深刻な影響を与え、一見簡単な「手を伸ばして握る」という動作が非常に困難になることがある。

    - 研究員たちは大脳基底核上に存在する線条体のD1直接路出力ニューロンとD2間接路出力ニューロンに注目して研究を行った。

    - これらのニューロンは、神経細胞の進行的変性または神経細胞死をもたらす神経変性疾患であるパーキンソン病やハンチントン病などの発症に関与している。

    - 本実験では、マウスがチョコレート味の固形餌に手を伸ばしてつかむように訓練し、光遺伝学的方法を用いてD1・D2ニューロンを興奮させたり、抑制したりした。

    - D1ニューロンがコーヒーカップを手に取る動作の初期段階を司り、D2ニューロンは手がカップへ向かう終了段階の動作を司っており、両タイプのニューロンがタスクを実行するために必要であることが判明した。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、「物体に手を伸ばしてつかむ」という一見単純な日常の動作における特定のニューロンの重要性を調べました。この研究は、Cell Reports誌に掲載されました。

OISTの行動の脳機構ユニットを率いるゴードン・アーバスノット教授は、次のように述べています。「私たちは、大脳基底核に存在するニューロンに注目しました。脳のこの部分は、運動機能に関わる大脳皮質とつながっています。そして、ニューロン(神経細胞)は、神経系の構成要素の役割を果たしている特殊な細胞であり、外界からの情報を筋肉の動きに結びつけています。」

大脳基底核に損傷を受けた患者は、運動能力に深刻な影響を受け、コーヒーカップを持ったり、上着を着たりといった日常的に行う「手を伸ばしてつかむ」動作が困難になることがあります。

「これらの大脳基底核にあるニューロンへの支障がパーキンソン病やハンチントン病のような疾患の発症に関与していることは分かっていますが、その背後にあるからくりは正しく把握できていません」とアーバスノット教授は説明します。

このような疾患に関与しているニューロンは線条体の有棘投射ニューロンであり、円滑な運動機能に寄与する神経細胞の大きな集団です。線条体から大脳基底核のほかの領域へ直接情報を送信する線条体のD1直接路出力ニューロンと、大脳基底核の他の領域を経由して長い情報伝達経路をとるD2間接路出力ニューロンの2種類があります。人の行動に応じて、これら2種類のニューロンの集団の大小や比率が変わってきます。1種類のニューロンしか持たない集団も例外としてあるものの、ほとんどの集団はD1とD2の両方のニューロンで構成されています。このように、2種類の異なるタイプのニューロンが共に働くダイナミックなシステムなのです。これまでの研究によると、運動を伴うタスクでは、D1ニューロンが「開始」信号を出すのに対し、D2ニューロンは「停止」信号を出すことが示されています。本研究では、この理論を検証するために、2種類のニューロンの活動にそれぞれ変化を加えることにしました。

実験を実行するにあたり、マウスが飼育箱の開口部を介してチョコレート味の固形餌に手を伸ばしてつかむように訓練しました。マウスが餌を入手できなかった場合を、3タイプのいずれかに分類しました。マウスが飼育箱の開口部から手を入れることができなかった場合を 「開始」エラー、マウスの手が開口部を通った後に餌とは違った場所に到達した場合を「終了」エラー、そして、マウスの手が餌に届いたものの、つかむことができなかった場合を「つかみ」エラーとしました。

D1ニューロンとD2ニューロンの両方が正常に機能しているマウスがこのタスクを行うよう訓練したところ、失敗の最も多い原因はつかみエラーで、半分以上を占めていました。そこで研究者らは、光遺伝学的な方法を用いて、D1ニューロンとD2ニューロンのどちらかを光によって興奮させたり、抑制したりできるようにしました。

研究者らは、D1ニューロンの興奮と抑制の両方によって、餌入手の成功率が有意に低下し、それに比例して「開始」エラーによる失敗数が増加したことを発見しました。

一方、D2ニューロンの興奮によっても成功率が大幅に低下しましたが、それに比例して増加したのは「終了」エラーの方でした。

興味深いことは、D2ニューロンを阻害することによって、餌入手の成功率が上昇したということです。

アーバスノット教授は次のように説明します。「このようなことが起こった原因として、さまざまな可能性が考えられますが、思い描いてみてください。いまから自分が行おうとする行動に必要な情報量が、ある領域のD2ニューロンより構成される少ない細胞集団による情報伝達で十分完結すると考えます。もしその領域内のすべてのD2ニューロンから情報を発信させると、小さな集団から発信される情報は、同じ領域内に存在する他の数多くのD2ニューロンから発信される情報によりかき消されてしまうかもしれませんが、それら数多くのD2ニューロンの情報発信を抑制すると、小さな集団によるニューロンからの情報が明快になり、結果としてマウスの行動を効果的に導くことができます。」

研究の結果、いかなる動作においても、運動が円滑に機能するためには、D1、D2両タイプのニューロンが必要であることが判明しました。マウスは、D1ニューロンがなければ動作の開始段階で困難を経験し、D2ニューロンが正常に機能していなければ、ほとんどの場合、餌を手にすることができませんでした。しかし、この研究は、開始と停止の理論を裏付けるものとはなりませんでした。D1ニューロンは餌に手を伸ばす動作の開始部分を行うために必要であることは判明しましたが、D2ニューロンは、タスクを停止するためではなく、実際には餌に向かって手を伸ばすために必要であることが明らかになったのです。

「この研究は、私たちの脳がどのように機能するのかをより深く理解するのに役立ち、いつか神経変性疾患の治療法を発見することを可能にする研究へ多大に貢献するものです。パーキンソン病では、症状の改善には成功していますが、病気の根源を知る必要があります。それまでに、ニューロンが運動制御にどのように関わっているかを理解することは、患者さん達が日常的に直面する問題を解決する糸口となるでしょう。」と、アーバスノット教授は締めくくっています。

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