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2種類のナノファイバーを自発的に構築する 分子ペアの発見と形成過程のその場観察

次世代インテリジェント材料開発へのマイルストーン

Kyoto University

<研究の背景と経緯>

 細胞内は、様々なタンパク質や小分子などが混在した雑多な環境にあります。そのような環境にありながら、特定のタンパク質は自己と同じ種類のタンパク質を認識し、自己組織化注1)して、タンパク質ごとに種類と性質の異なる構造体を形成することが可能です。このような現象を『self-sorting(自己識別)』と言います。self-sorting現象は細胞機能の根幹を担う重要な現象です。例えば、細胞中でタンパク質はself-sortingによってアクチンや中間径フィラメントなどのナノファイバー(ナノサイズの直径を有する繊維構造体)を正しく構築し、細胞形状の保持や周囲の環境に適応して起こる細胞遊走などにおいて重要な役割を果たしています。  

人工合成される小分子においても、self-sorting現象を制御し、様々な異なる性質を持ったナノファイバーを複合することができれば、次世代のインテリジェントな材料の開発が期待できます。しかしながら、天然のタンパク質とは異なり、合成分子は水中で色々な分子と勝手に相互作用しやすいため、混ざり合いやすく、self-sortingによる種類の異なるナノファイバーを同時に形成させることはこれまで不可能でした。また、self-sorting過程をその場で直接観察できる方法がなく、合成分子におけるself-sorting現象の理解とそれを活用した材料設計は極めて困難でした。

<研究の内容>

 本研究グループでは、これまでに合成分子の自己組織化によって形成するナノファイバーの開発および機能化に関する研究に取り組んできました。(図1a)。

 本研究では、これまでの構造解析データから得られた幾つかの分子間の相互作用様式の違いを基に合理的な仮説をたて、self-sortingして性質の異なる2種類のナノファイバーを自発的に形成するペアを発見しました(図1b,c)。さらに、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、それぞれのナノファイバーの物性や形成過程の違いを、その場観察(イメージング)することに成功しました。本研究は、self-sorting現象への深遠な理解を促すだけでなく、複数種の構成要素からなる自己組織化分子を基盤とした多機能な材料の創出への手がかりとなる大きな前進です。究極的には細胞のように、環境や刺激に自律的に応答して機能を発現・調節するようなインテリジェント材料やシステムの創出へと展開していくことが期待されます。

(1)Self-sortingによって2種類のナノファイバーを形成する分子ペアの発見

 自己組織化の駆動力注2)が異なる分子ペアを用いることで、合成分子でのself-sortingによる性質の異なる2種類のナノファイバーの構築に成功しました。

 水中で合成分子は同種、異種を問わずに相互作用しやすく、ほとんどが混合して自己組織化構造を形成してしまいます。そのため、合成分子が水中でself-sortingして2種類のナノファイバーを形成した例は、ほとんど報告されていませんでした。我々は自己組織化(ナノファイバー形成)の駆動力が異なる分子ペアを用いることで、人工分子によるself-sortingが実現できると考えました。そのような分子ペアの候補として、ペプチド型分子と脂質型分子に着目しました(図1c)。これらの分子ペアを検討した結果、特定のペプチド型分子(BPmoc-F3)と脂質型分子(Phos-cycC6)がself-sortingして2種類のナノファイバーを形成することを見出しました(図1b, c)。自己組織化駆動力が異なる分子ペアが、水中でself-sortingして複数のナノファイバーを構築できることを初めて実証しました。今後、この分子設計指針を基盤として自己組織化マテリアルの複合による高機能化が発展し、高次なインテリジェント材料の開発が加速すると期待されます。

(2)水中におけるナノファイバーのその場観察と物性評価

 本研究では、各ファイバーを選択的に色付けして光らせることが可能なプローブ分子(図1c)を開発し、共焦点レーザー顕微鏡を駆使することにより、2種類の異なった自己組織化ナノファイバーの3次元構造のその場観察(イメージング)に成功しました(図2b,c)。

