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植物の雄と雌が出会うための受容体を発見 ~受精の仕組みの解明と、食料生産の効率化に期待~

Institute of Transformative Bio-Molecules (ITbM), Nagoya University

JST戦略的創造研究推進事業において、ERATO東山ライブホロニクスプロジェクトの東山 哲也 研究総括(名古屋大学 WPI トランスフォーマティブ生命分子研究所 教授)と光技術グループの武内 秀憲 博士研究員(現所属:オーストリア グレゴール・メンデル研究所)らは、被子植物の雄である花粉管が、雌である卵細胞を見つけるために用いる受容体キナーゼを発見しました。

花粉管は、自身を伸長させることで雌しべの中を進み、卵細胞を含む雌しべの奥深くの最終目的地まで精細胞を運ぶという、受精するための重要な役目を担っています。東山教授らは、花粉管を誘導するために雌しべが分泌する誘引物質「ルアー」を発見し、ルアーが植物の種類によって異なり、同種の花粉管のみを呼び寄せることを明らかにしてきました。しかし、花粉管がルアーを感知する仕組みは分かっていませんでした。

本研究では、シロイヌナズナの花粉管の先端部分で、ルアーを感知する受容体を発見しました。この受容体は、他のよく似た複数の受容体と協調して働くことで、雌しべ組織からのシグナルを正確に感知していることも分かりました。これらの受容体キナーゼが雌しべのさまざまなシグナルを受け取ることで、ルアーを感知できる距離まで花粉管を伸長させ、花粉管は雌しべの中を目的地まで迷わずに進んでいることを明らかにしました。

本研究成果は、植物が同種間で受精するための仕組みの全容解明に大きな前進をもたらしました。発見した受容体の研究が進めば、受精効率を操作して種子生産の効率を高める技術や、異種間受精を容易にする手法の開発につながると期待されます。

本研究成果は、2016年3月10日に英国科学誌「Nature(ネイチャー)」に掲載されました。

研究の内容:

<研究の背景と経緯>

私たちが普段食べている米や大豆は植物の種子です。野菜も種子から成長することで収穫できるようになります。植物が種子を生産するためには、雄と雌が出会い、受精に成功する必要があります。 被子植物の雄は、花粉とその内部に含まれる精細胞からなっています。花粉は管状の単一細胞からなる花粉管へと発達し、その先端部分を伸長させることで雌しべの中を進んでいきます(図1A)。 花粉管は最終的に卵細胞を含む雌しべの奥深くの目的地まで到達し、精細胞を卵細胞へと受け渡すことで受精が達成されます。 このように、花粉管が迷うことなく卵細胞を見つけていることが、私たちの食料生産を支えているといえるかもしれません。雄と雌が迷わずに出会うという神秘的で重要な現象ですが、その仕組みは多くの謎に包まれています。

2009年に東山教授らは、卵細胞の隣にある助細胞が花粉管を誘導するために分泌する誘引物質「ルアー」をトレニアで発見しました。 2012年には、シロイヌナズナでもルアーを発見し、ルアーは植物の種類によって少しずつ異なり、他種の花粉管ではなく同種の花粉管を呼び寄せることで、同種間での正常な受精が保証されていることも明らかにしました(図1B)。 ルアーこそが、雄を呼び寄せるために雌が分泌している鍵因子であることが分かりました。 一方で、花粉管がどのようにルアーを感知しているのか、どのようにルアーを感知できる距離まで進んでいるのか、伸長や誘引に関わる花粉管側の仕組みはほとんど知られていなかったため、ルアーを認識する花粉管側の鍵因子を一から発見する必要がありました。

<研究の内容>

 モデル植物であるアブラナ科のシロイヌナズナを用いて、ルアーを感知する花粉管側の鍵因子を探索しました。ルアーを感知する鍵因子候補として、花粉管の膜表面に局在する受容体キナーゼが考えられました。 候補とした23個それぞれの受容体キナーゼの機能が損なわれた花粉管に対して、ルアーを用いたバイオアッセイを行いました。 その結果、ルアーの感知に必要不可欠な受容体PRK6を発見することに成功しました(図2)。

