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咲かないラン「アマミヤツシロラン」を発見

Kobe University

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IMAGE: 花が一度も開くことがないまま結実するアマミヤツシロラン view more 

Credit: Kobe University

神戸大学大学院理学研究科の末次健司准教授と奄美大島の在野の植物研究家の森田秀一氏、田代洋平氏、原千代子氏と山室一樹氏からなる研究グループは、奄美大島と徳之島において未知のラン科植物を発見しました。

この植物は、ラン科オニノヤガラ属に属するタブガワヤツシロランに似るものの、花が開かずに結実する点で本種とは異なると考えられました。内部構造を詳しく検討したところ、咲かないだけではなく、唇弁などの花びらの形もタブガワヤツシロランと違いがみられることがわかりました。このため、新種の植物として「アマミヤツシロラン」と命名しました。

本研究成果は、8月2日に、植物分類学の国際誌「Phytotaxa」にオンライン掲載されました。

【研究の背景】

植物を定義づける重要な形質として光合成を行うことが挙げられます。しかし、植物の中には、光合成をやめてキノコやカビの菌糸を根に取り込み、それを消化して生育するものが存在します。このような植物は、菌従属栄養植物※1と呼ばれます。菌従属栄養植物は光合成を行わないため、花期と果実期のわずかな期間しか地上に姿を現しません。このような特徴から菌従属栄養植物の正確な分布情報は謎のままです。そこで末次健司准教授は、共同研究者とともに、従属栄養植物の分布の調査と、その分類体系の整理に取り組んでいます。

【研究の詳しい内容】

末次准教授と協力し、奄美大島の菌従属栄養植物の調査を行っている在野の植物研究家の森田秀一氏、田代洋平氏、原千代子氏と山室一樹氏が、花が一度も開くことなく固い蕾のまま結実するオニノヤガラ属植物を奄美大島と徳之島で発見しました。この植物は、高さ2~4cmほどで、長さ1cm程度の花を1~5個つけます。この植物は、形態的には、ラン科オニノヤガラ属に属するタブガワヤツシロランに似るものの、花が開かずに結実する点で本種とは異なると考えられました。そこで、末次氏は、花を解剖して細かく花の内部構造を調べました。その結果、このオニノヤガラ属植物は、確かにタブガワヤツシロランに似るものの、唇弁と呼ばれる花びらの形状やずい柱と呼ばれるおしべやめしベが合着した器官の構造が、タブガワヤツシロランとは異なることがわかりました。また花が開かないという特徴は、このオニノヤガラ属植物がタブガワヤツシロランなどの近縁種と交配する可能性が極めて低いことを示しています。このため、今回奄美大島と徳之島から発見された植物を「アマミヤツシロラン Gastrodia amamina Suetsugu」と命名、新種として記載しました。

このアマミヤツシロランの興味深い点として、蕾のまま自家受粉し花を咲かせないという点が挙げられます。菌従属栄養植物は光合成を行わないため、光の届かない暗い林床を生育地としていますが、そのような環境には、ハナバチやチョウといった通常花を訪れる昆虫がほとんどやってきません。このため、昆虫がほとんどやってこないにもかかわらず花を咲かせるのはコストに見合わず、アマミヤツシロランは、花を咲かせることをやめてしまった可能性があります。同様の進化は、タケシマヤツシロラン、クロシマヤツシロランやオキナワムヨウランモドキなどの別の光合成をやめた植物でも起こっています。つまりこれらの研究成果は、植物は、光合成をやめる過程で、花粉を運んでくれる昆虫など、他の生物との共生関係までも変化させるということを示唆しています。

【発見の意義】

菌従属栄養植物は、森の生態系に取り入り、寄生する存在です。このため生態系に余裕がある安定した森林でなければ、多様な菌従属栄養植物が生育することはありません。つまり多様な菌従属栄養植物が存在する環境は、肉眼では見えない菌類を含めた豊かな地下生態系が広がっていることを意味しています。奄美大島では、今年に入って新種のアマミムヨウランや新変種のアマミコカゲランなど菌従属栄養植物の新発見が相次いでいます。

しかしながらこれらの自然が残された場所の多くは、いずれも国立公園の第二種特別地域や公園区域外の伐採の可能な区域となっています。実際に発見地周辺でも、間伐が行われている場所もあり、そこでは乾燥による菌類相の変化など環境の悪化が懸念されています。一方で、これらの菌従属栄養植物の新種や新産地が見られる地域は、伐採可能なエリアであるにも関わらず、アマミノクロウサギ、ケナガネズミ、アマミハナサキガエル、アマミイシカワガエル、アマミエビネ、コカゲラン、ナンゴクヤツシロランなど、ほかの絶滅が危惧される動植物も多く分布していることがわかりつつあります。よって、これまで認識されていなかった従属栄養植物の発見は、奄美大島の森の豊かさの示す象徴的価値を持つといえそうです。

また奄美大島では、こうした希少植物の調査は、今回の末次氏の協力者のような在野の研究者に依存する部分も多く、まだまだ不足しているのが現状です。つまり未知の種が人知れず絶滅している可能性もあるのです。豊かな森とそこに棲む菌類に支えられた菌従属栄養植物の発見は、奄美大島の照葉樹林の重要性を改めて示すものです。こうした未知の植物の発見を通じて、これらの地域の現状に多くの方に関心を持っていただければと思っています。

【用語解説】

※1:菌従属栄養植物

光合成能力を失い、キノコやカビの仲間から養分を奪うようになった植物のこと。ツツジ科、ヒメハギ科、リンドウ科、ヒナノシャクジョウ科、タヌキノショクダイ科、コルシア科、ラン科、サクライソウ科、ホンゴウソウ科などが該当し、これまで日本からは約50種が報告されている。

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