1.背景
腹部大動脈瘤は一旦破裂すると50%以上の患者が死亡に至る致命的な病気ですが、通常は破裂するまで症状がなく、破裂する前に外科的治療(人工血管に置き換える・血管内からステント付人工血管を入れ込む)が必要です。瘤の径が増大するほど、破裂の危険は高まるといわれています。
緑茶ポリフェノールは、抗炎症作用や抗酸化作用などの多様な生理作用により、がんや心血管疾患などの予防効果があることが報告されています。このたび研究グループは、緑茶ポリフェノールの摂取による腹部大動脈瘤の増大予防効果について検討しました。
2.研究手法・成果
研究グループはラットを2群に分け、1群には飲料水を、もう1群には緑茶ポリフェノール(ガレート型カテキン)を飲料水に混ぜて2週間投与しました。その後エラスターゼ(タンパク分解酵素)などを腹部大動脈に投与し、ラットの腹部大動脈瘤モデルを作成しました。モデル作成後4週間観察した結果、緑茶ポリフェノール投与群では飲料水群に比べ、腹部大動脈瘤の径の増大が抑えられることを確認しました。さらに、大動脈壁の主要な構成タンパク質であるエラスチンの合成が緑茶ポリフェノール群において促進していることがわかりました。つまり、大動脈瘤が破裂しづらくなったといえます。また、緑茶ポリフェノール群では、大動脈瘤の増大に悪影響を及ぼすとされている炎症反応が抑えられていることがわかりました。肝障害などの副作用は、本実験で使用した緑茶ポリフェノールの濃度では起こりませんでした。
3.波及効果、今後の予定
本研究成果は、特に日本では日常的に愛飲されている緑茶のもつ潜在的な健康寿命延伸への貢献の可能性を示しています。無症状ということで治療がしにくく、かつ一旦破裂すると致命的になりうる腹部大動脈瘤に対する緑茶ポリフェノールによる増大予防効果を示した本研究成果は、公衆衛生上あるいは疫学上も興味深いと考えられます。
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Journal
Journal of Vascular Surgery