PRK6には他に、花粉と花粉管だけで働く、アミノ酸配列がよく似たファミリーの受容体が複数存在します。 そこで、他の複数のPRK受容体の機能を損なわせたところ、PRK受容体の組み合わせにより花粉管がルアーに反応しにくくなったり、花粉管の伸長が悪くなったりしました。 これは、雌しべからのシグナルがPRK受容体に作用することで花粉管の伸長が促進されるという過去の他の研究グループの報告とも一致する結果です。 このことから、ルアーの感知だけでなく、花粉管がルアーを感知できる距離まで効率的に伸長するためにも、PRK6とその他のPRK受容体が協調して働いていることが分かりました。

次に、PRK6が花粉管の細胞内にどのようなシグナルを伝えることで、ルアーに反応しているのかを調べました。 花粉管が真っすぐ伸長している時、細胞膜上のPRK6は左右均等に局在しています。 花粉管先端で蛍光標識したPRK6をイメージング解析したところ、ルアーを与えると、ルアーの側の細胞膜上にPRK6が集まり、集まった方向に花粉管が伸長方向を変えていく様子が観察されました(図3)。 このことから、PRK6が花粉管の伸長に重要な因子群をルアーの方向に集めることで、ルアーに向かって伸長していくという仕組みが考えられました。

花粉管の誘引は同種間だけで働く仕組みです。 シロイヌナズナと同じアブラナ科のナズナ(ぺんぺん草)に対してシロイヌナズナのルアーを用いたバイオアッセイを行ったところ、通常のナズナはシロイヌナズナのルアーに反応しませんでした。 そこで、ナズナの花粉管にシロイヌナズナのPRK6の遺伝子を導入して同様に実験しました。 興味深いことに、遺伝子の導入によりシロイヌナズナのPRK6を発現するようになったナズナの花粉管はシロイヌナズナのルアーに応答できるようになりました(図4)。 PRK6受容体が同種のルアーを認識する鍵因子であることが分かりました。

 本研究の成果を以下にまとめました。

1) 花粉管が誘引物質ルアーを感知するのに必要不可欠な受容体を世界で初めて発見しました。

2) 複数のPRK受容体が協調して働くことで、雌しべ組織からのさまざまなシグナルを受け取り、ルアーを感知できる距離まで花粉管を伸長させていることを明らかにしました。

3) 同種に対して働くシロイヌナズナのルアーをPRK6が中心となって感知していることを示しました。

<今後の展開>

植物の雄しべを雌しべに受粉させると種子ができることは紀元前から知られている身近な現象で、農業にも重要な仕組みです。 また、花粉管が雌しべ組織に誘導されることは100年以上も昔に発見されており、花粉管を伸長させること自体は容易にできるため、現在では中高校生の実験課題にもなっています。 世界的には、誘引物質ルアーが発見されたことで、その受容と応答の仕組みの解明が待たれていました。 本研究で花粉管の伸長とルアーの感知を担う花粉管側の鍵因子を発見したことで、花粉管の効率的な伸長とルアーに反応するための仕組みの一端が明らかとなりました。 PRKファミリー受容体に着目した今後の研究で、花粉管の効率的な伸長や同種のルアーの感知による受精の仕組みの全容解明が期待されます。

また、本研究では、PRK6受容体の遺伝子導入により異種の花粉管を誘引できることが分かりました。 この知見を生かして研究を進めれば、異種間受精を可能とする方法の開発につながるかもしれません。 さらに、受容体は一般的にさまざまな薬剤の標的となり得ます。 PRK受容体を標的とした薬剤を探索することで、受精効率を操作して種子生産の効率を高めたり異種間受精を容易にしたりするような薬剤の開発が期待できます。

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論文情報:

"Tip-localized receptors control pollen tube growth and LURE sensing in Arabidopsis" by Hidenori Takeuchi and Tetsuya Higashiyama, is published online on March 10, 2016 in Nature.

DOI: 10.1038/nature17413

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