News Release 

全身所有感は身体各部位の所有感の単なる合計ではない

スクランブル身体刺激を用いた全身所有感から身体部位所有感の分離

Toyohashi University of Technology (TUT)

豊橋技術科学大学の大学院生近藤亮太(日本学術振興会DC特別研究員)と谷大和,教授北崎充晃,および慶應義塾大学の准教授杉本麻樹,東京大学の教授稲見昌彦による研究グループは,バーチャルリアリティ空間でのスクランブル身体刺激を用いて全身所有感と身体部位所有感の違いを明らかにしました。スクランブル身体刺激とは,観察者の手と足のみを提示し,それらの空間的配置をランダムにしたものです。全身を動かしながらスクランブル身体刺激を観察すると手と足に対する身体部位所有感は生じますが,全身所有感を感じることはできませんでした。全身所有感が生じるためには通常の自分の身体と同様の空間的配置を持つ身体刺激が必要でした。この結果は,全身所有感の錯覚には空間的配置が重要であることを示唆します。また,人の身体的自己意識は,通常の人がもつ身体の空間的配置に影響を受けている可能性があります。この研究成果は,2020年3月24日にScientific Reports誌に発表されました。

バーチャルリアリティを用いて,身体運動に同期させてバーチャルな身体の視覚映像を見せることで身体所有感の錯覚を生じさせることができます。研究グループは,2018年5月に手と足のみを提示して身体運動と同期させることで透明な身体を知覚させることができることを示しました(Kondo, et al., Scientific Reports, 2018)。その研究では,バーチャルな手と足に所有感を感じると同時に,それらを補間する身体全体に所有感が感じられました。

全身所有感は,人の身体性自己意識を調べるために重要な現象とされています。しかしながら,身体部位への所有感と身体全体への所有感の違いについては完全には分かっていません。それは,この2つの所有感を分離する良い方法が見つかっていないからです。

そこで,研究グループは,全身所有感から身体部位所有感を分離する方法を開発することを目指しました。彼らの先行研究の透明身体刺激をもとに,手と足の位置をランダムに再配置してしまうスクランブル身体刺激を作成しました。そして,それを通常の身体と同じ配置の刺激と比較する実験を行いました。

最初の実験では,16人の成人が手足のみの刺激をその2m後ろから頭部搭載型ディスプレイで観察しました(三人称視点)。その結果,視覚と身体運動が同期しているとき,スクランブル身体刺激は身体部位所有感のみを生じますが(バーチャルな手足のみが自分の身体の一部であると感じる),通常配置身体刺激は身体部位所有感と全身所有感(手足の間の空間に透明な全身を感じる)の両方を生じました。一人称視点から刺激を観察した実験でも同様の結果が得られました(実験参加者16名)。つまり,身体をばらばらに分解してランダムに配置しても各身体部位に対する所有感は生じますが,全身を所有している感覚は生じません。ただし,脅威刺激に対する皮膚コンダクタンス反応計測実験については,どの条件の間にも有意な差は見られませんでした(実験参加者20名)。

これらの結果は,身体部位の空間的配置が適切であることが全身所有感に必要ですが,身体部位所有感には必ずしも必要ではないことを示唆します。したがって,人の身体性自己意識は通常の身体部位の空間的配置に制約されている可能性があります。ただし,本研究には,皮膚コンダクタンス反応では差が見られなかったという限界があります。

スクランブル身体刺激は,全身所有感と身体部位所有感について体系的に調べる方法となり得ます。そして,全身所有感の錯覚の限界,つまり人は全身所有感を保持しながらどこまで自らの身体図式を変えることが可能かを調べることに貢献します。

Reference:

Kondo, R., Tani, Y., Sugimoto, M., Inami, M., and Kitazaki, M. (2020). Scrambled body differentiates body part ownership from the full body illusion. Scientific Reports, 10, DOI: 10.1038/s41598-020-62121-9 http://www.nature.com/articles/s41598-020-62121-9

Funding: 本研究の一部はJST ERATO JPMJER1701(稲見自在化身体プロジェクト)および科研費(P19J12660)の補助を受けて実施されました。

Toyohashi University of Technology
1-1 Hibarigaoka, Tempaku
Toyohashi, Aichi Prefecture, 441-8580, JAPAN
Inquiries: Committee for Public Relations
E-mail: press@office.tut.ac.jp

Toyohashi University of Technology was founded in 1976 as a National University of Japan, and is a leading research institute in the fields of mechanical engineering, advanced electronics, information sciences, life sciences, and architecture.

Website: http://www.tut.ac.jp/english/

###

Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.