Public Release: 

コケ植物の葉緑体に「壁」を発見

Kumamoto University

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IMAGE: Reconstructed three-dimensional confocal micrographs showing fluorescence in the moss chloroplast caused by (left) the binding of Alexa Fluor 488 to D-Ala-D-Ala revealing a peptidoglycan 'wall' and (middle) chlorophyll autofluorescence. The... view more

Credit: Professor Hiroyoshi Takano

(概要説明)

  • 緑色植物の光合成の場である葉緑体は二重の包膜*1のみで囲まれていると、どの教科書にも書いてありますが、今回、我々はコケ植物を用いて高感度なペプチドグリカン*2検出システムを使い、今まで電子顕微鏡でも観察できなかった、葉緑体を覆うペプチドグリカン「壁」を可視化することに成功しました。コケ植物における葉緑体の「壁」は、葉緑体の形態・分裂機構や光合成物質の輸送に関係するだけでなく、植物の進化にも大きく関わっている可能性があります。今回の発見は、教科書に載っている今までの一般的な葉緑体構造の記述について、その変更を迫るものです。

(研究の背景と内容の説明)

 

熊本大学大学院先端科学研究部・パルスパワー科学研究所併任の高野博嘉教授、同研究部武智克彰准教授らの研究グループは、同研究部石川勇人准教授や当時九州大学の大島・河原林教授等との共同研究として、世界で初めて緑色植物の葉緑体に存在するペプチドグリカンの可視化に成功し、コケ植物の葉緑体がペプチドグリカン「壁」で覆われていることを明らかにしました。

 

葉緑体は植物の細胞の中で光合成を行う細胞小器官*3で、原始真核細胞に細胞内共生したシアノバクテリア(藍藻)から進化したことが現在ではほぼ認められています。祖先がバクテリア(細菌)であったことから、葉緑体は細胞内でも分裂によってのみ、増殖することができます。藍藻は細胞壁の構成要素としてペプチドグリカン層を持ちますが、その子孫である緑色植物の葉緑体ではペプチドグリカン層が観察できないことから、ペプチドグリカンは進化の過程で消失し、現在の葉緑体は二重の包膜のみで覆われていると考えられてきました(図1)。

今回、我々は高感度なペプチドグリカン検出システムを用いることで、今まで電子顕微鏡でも観察できなかったコケ植物の葉緑体を覆うペプチドグリカン層を可視化しました。この実験には、ペプチドグリカンでD体のアミノ酸*4を含むD-アラニル-D-アラニン*5が特異的に使用されていることを利用しました。

まず、このD-アラニル-D-アラニンを合成する酵素の遺伝子をコケ植物セン類のヒメツリガネゴケから見出し、この遺伝子配列を決定しました。ついで、この遺伝子が機能できなくなった遺伝子組み換え植物を実験室内で作製したところ、この変異植物では葉緑体の分裂ができなくなっており、巨大な葉緑体が出現することを見出しました。この変異植物体をD-アラニル-D-アラニンを加えて生育させると、巨大葉緑体が分裂を開始することから、コケ植物はD体のアミノ酸を葉緑体分裂に使用していることが明らかとなりました。更に、D-アラニル-D-アラニンの巨大葉緑体形質を抑える処理をしたのちに、クリック反応*6と呼ばれる反応で蛍光物質を結合させ、蛍光顕微鏡下で観察することにより、葉緑体のペプチドグリカン「壁」の可視化に成功しました(図2)。

葉緑体の「壁」構造は、葉緑体分裂や葉緑体形態に関係するだけでなく、光合成物質の輸送にも関わるものと思われます。この「壁」構造は、被子植物では消失していると考えられますが、今回の発見は、教科書に載っている今までの一般的な葉緑体構造の記述について、その変更を迫るものです。

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用語解説

*1 包膜:葉緑体は2重の膜(脂質二重層)で囲まれており、これを包膜と呼んでいる。

*2 ペプチドグリカン:細菌の細胞壁を構成する高分子物質。多糖(グリカン)鎖が、アミノ酸が4-5個重合したペプチド側鎖間の結合により架橋した網目状構造を持つ。

*3 細胞小器官:細胞の中で特に分化した形態や機能を持つ構造体の総称。葉緑体の他に、核やミトコンドリア、ゴルジ体、リソソームなど。

*4 D体のアミノ酸:ペプチドやタンパク質を構成する要素であるアミノ酸には一般的にL体とD体の構造異性体(同じ数、種類の原子を持つが立体的構造が異なるもの)が存在しているが、生物は基本的にL体のアミノ酸のみを使用している。

*5 D-アラニル-D-アラニン:D体のアミノ酸であるD-アラニンが2個結合した物質

*6 クリック反応:特定の物質を結びつける手法の一つ。代表的なものとしては、アルキンとアジド化合物が付加環化反応を起こし、この二つの分子が環状構造を作って結合する化学反応

がある。近年、生物学分野でも広く使われ始めている。

論文著者・所属

Takayuki Hirano (a), Koji Tanidokoro (a), Yasuhiro Shimizu (b,1), Yutaka Kawarabayasi (b), c, Toshihisa Ohshima (d), Momo Sato (a), Shinji Tadano (a), Hayato Ishikawa (a), Susumu Takio (a, e), Katsuaki Takechi (a), and Hiroyoshi Takano (a, f,*)

a)Graduate School of Science and Technology, Kumamoto University, Kumamoto 860-8555, Japan.

b)Faculty of Agriculture, Kyushu University, Fukuoka 812-8581, Japan.

c)National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST), Amagasaki, Hyogo 661-0974, Japan.

d)Faculty of Engineering, Osaka Institute of Technology, Asahi-ku, Osaka 535-8585, Japan.

e)Center for Marine Environment Studies, Kumamoto University, Kumamoto 860-8555, Japan.

f)Institute of Pulsed Power Science, Kumamoto University, Kumamoto 860-8555, Japan

1)Present addresses: Institute for Protein Research, Osaka University, Yamadaoka, Suita-shi, Osaka 565-0871, Japan.

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