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分裂酵母が切り開く薬剤治療の可能性

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

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IMAGE: 実験室で作業する佐二木健一博士(右)と田原由莉亜技術員 view more 

Credit: OIST

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らが、分裂酵母を使った実験から、ある薬剤が人の複数の遺伝子疾患の治療に有効である可能性を明らかにしました。

本研究では、OIST 柳田充弘教授率いるG0細胞ユニットの佐二木健一博士らのチームが、バクテリアから生成されるラパマイシンという薬剤が、遺伝的に欠陥のある細胞の「修復」を行い、正常な細胞の持つ機能を保持する働きがあることを明らかにしました。本研究成果は、英国王立協会の学術誌Open Biologyに掲載されました。

ラパマイシンは、すでに医学分野で一般的に利用されている免疫抑制剤で、腎臓移植手術を受けた患者に対し新しい臓器への拒絶反応を防ぐために処方されている薬です。また、ラパマイシンはがん治療や冠動脈ステント用のコーティング剤としても使用されるほか、マウスを使った細胞実験で寿命延長効果が明らかになったことでも高い関心を集めています。

今回OIST研究チームがラパマイシンの新たな側面を見いだすことに成功したことで、新たな遺伝子疾患に対する治療の可能性が示唆されました。

「これは、遺伝子変異に対し、薬で治療ができるのかを判断するための最初のふるい分けシステムとも言えます。これまでも、染色体の異常が原因で起こる酵母染色体疾患の治療には同じ薬が有効であることは分かっていました。研究に関わった佐二木博士を含む10名以上の論文著者はこの度の研究で、同じ薬で治療効果が見込める酵母の遺伝子疾患をさらに12種類発見したのです」と、柳田教授は説明します

ラパマイシンは、環境中の栄養情報を細胞内で伝達するシグナル経路であるTORキナーゼの機能を制御し、増殖と呼ばれる細胞の成長や分裂を抑制します。そこで研究チームは、増殖プロセスの異常が、ラパマイシンによって修復される遺伝子変異を持つ細胞を探索しました。細胞で増殖プロセスを修復することができれば、その遺伝子を原因とするヒトの遺伝子疾患にもラパマイシンが有効であることが期待できます。

研究チームは、細胞増殖の欠陥を引き起こす遺伝子変異が組み込まれた分裂酵母株、1014種類を調べました。それぞれの分裂酵母細胞は、36℃の温度で培養すると増殖できなくなる変異遺伝子を備えています。そのうち45個の変異株では、ラパマイシンを添加すると、増殖プロセスが修復され再び正常な細胞分裂を始めたのです。

修復された分裂酵母株の遺伝子構造の分析を研究チームが行ったところ、原因となる変異を持つ12の遺伝子を同定することに成功し、これによってラパマイシンが影響を与える細胞機能がより詳細にわかってきました。

同定された遺伝子は4つの細胞機能群に分けられました。そのうち1つは、ストレス活性化タンパク質キナーゼ(SAPK)と呼ばれる酵素で、ストレスに反応するシグナルを発信します。突然変異を起こした遺伝子は、分裂酵母細胞内で36℃の温度ストレスに反応するシグナルを発信できず、細胞の成長と分裂に異常をきたす反応を示したのです。

そこでラパマイシンを加えると、細胞増殖がより正常に機能することが観察されました。ラパマイシンがSAPK変異による異常な成長を抑え、その結果、細胞増殖がより正常化されることが分かったのです。このことからSAPKとTORキナーゼがバランスの取れた関係を保つことが、細胞が成長し正常に分裂するプロセスを保持するために重要であることが分かりました。そのほか、クロマチンの調整、補酵素の代謝、そして細胞内移動などの細胞機能の変異においても、ラパマイシンが増殖能を修復することを示しています。

本研究はこれら12の遺伝子を原因とする遺伝子疾患の新たな治療法の第一歩となり、将来、コルネリア・デランゲ症候群や認知発達障害といった遺伝子疾患の進行を遅らせる治療として期待できます。

ラパマイシンの働きに目を付けた今回の研究成果により、すでに非常に有用であったこの薬剤の新たな利用法が見えてきました。「ラパマイシンをどのように応用出来るか、研究の進展が楽しみです」と、佐二木博士は期待を込めて語っています。

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