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うつ病治療の新たなメカニズムを発見!

~難治性うつ病の新たな治療薬開発に期待~

Osaka University

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IMAGE: うつ病は私たちにとって身近な病気であるが、SSRIを主とする現在の抗うつ薬治療を受けても、十分な治療効果が得られないうつ病患者は多い。 view more

Credit: 近藤誠

研究成果のポイント

  • セロトニン3型受容体が、脳の海馬のIGF-1分泌を促進することにより、海馬の新生ニューロンを増やし、抗うつ効果をもたらすという、うつ病の新たな治療メカニズムを発見
  • 現在、最も広く使用されているうつ病の治療薬「SSRI」を服用しても、十分な治療効果が得られないうつ病患者が多数存在しており、これらの「難治性」うつ病に対する新たな治療薬が必要とされていた
  • SSRIに属する抗うつ薬とは作用機序が異なるため、SSRIが効かない難治性うつ病に対する新たな治療薬の開発が期待される

概要

大阪大学 大学院医学系研究科の近藤誠 准教授、島田昌一 教授(神経細胞生物学)らの研究グループは、セロトニン3型受容体[1]が、脳の海馬のIGF-1(インスリン様成長因子-1)[2]の分泌を促進することにより、海馬の新生ニューロン[3]を増やし、抗うつ効果をもたらすという、うつ病[4]の新たな治療メカニズムを発見しました。

現在、うつ病治療には、第一選択薬として、SSRI[5]に属する抗うつ薬が最も広く使用されていますが、その寛解率[6]は半数にも及ばず、SSRIが効かない難治性うつ病に対して新たな方法や治療薬が待たれています。

今回、島田教授らのグループは、セロトニン3型受容体に注目してマウスの脳を解析し、セロトニン3型受容体を刺激すると、SSRIによる抗うつ作用とは異なる、まったく新しいメカニズムで抗うつ効果が得られることを明らかにしました。

今後、セロトニン3型受容体を標的として、SSRIが効かない難治性うつ病に対する新たな治療薬の開発が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Molecular Psychiatry (モレキュラー・サイキアトリー)」に、4月25日(火)16時(日本時間)に公開されます。

研究の背景

うつ病は、「こころの風邪」と表現されるように、私たちにとって大変身近な病気であり、またうつ病がもたらす社会的な損失は非常に大きいものがあります。現在、うつ病治療には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が第一選択薬として最も広く使用されていますが、その寛解率は半数にも満たないとされており、SSRIが効かない難治性うつ病患者を治療するための新たな方法や治療薬が必要とされていました。

動物の脳の海馬には、神経幹細胞が存在し、新しい神経細胞(ニューロン)がたえず生まれており、この現象は、海馬の神経新生と呼ばれています。そして、うつ病の治療メカニズムには、海馬の新生ニューロンが必要であることが知られています。島田教授らの研究グループは、これまでに、運動がもたらす、うつ病の予防改善効果や海馬の新生ニューロン増加には、セロトニン3型受容体が必須の働きをしていることを明らかにしています(Molecular Psychiatry 2015)。しかし、海馬の神経新生やうつ病の治療メカニズムにおける、セロトニン3型受容体の詳細な働きについては、明らかではありませんでした。今回、同研究グループは、さらにセロトニン3型受容体の働きに着目し、マウスを用いて、セロトニン3型受容体と、海馬の神経新生やうつ行動との関連について詳しく解析し、うつ病の治療メカニズムの解明を試みました。

研究の成果

研究グループは、マウスの脳を解析し、海馬において、セロトニン3型受容体を発現する神経細胞が、IGF-1を産生していることを新たに発見しました。さらに、セロトニン3型受容体を刺激する薬物(セロトニン3型受容体アゴニスト[7])をマウスに投与すると、海馬のIGF-1分泌が増加することを明らかにし、セロトニン3型受容体が海馬のIGF-1分泌を制御していることを新たに見出しました。

