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「乳児期のエピゲノム記憶が成人期の肥満に関連する仕組みを解明」

~FGF21遺伝子のDNA脱メチル化が進むと、将来肥満になりにくい可能性〜

Tokyo Medical and Dental University

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IMAGE: This is DNA methylation status of Fgf21, once established in early life, affects obesity in adulthood. view more 

Credit: Department of Molecular Endocrinology and Metabolism

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子細胞代謝学分野および九州大学大学院医学研究院病態制御内科学分野(第三内科)の小川佳宏教授と東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科メタボ先制医療講座の橋本貢士寄附講座准教授の研究グループは、筑波大学医学医療系の島野 仁教授ら、森永乳業などとの共同研究により、乳児期の母乳成分により、糖脂質代謝改善作用を有するFibroblast growth factor 21(FGF21)の遺伝子がDNA脱メチル化を受けること、一旦確立したDNAメチル化状態が長期間、記憶・維持(エピゲノム記憶)されて成獣期の肥満の発症に関連することを明らかにしました。本研究は文部科学省科学研究費補助金ならびにセコム科学技術振興財団、武田科学振興財団、内藤記念科学振興財団および牛乳乳製品科学健康会議の支援を受けたものであり、その研究成果は、国際科学誌Nature Communications(ネイチャー コミュニケーションズ)に、2018年2月12日午前5時(米国東部時間)にオンライン版で発表されます。

【研究の背景】

胎児期~乳児期の栄養状態は成人期の肥満や2型糖尿病などの生活習慣病の罹りやすさに関連することが指摘されており、「Developmental Origins of Health and Disease (DOHaD)」仮説(注1)として提唱されています。妊娠期の母親が過栄養や栄養不足の場合には、生まれた子供は成人期に生活習慣病を発症する危険度が高まることが知られています。このため、胎盤あるいは母乳・人工乳を介して適切な栄養状態を「記憶」させることは、子供の健康な発育・成長に重要です。未曽有の少子高齢化社会に突入しているわが国では、胎児期~乳児期の栄養状態に介入する「先制医療」(注2)により、社会全体として生活習慣病の危険度を下げることは極めて重要です。

DOHaD仮説の分子機構として、代謝関連遺伝子の「DNAメチル化」などによる「エピゲノム修飾」(注3)が注目されています。研究グループは既に、乳仔期のマウス肝臓において、脂質センサー分子である

Peroxisome proliferator-activated receptorα (PPARα)(注4)を介する脂質代謝関連遺伝子のDNA脱メチル化により、脂肪燃焼が活性化することを報告しました(注5)。しかしながら、脂質代謝関連遺伝子のDNAメチル化状態が長期間、記憶・維持(エピゲノム記憶)されるのか、DNAメチル化状態の違いが成長後の代謝表現型にどのように影響するのかは、これまで明らかではありませんでした。

【研究成果の概要】

本研究では、乳仔期のマウス肝臓において、糖脂質代謝改善作用を有するFibroblast growth factor 21 (FGF21) (注6)の遺伝子が、PPARαを介するDNA脱メチル化を受けることを見出しました。又、授乳期の母獣マウスにPPARαを活性化する薬剤(人工リガンド)を投与すると、これが乳汁に移行し、乳汁を摂取した産仔マウスではFGF21遺伝子のDNA脱メチル化が更に促進されること、この時期に一旦確立したDNAメチル化状態は成獣期まで長期間、記憶・維持されることが明らかになりました。

一方、DNA脱メチル化の促進は成獣期に人工リガンドを投与しても起こらず、乳仔期に限られることが分かりました。興味深いことに、FGF21遺伝子のDNA脱メチル化が進んだ産仔マウスでは、成獣期PPARαの活性化によるFGF21遺伝子の発現量がより強く誘導されること、成獣期において高脂肪食を食べさせると、乳仔期にFGF21遺伝子のDNA脱メチル化が進んだマウスでは、FGF21遺伝子の発現量の増加とともに肥満の進行が抑えられることが分かりました(図4)。以上により、乳仔期に確立したFGF21遺伝子のDNAメチル化状態が成獣期の肥満の発症・進行の抑制に関連することが示唆されました。

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【研究成果の意義】 本研究成果は、乳仔期に確立した代謝関連遺伝子のDNAメチル化状態が長期間、記憶・維持され、成長後の肥満の発症・進展に関連することを初めて示したものであり、乳児期のエピゲノム記憶が成人期の肥満のなりやすさに影響する分子機構の一つを明らかにした画期的な成果であると考えられます。

注1)Developmental Origins of Health and Disease (DOHaD) 仮説

胎児期~乳児期の栄養状態が成人期の様々な疾患への罹りやすさに関連することが報告されており、DOHaD仮説として注目されています。その仕組みは十分に分かっていませんが、DNAメチル化のようなエピゲノム修飾が関与すると想定されています。

注2)先制医療

将来の疾患の罹りやすさを予測して適切な介入により、疾患の発症の危険度を下げる、あるいは症状が軽くなるようにする将来の理想的な医療とされています。

注3)エピゲノム修飾・DNAメチル化

遺伝子そのものを変化させずに、後天的に遺伝子の発現量を調節する仕組みをエピゲノム修飾と呼びます。DNAメチル化は代表的なエピゲノム修飾の一つであり、通常は遺伝子の発現量を抑制します。このため、ある遺伝子のDNAメチル化の減少(DNA脱メチル化)が起こると、その遺伝子の発現量が増加します。

注4)Peroxisome proliferator-activated receptorα (PPARα)

核内受容体と呼ばれる脂質センサーの1つであり、 脂肪酸などの脂質が結合すると活性化されて標的となる遺伝子の発現量を増加します。

注5)Diabetes誌2015年64巻 775-784頁

注6)Fibroblast growth factor 21 (FGF21)

肝臓から分泌されるホルモンであり、脂肪組織に作用して脂肪燃焼および脂肪組織の糖の取り込みの促進、インスリンの産生の増加、肝臓でのインスリンの効き方を良くするなどの多面的な糖脂質代謝改善作用を有するため、医薬品としての臨床応用が期待されています。遺伝子の発現量はPPARαによって調節を受けています。

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