News Release 

薬剤を脳だけに選択的に送達する新たな手法の開発

末梢組織での副作用を極限に抑えた中枢作用薬創出への期待

Innovation Center of NanoMedicine

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IMAGE: biotin-α-PECAM1投与とavidin-NM投与のインターバルが短い(15分)場合、肺(黄)、脳(青)、心臓(赤)、膵臓(紫)へのナノミセルの取り込みが観察された(a)。インターバルを長くとるに従って末梢臓器のナノミセルは減少したが、脳内では保持された(b,c)。8時間のインターバルをとると、脳だけに選択的にナノミセルを留めることができた(d)。ナノミセルの脳内への蓄積は、生体から取り出したばかりの脳(e)および固定化された脳組織(f)で可視化できる。 view more 

Credit: 2020 Innovation Center of NanoMedicine

公益財団法人川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター(センター長:片岡一則、所在地:川崎市川崎区、略称:iCONM)は、東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻との共同研究により、血液脳関門(BBB)を突破し、臓器選択的に脳組織へ薬物を送達するシステムを開発したと発表しました。その詳細は、7月23日付米国科学アカデミー紀要 (PNAS: Proceeding of the National Academy of Science, Impact factor: 9.350 in 2019) に掲載されました。(注1)

脳組織とそこに酸素や栄養を送る脳内微小血管との間には血液脳関門 (BBB) と呼ばれるバリアーがあり、外因性物質が脳組織へむやみに入り込むことを防いでいます。このBBBの存在は中枢神経領域の創薬において、しばしば障壁となるため、BBBを突破し薬剤を脳内に送達する技術の開発に期待が集まります。最近の例では、BBB関連のタンパク質に結合するリガンドを外殻に持つナノマシン(注2)に治療薬を搭載することにより、治療薬を脳に送達することに成功しています(注3)。しかしながら、これらの標的タンパク質は末梢臓器でも顕著に発現していることがあり、これまでの戦略では、臓器選択的に脳へ薬剤を送達することに限界が生じるという懸念があります。今回の発表ではBBBの高い非透過性に着目するとともに、BBBを構成する脳血管内皮表面に発現するPECAM1(血小板内皮細胞接着分子1)に特異的なモノクローナル抗体(抗PECAM1抗体)を用いて一定量のリガンド(ビオチン)を意図的に保持するという新しい戦略を考案しました。脳血管内皮細胞のエンドサイトーシス率は末梢の内皮細胞に比べて低いため、結果として、ビオチンと高い親和性があるアビジンを結合させたナノミセルを、脳組織選択的に集積させることに成功しました(注4)。この2段階によるターゲティング戦略は、脳内に効率よく薬剤を送達するとともに、末梢への蓄積を防ぐ方策となり、結果的にスマートナノマシン®を用いた治療法の臨床的意義を高めると考えられます。

以上の知見を、考察としてまとめると以下の様になります。

・脳血管内皮細胞のエンドサイトーシス率が低いことを利用して、ビオチンを結合させた抗PECAM1抗体(biotin-α-PECAM1)を用いて血管内皮細胞上にビオチンを保持し、ビオチンと強い親和性を持つアビジン結合型ナノミセル(avidin-NM)を集積させるという仮説を検証した。

  • マウスにBiotin-α-PECAM1を静脈投与後に avidin-NMを投与すると、biotin-α-PECAM1の用量依存的に脳内へのナノミセル取り込み量が増加し、250μg/mLでmaxとなった。
  • 脳以外でも、肺、心臓、膵臓でナノミセルの取り込みが観察されたが、biotin-α-PECAM1投与と avidin-NM投与のインターバルを長くとることで、これら末梢臓器への取り込みを減らすことができることがわかった。方や、脳では、長いインターバルをとっても高い取り込み量を維持できることがわかった。

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(注1)PNAS (Proceeding of the National Academy of Science of the United States of America) : 米国科学アカデミー紀要。世界的にも大変権威のある米国科学アカデミーの機関紙。科学の全領域(物理科学・社会科学・生物科学)に関する論文を年間3000本以上掲載。サイエンスやネイチャーと並び、論文引用数が高い雑誌として知られるが、論文はすべて「幅広い科学者層に分かりやすく」書かれていることが必要とされる。同アカデミーは、米国内で活躍する各分野の専門家が、職業上持っている知識やスキルを無償提供して社会貢献するボランティア活動(プロボノ)で運営されている。2019年のインパクトファクターは 9.350 。世界中の科学者にとって、PNASに論文が掲載されることは大きなステータスとなる。 https://www.pnas.org/