さらに、セロトニン3型受容体アゴニストが、海馬の新生ニューロンやうつ行動に与える影響を解析しました。その結果、セロトニン3型受容体アゴニストは、海馬のIGF-1分泌を促進することによって、神経幹細胞の分裂を促進して新生ニューロンを増やし、抗うつ効果をもたらすことを明らかにしました。このメカニズムは、SSRIを投与した時には見られない現象であり、SSRIによる抗うつ作用とは異なる、新しいうつ病治療のメカニズムです。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、SSRIが効かない難治性うつ病に対して、セロトニン3型受容体を標的とした新たな治療薬の開発につながることが期待されます。さらに、セロトニン3型受容体アゴニストは、SSRIとは異なるメカニズムで海馬の新生ニューロンを増加させ、抗うつ効果をもたらすことから、SSRIと併用することでも相乗的なうつ病治療効果をもたらし、うつ病の寛解率を上げる可能性が期待されます。

特記事項

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業JP16K19764の助成を受け実施されました。

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用語説明

※1 セロトニン3型受容体

セロトニンは、動物の情動に関わる脳内の神経伝達物質の1つで、うつ病などの精神疾患の病態に関わっていると考えられている。セロトニンが結合し、セロトニンの刺激を受け取る部位をセロトニン受容体と呼び、現在、セロトニン受容体は、1型~7型受容体までの7種類に分類されている。セロトニン3型受容体は、その1つであるが、これまでの研究実績が少なく、特に脳における機能に不明な部分が多く、詳しい働きは分かっていなかった。

※2 IGF-1 (Insulin-like growth factor-1;インスリン様成長因子-1)

脳や肝臓などで産生される成長因子で、神経、筋肉、骨など多くの細胞に作用し、細胞の分裂・増殖、成長や発達に関わっている。IGF-1は、脳の海馬においても産生されており、神経幹細胞に作用し、神経新生を促進することが知られている。さらにIGF-1には、抗うつ効果があることが報告されており、近年注目されている成長因子の1つである。

※3 海馬の新生ニューロン

成体の脳では神経細胞は増えないと考えられていたが、脳の海馬には、神経幹細胞が存在しており、分裂することにより、新しい神経細胞(ニューロン)が生み出されている。この現象は神経新生と呼ばれており、海馬の新生ニューロンは、うつ病や認知症などの精神神経疾患の病態や治療メカニズムと密接な関係があることが知られている。

※4 うつ病

うつ病は、抑うつ気分(気分の落ち込み)、意欲低下(興味や喜びの喪失)、思考力や集中力の低下、食欲や睡眠の障害に加えて、罪責感、自殺念慮(死にたい気持ち)など様々な症状を呈する精神疾患である。私たちにとって大変身近な疾患であり、一生のうちにおよそ10人に1人がうつ病を経験するとされる。

※5 SSRI (Serotonin selective reuptake inhibitor; 選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

現在、うつ病治療に、第一選択薬として全世界で最も広く使用されている種類の抗うつ薬である。しかし、その寛解率(※6)は半数にも満たないとされており、SSRIが効かない難治性うつ病患者が少なくないことが大きな問題となっている。

※6 寛解

病気の症状が一時的あるいは継続的に軽減し、安定した状態のこと。

※7 セロトニン3型受容体アゴニスト

アゴニストとは、生体内の受容体に結合し、神経伝達物質やホルモンなどと同様の作用をもたらす薬物のこと。セロトニン3型受容体アゴニストは、セロトニン3型受容体(※1)に選択的に結合し、作用する薬物である。

【研究者のコメント】 <近藤准教授>  

うつ病は、一生のうちにおよそ10人に1人が経験する、大変身近な病気です。しかし、現在最も広く使用されている治療薬のSSRIを服用しても、十分な治療効果が得られていない難治性うつ病患者は少なくありません。私たちの発見した、うつ病治療の新たなメカニズムは、SSRIを投与した時には見られない現象であり、SSRIがもたらす抗うつ作用とは異なるメカニズムであることから、SSRIが効かない難治性うつ病の患者さんに対する、新たな治療薬の開発に役立つ可能性が期待されます。

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