News Release

新しい「壺型」ナノ炭素物質を開発

AIE社が注目すべき論文として紹介)

Business Announcement

Kumamoto University

Transmission Electron Microscope Image of Carbon Nanopots

image: Carbon nanopots are made of several different laminated graphene layer structures as labeled by the yellow text. The magnified image (inset) reveals the area indicated by the dashed line in the main image. The numerical value in the inset is the average value of layer spacing, and the arrows indicate graphene edges exposed on the outer surface of the body. Journal of Materials Research31((1): 117-126, 14-Jan-2016, doi:10.1557/jmr.2015.389. Copyright: Materials Research Society view more 

Credit: Dr. Eng. Hiroyuki Yokoi

(概要説明)

・ 熊本大学大学院先端科学研究部の横井裕之准教授らの研究グループが、壺の形状をもつ新規のナノ炭素物質(※1)「カーボンナノポット」を開発しました。この物質には、従来のナノ炭素物質より数倍奥深い中空の微小な穴が開いていて、中に入り込んだ物質を徐々に放出するような特性が格段に優れていると考えられるため、ドラッグデリバリーシステムといった薬剤効果調節への応用が期待されます。また、部分的に親水性をもつことが示唆されていて、新しいナノ材料プロセスの開発につながる可能性があります。本研究成果は、本年1月に米国材料学会ジャーナル誌にInvited Feature Paperとして掲載され、7月9日にはカナダの研究成果リサーチ会社Advances in Engineering(AIE)からKey Scientific Articleに選ばれてAIE社のWebサイトに掲載されました。

(説明)

 炭素は軽くて結合力が強く、どこにでも豊富に存在して、環境にも優しい元素です。そのため、炭素系材料の活躍の場は今後の環境調和型社会においてますます広がっていくと期待されます。近年ナノ炭素物質の開発が精力的に進められて、フラーレン(※2)やカーボンナノチューブ(※3)、グラフェン(※4)などに代表されるように、構造がバラエティーに富んでいるだけでなく、特性も既存物質を凌駕するナノ構造物質が見出されてきました。

容器型のナノ炭素物質としてはナノベルという物質が開発されましたが、穴のアスペクト比(奥行き/直径)はせいぜい3程度の深さに留まっていました。今回、横井准教授らは、液面下化学気相析出法(※5、図1)という独自開発の合成法を用いて、アスペクト比が10程度の奥深い穴を持つ容器型ナノ炭素物質の開発に成功しました。このアスペクト比を高めたことにより、ドラッグデリバリの担体(薬剤などを吸着させて体内に運ぶための土台)などへの実用性向上が期待されます。また、開発された物質は、単に奥深い穴を持つだけでなく、「壺」の底部、胴部、首部に相当する部分でグラフェンの積層構造が異なっている複雑な形態をしていて、胴部の外表面にはグラフェンの端が密集していることが分かりました(図2)。これらの特徴は既存物質に見られないものであるため、横井准教授らはこの物質をカーボンナノポットと命名しました。

 カーボンナノポットの典型的な寸法は、外径が20~40 nm、内径が5~30 nm、長さが100~200 nmであり、生成時のカーボンナノポットはファイバー(繊維)状に連結していて(図3)、ファイバーの長さは20~100 mに達します。そのため、カーボンナノポットはカーボンナノファイバーとしても利用可能です。また、連結部では片方のナノポットの底部がもう一方のナノポットの開口部にはまっているだけであってグラフェン層はつながっていないので、ナノポット単体に分離することも可能です。

 さらに、表面分析を詳しく行ったところ、カーボンナノポットの胴部外表面に密集しているグラフェン端にはヒドロキシル基(※6)が結合していることを示唆する結果が得られました(図3の構造模式図)。グラフェン層の表面は疎水的ですが、ヒドロキシル基が胴部外表面に密集していれば、その部分は親水的になります。そのため、カーボンナノポットは疎水性と親水性の二つの特質(両親媒性)をもつユニークなナノ物質である可能性があります。現在その確証を得るためにさらに高度な表面分析に取り組んでいるところです。

 Advances in Engineering(AIE)社は、科学的に特に優れた信頼できる論文に脚光を当てて幅広い科学技術分野の読者にタイムリーに研究成果を紹介している、2005年にカナダで設立されたリサーチ会社です。AIEによれば、同社のWebサイト(https://advanceseng.com/)は技術者や大学教員、研究者に毎月ほぼ45万回閲覧され、主要な研究機関ばかりでなく上位50の技術系会社にリンクされています。今回、横井准教授らの論文がAIE社からKey Sciencific Articleと認定されたことは、新規に開発されたカーボンナノポットが実用的・応用的に大いに期待される物質であることを示しています。

【用語解説】

※1ナノ炭素物質:炭素原子のみで構成されるナノメートルサイズ(1nmは10億分の1m)の物質。

※2フラーレン:炭素原子が五角形または六角形の網目状に結合して閉じた殻の形になっている中空の物質の総称。炭素原子60個で構成されるフラーレンC60はサッカーボール状の形をしている。

※3カーボンナノチューブ:炭素原子が六角形の網目状に結合して筒状になった物質の総称。六角形の網目を筒状に丸める向きや直径の違いなどにより、半導体になるものや金属になるものがある。電子デバイス材料としても構造材料としても期待されている。

※4グラフェン:炭素原子が六角形の網目を組んで平面的に結合したシート状物質。黒鉛(グラファイト)はグラフェンが多数積み重なってできている。電気伝導性、熱伝導性、機械的強度ともに既存物質の中でトップクラスである。

※5液面下化学気相析出法:化学気相析出法は、反応容器内で加熱した基板上に原料ガスを供給して、基板表面あるいは気相での化学反応により基板上に生成物を得る方法。液面下化学気相析出法は2009年に横井准教授が開発した新しい化学気相析出法。ナノ炭素物質の原料となる有機液体中に、底面を開放した反応容器(図1)を沈めることにより、反応容器内を気相に保ちつつ、有機液体の気化により原料ガスを反応容器の底面から基板上に供給できるようにした。反応容器全体が有機液体により冷却されて反応容器内に高い温度勾配が生じるため、新規構造をもつ物質の生成に有利となる。

【お問い合わせ先】

熊本大学大学院先端科学研究部(工学系)物質材料科学部門

担当:准教授 横井 裕之

電話:096-342-3727

e-mail: yokoihr@kumamoto-u.ac.jp

※6ヒドロキシル基:水酸基。化学構造におけるOHの基で、この基を持つ物質は水素結合により親水性を示す。

本研究はJSPS科研費JP24510153の助成ならびにJST、CRESTの支援を受けたものです。

<論文名>

Novel pot-shaped carbon nanomaterial synthesized in a submarine-style substrate heating CVD method

<著者名・所属>

横井裕之1*、畠山一翔2、谷口貴章2†、鯉沼陸央2、原正大3、松本泰道2‡

1熊本大学大学院先端科学研究部(工学系)機能材料設計学分野

2熊本大学大学院先端科学研究部(工学系)物理化学分野

3熊本大学大学院先端科学研究部(理学系)物理科学分野

*論文の筆頭・責任著者

†現 物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点

‡現 熊本大学理事

<掲載雑誌>

Journal of Materials Research, vol.31, pp.117-126 (2016).

<熊本大学学術リポジトリ>

http://hdl.handle.net/2298/34681

<Advances in Engineering, Key Scientific Article掲載記事URL>

https://advanceseng.com/nanotechnology-engineering/novel-pot-shaped-carbon-nanomaterial-synthesized-submarine-style-substrate-heating-cvd-method/


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