 自己組織化体の観察には、通常は分解能が高い電子顕微鏡や原子間力顕微鏡が多用されます。しかしながら、それらはサンプルを乾燥させる必要であるため、水中における自己組織化体の動的な物性をその場で観察して評価することは困難です。また、2種類の自己組織化ナノファイバーを見分けるのも至難の技です(図2a)。2種類のナノファイバーの物性を明らかにするためにも、ファイバーの違いを見分けてその場でイメージングできる手法の開発が必須でした。

 本研究では、今回発見した分子ペアからなる2種類の異なるナノファイバーを選択的に色付けして光らせることが可能なプローブ分子(図1C)を開発したことで、乾燥させることなくサンプルの観察を行える共焦点レーザー顕微鏡の使用が可能となり、この課題を克服しました(図2,3)。さらに、各ナノファイバーの化学刺激応答性や光褪色後蛍光回復法(FRAP) 注3)による流動性の評価(図3)にも成功し、2つの自己組織化ナノファイバーの物性はself-sortingして形成した場合と、単成分のみで形成させた場合で変化していないことが示されました。

(3)Self-sortingによるナノファイバー形成プロセスのリアルタイム観察

 共焦点レーザー顕微鏡を用いて、self-sortingしながら2種類の異なったナノファイバーを自発的に形成するプロセスをリアルタイムにイメージングすることに成功しました(図4c)。

 従来、分光学的な手法によって自己組織化プロセスが検討されてきました。それらは非常に有力な手法ですが、得られるデータは間接的な情報であり、数多くのファイバーのデータが平均化されたものです。そのため、個々の集合体の自己組織化プロセスを直接解析することは不可能でした。直接的な観察が可能である顕微鏡を用いても、前述したように電子顕微鏡などは、乾燥操作が必要であるために自己組織化の過程をその場観察する術がありませんでした。self-sorting現象を深く理解するために、水中でリアルタイムイメージングできる手法が求められてきました。

 まず、BPmoc-F3ナノファイバーの形成メカニズムを分光学的な分析によって解析した結果、核形成と伸長を伴う機構でナノファイバーが形成されることが強く示唆されました。この機構では、ナノファイバーの『種』の形成が、成長に大きな影響を及ぼします。実際に、『種』の有無によるナノファイバーの成長過程の違いを、今回開発した手法でその場でリアルタイムに観察(イメージング)した結果、ナノファイバーの形成速度に大きな違いがあることを直接的に実証することに成功しました(図4a,b)。さらに、この形成機構は2種類のファイバーがself-sortingする場合にも維持されることが分かりました(図4c)。また、『種』自身は成長が進むナノファイバー領域と比較して自己認識能が低く、分子同士が混ざり合ってしまう、という分光学的手法で得られる平均値の分析では捉えることのできない新たな現象も発見しました(図4c)。これらの結果は、self-sorting現象を含む分子の自己組織化についての深遠な理解に繋がるものと期待されます。

<今後の展開>

 合成分子のself-sortingによる2種類のナノファイバーの構築は、自己組織化マテリアルの複合による高機能材料の開発への第一歩です。本研究で得られた指針をもとに、様々な分子の組み合わせが検討され、次世代のインテリジェント材料の創出に繋がるものと考えられます。究極的には細胞のように、環境や刺激に応じて自律的に考えて物性を変化させる、新たな機能材料への発展が期待されます。しかも、それらは材料となる分子を混ぜて、加熱と冷却を行うだけの非常に簡単なプロセスで出来上がる可能性があります。  

さらに、本研究では従来解析困難であった複数の合成分子が存在する環境での自己組織化プロセスを観察できる新たなイメージング手法を示し、動態の観察に成功しました。本手法を駆使することで、合成分子の自己組織化に関する深遠な理解が進むことが期待できます。そのような知見はマテリアルに関する研究のみならず、生物における自己組織化現象の理解と制御についても有用な情報を与えるため、多様な分野へ影響を及ぼすと考えられます。

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