Public Release: 

イオン質量による乱流抑制のメカニズムを解明

核融合プラズマの性能向上に繋がる理論研究が大きく進展

National Institutes of Natural Sciences

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IMAGE: Simulation results which indicate that the increase in collision frequency brings about the decrease in the trapped electron instability. In a helical LHD plasma (left) as well as in a... view more

Credit: Dr. Motoki Nakata

核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)では、プラズマの更なる性能向上を目指し、平成29年3月7日から重水素を用いたプラズマ実験を開始したところです。世界各国で行われている多くのプラズマ実験では、通常の水素(軽水素)イオンの2倍の質量を持つ重水素イオンを用いることで、熱や粒子の閉じ込めが改善し、プラズマの性能が向上する現象「イオン質量効果」が観測されています。しかし、イオン質量の増大がどのようにして性能改善につながっているか、その詳しい物理メカニズムは分かっておらず、プラズマ物理・核融合研究当初からの長年にわたる最も重要な未解決問題の一つとなっています。

 磁場で閉じ込められたプラズマの中には様々な波が存在しますが、特定の条件においてはそれらが時間とともに成長する「波の不安定性」と呼ばれる現象が発生することがあり「乱流」状態となります。これまでの研究によって、プラズマの乱流中では、「ゾーナルフロー」と呼ばれる、特殊な流れの構造が自発的に形成されることが明らかになっています。ゾーナルフローは互いに逆向きの流れがいくつも連なった縞状の構造をとり、乱流を抑制する上で重要な役割を担うことが分かってきています。ところが、乱流やゾーナルフローの詳しい発生条件や物理メカニズムには未解明な部分も多く残っています。それらに対するイオン質量の違いがもたらす影響が理論的に明らかになれば、実験で観測されている閉じ込め改善現象を正確に予測し、プラズマのさらなる性能向上につなげることが可能となるため、研究の進展が大いに期待されています。

 仲田資季助教らの研究グループは、名古屋大学の渡邉智彦教授との共同研究によって、磁力線に沿って往復運動する電子(捕捉電子)によって引き起こされる不安定性(捕捉電子不安定性)とそこから発達する乱流の詳しい解析を、当研究所の「プラズマシミュレータ」や理化学研究所の「京」といった最新鋭のスーパーコンピュータを駆使した5次元プラズマ乱流シミュレーションによって行いました。その結果、密度が高い、より高性能なプラズマにおいてイオン質量の影響が顕著に現れることを明らかにすると同時に、電子とイオンの衝突が生み出す作用によって乱流が抑制されるという詳しい物理メカニズムを解明しました。また、それらの現象がヘリカル型とトカマク型で共通して存在することも発見しました。これにより、普遍的に観測されている「イオン質量効果」の解明とプラズマの高性能化の鍵を握る重要なメカニズムのひとつを突き止めることができました。

乱流の抑制のメカニズムの詳細は、以下の通りです。捕捉電子不安定性によって引き起こされた乱流はプラズマの熱や粒子の閉じ込めを劣化させますが、プラズマの中を飛び交う捕捉電子とイオンの衝突が不安定性を抑える(波の成長を抑える)働きをします。一定の温度では、衝突はより高いプラズマの密度で頻繁に生じますが、今回、この働きがイオン質量の大きい重水素プラズマでは軽水素プラズマに比べて顕著であり、その結果として、乱流が抑制されることを突き止めました(図1)。また、不安定性が弱くなった状態では、「ゾーナルフロー」がより強くなり、大きな渦や波を分断して乱流を更に抑制し、熱や粒子の閉じ込めを改善することも明らかにしました(図2)。

 以上のように明らかとなった、イオン質量が大きいプラズマにおける乱流抑制の全体像は図3のように模式的に表すことができます。これらの研究成果は、プラズマ物理・核融合研究における長年の未解決問題であった「イオン質量効果」の全容解明に向けた基盤的な知見を与えるものであり、今後の研究の進展に大きく貢献するものです。また、LHDをはじめとするヘリカル型のみならず、現在建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)に代表されるトカマク型のプラズマの高性能化にも広く役立つことが期待されます。

【用語解説】

イオン質量効果

より専門的には水素同位体質量効果と称され、プラズマを構成するイオン質量が安定性や閉じ込め性能に与える物理的影響の総称。

5次元プラズマ乱流シミュレーション

磁場で閉じ込められた高温プラズマの乱れの振る舞いは、数学的に5次元空間(粒子の3つの位置座標に速度の2成分が加わった数学的空間)の運動を表現する方程式で記述される。3次元の方程式で記述される水や空気の流動現象とは大きく異なり、プラズマが持つ複雑さや多様性を表している。スーパーコンピュータを最大限に活用して5次元の方程式を高速に解くことで、プラズマの乱流現象を解析する。核融合科学研究所では名古屋大学と共同で「GKV」というシミュレーションコードの開発を進めている。

ゾーナルフロー:

乱流から自発的に形成される流れ構造で、ある一定の間隔で流れの向きが反転している。互いに逆向きの流れが縞状にいくつも連なっていることから帯状流とも呼ばれる。熱や粒子の損失を生じる大きな渦や波をその反転した流れによって分断して抑制する効果がある。木星の縞模様を伴う大気においてもゾーナルフローが形成されている。

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