本発表内容を記した論文は以下のとおり:

Daniel Gonzalez-Carter, Xueying Liu, Theofilus A. Tockary, Anjaneyulu Dirisala, Kazuko Toh, Yasutaka Anraku and Kazunori Kataoka, “Targeting nanoparticles to the brain by exploiting the blood-brain barrier impermeability to selectively label the brain endothelium”, Proc. Natl. Acad. Sci., 2020 in press. ((doi.org/10.1073/pnas.2002016117))

(注2)スマートナノマシン®:様々な機能性分子を持つ両親媒性ポリマーを水中で会合させることにより形成される数十nmの大きさを持つ球状または棒状の分子集合体(ナノミセル)。

Horacio Cabral, Kanjiro Miyata, Kensuke Osada, Kazunori Kataoka, “Block copolymer micelles in nanomedicine applications” Chem. Rev.118 (14) 6844-6892 (2018) (doi.org/10.1021/acs.chemrev.8b00199)

(注3)Jinbing Xie, Daniel Gonzalez-Carter, Theofilus Tockary, Noriko Nakamura, Yonger Xue, Makoto Nakakido, Hiroki Akiba, Anjaneyulu Dirisala, Xuying Liu, Kazuko Toh, Tao Yang, Zengtao Wang, Shigeto Fukushima, Junjie Li, Sabina Quader, Kouhei Tsumoto, Takanori Yokota, Yasutaka Anraku and Kazunori Kataoka, “Dual-Sensitive Nanomicelles Enhancing Systemic Delivery of Therapeutically Active Antibodies Specifically into the Brain”, ACS Nano, 2020, 14 (6), 6729-6742. https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acsnano.9b09991

(注4)ビオチンを結合させた抗PECAM1抗体 (biotin-α-PECAM1)をマウスの尾静脈から注射し、予め定められた時間(15分、2時間、4時間、8時間で評価)経過後に、ビオチンと親和性の高いアビジンを結合させたナノミセル (avidin-NM)を同様に静脈注射。実験開始16時間後に麻酔をかけ、リン酸緩衝液で灌流したのちに肺、脳、心臓、膵臓を摘出。それぞれの臓器にナノミセルがどれだけ取り込まれたかを評価すると図に示す結果となった。 詳細はJournalをご覧ください。

公益財団法人川崎市産業振興財団について  

産業の空洞化と需要構造の変化に対処する目的で、川崎市の100%出捐により昭和63年に設立されました。市場開拓、研究開発型企業への脱皮、それを支える技術力の養成、人材の育成、市場ニーズの把握等をより高次に実現するため、川崎市産業振興会館の機能を活用し、地域産業情報の交流促進、研究開発機構の創設による技術の高度化と企業交流、研修会等による創造性豊かな人材の育成、展示事業による販路拡大等の事業を推進し、地域経済の活性化に寄与しています。 https://www.kawasaki-net.ne.jp/

ナノ医療イノベーションセンターについて  

ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)は、キングスカイフロントにおけるライフサイエンス分野の拠点形成の核となる先導的な施設として、川崎市の依頼により、公益財団法人川崎市産業振興財団が、事業者兼提案者として国の施策を活用し、平成27年4月より運営を開始しました。有機合成・微細加工から前臨床試験までの研究開発を一気通貫で行うことが可能な最先端の設備と 実験機器を備え、産学官・医工連携によるオープンイノベーションを推進することを目的に設計された、世界でも類を見ない非常にユニークな研究施設です。  https://iconm.kawasaki-net.ne.jp/

COINS (Center of Open Innovation Network for Smart Health)について  

1将来の社会ニーズを先取りし、国内外の大学や企業が最先端の技術、人材、アイデアを持ち寄ることで「未来を変える製品・サービス」を開発する全く新しい発想の研究拠点。医療にかかる手間やコスト、距離を意識することなく、病気や治療から解放され、日常生活の中で自律的に健康を手にすることができる「スマートライフケア社会」の実現のため、2045年までに体内病院®の確立を目指している。 https://coins.kawasaki-net.ne.jp/

JST COI (Center of Innovation) プログラムについて  

ハイリスクではあるが実用化の期待が大きい異分野融合・連携型の基盤的テーマに対して集中的な研究開発支援を行うプログラム。産と学が連携して明確なビジョンの実現に向かう拠点に対して、最長で9年間の国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) からの支援と企業からのリソースが提供される。COINSは、COIプログラムの川崎拠点。 https://www.jst.go.jp/coi/outline/outline.html

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