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地上大型電波望遠鏡により、土星の衛星タイタンの大気成分の詳細な観測に成功

~太陽系外からの放射線が大気成分に与える影響を明

National Institutes of Natural Sciences

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IMAGE: NASAの土星探査機カッシーニが撮影した、土星の衛星タイタン view more 

Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute

東京大学の飯野孝浩 特任准教授らの研究グループは、アルマ望遠鏡を用いて、地球以上に複雑で分厚い大気を持つ土星の衛星「タイタン」の大気を観測し、微量な分子ガスが放つ電波の検出と解析に成功しました。その結果、太陽系の外から降り注ぐ「銀河宇宙線(放射線の一種)」が、タイタンの大気の成分に影響を与えていることを世界で初めて観測的に明らかにしました。最先端の地上望遠鏡と解析技術を組み合わせることで、天体を直接訪れる探査機にも比肩する科学成果を挙げられることを示した成果と言えます。

土星の衛星「タイタン」 [1] は、地球同様に窒素を主成分とし、地表で1.5気圧という分厚い大気を持つ天体です。大気中には地球大気には見られないような複雑な分子ガスが存在し、これらは多様な化学過程を経て生命の構成要素であるアミノ酸を生成する可能性すら指摘されています。そのため、タイタン大気における化学過程の解明は、現代の惑星科学の重要なトピックとなっています。実際にアメリカ航空宇宙局(NASA)が送り込んだ探査機「ボイジャー」や「カッシーニ」はタイタンの詳細な観測を行っており、大気内にシアン化水素やプロパンといった多様な分子ガスが存在すること、その量が季節によって1000倍程度もダイナミックに変化することなどを示してきました。しかしカッシーニ探査機は2017年にミッションを終了して廃棄されてしまっており、さらなる研究の進展のためには、地上大型望遠鏡を用いた観測・解析技術の構築が必要でした。

研究グループは、南米チリに設置されたアルマ望遠鏡を用い、タイタンの成層圏に10 ppb(大気全体の1億分の1ほど)とごくわずかに存在する複雑な分子「アセトニトリル(示性式CH3CN) [2] 」と、さらにその1/100ほどしか存在しない「窒素同位体 [3] (CH3C15N)」が放つ、微弱な電波の同時検出に成功しました。そして、検出した電波の特徴の詳細な解析 [4] からアセトニトリルの窒素同位体の存在量を明らかにし、さらに近年の大気化学シミュレーション研究との比較により、タイタン大気におけるアセトニトリルの生成には太陽系外から飛来する放射線(銀河宇宙線 [5] )が重要な役割を果たしていることを世界で初めて確認しました。

これまで、太陽系内天体の科学研究では探査機による観測が大きな成果を挙げてきました。探査機は観測天体の近傍から詳細な観測ができる一方で、研究テーマの立案から観測までは多くの時間や人的コストを必要とします。本研究では、最先端技術を投入して建設された地上大型望遠鏡を用いることで、探査機同様に遠く離れた天体の大気成分の詳細な観測が地上からでも可能になることを示しました。また、今回の観測分子の選定は2018年に出版されたシミュレーション論文に基づくものであり、地上望遠鏡による機動的な研究テーマ設定を実現したものです。

今回の観測データはアルマが較正用に取得したデータであり、同様の目的で取得されたタイタンの観測データは無数に存在します。研究チームは、家庭用の標準的なパソコンが持つハードディスクの100~1000倍に達する500TB(テラバイト)もの巨大なハードディスクを本研究のために整備し、莫大なデータ量の較正観測データ(ビッグデータ)から科学解析的に利用可能な有意義なものを抽出しました。さらに電波の特徴(スペクトル形状)の情報科学的な解析から、大気分子の存在量や分布高度を割り出すという、アルマ惑星大気データの一連の解析プロセスも確立されました。

大気における分子ガスの生成においては、太陽紫外線によって駆動される光化学がよく知られています。しかしタイタンは地球に比べると太陽から離れた天体であり、紫外線の強度は数%にまで低下します。さらに、銀河宇宙線は太陽系の外側ほど強力であり、紫外線よりも低高度まで侵入できる銀河宇宙線が成層圏下部部で窒素分子を破壊して窒素原子を生成し、アセトニトリルの生成につながるということを観測的に初めて示しました。これは同時に、窒素同位体比の精密な計測が、遠く離れた天体の大気成分がどのように生成されたのかを解明する有力な手段であることを示した成果としても重要です。

アセトニトリルのように成層圏下部で生成される分子は他にも存在する可能性があり、今後の大気化学シミュレーション研究や、それをもとにしたアルマ望遠鏡など多くの望遠鏡群を用いたさらなる観測研究につながることが期待されます。さらに、今回のように同位体比を用いた大気化学プロセスへのアプローチは、生成プロセスの不明な窒素化合物を持つ他の惑星(特に木星・海王星)の大気化学の理解につながる一歩になると考えられます。

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この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。

飯野孝浩(東京大学)、佐川英夫(京都産業大学)、塚越崇(国立天文台)

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