News Release 

統合失調症や双極性障害の男性患者では扁桃体形成に変化

セロトニントランスポーター遺伝子のDNAは統合失調症

Kumamoto University

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A)セロトニントランスポーター遺伝子の構造とメチル化解析を行ったCpG部位。図中、転写は右から左に行われプロモーター領域に5-HTTLPR多型が存在する。ボックスはエクソン領域を示し、黒は蛋白質をコードしていない部分、白は蛋白質をコードしているエクソン領域を示す。

B)男性双極性障害患者(男性BD)と男性健常者(男性CT)のCpG3におけるメチル化比較。

C) 男性統合失調症患者(男性SZ)と男性CTのCpG3におけるメチル化比較。

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Credit: Professor Kazuya Iwamoto

熊本大学の研究者らが、統合失調症患者および双極性障害患者において、神経伝達物質の伝達量を調節するセロトニントランスポーター遺伝子にDNAメチル化変化が起きていることを明らかにしました。このDNAメチル化は特に男性および特定の遺伝子多型を持つ患者に顕著に見られ、脳の扁桃体体積と相関することも分かりました。本研究成果により統合失調症や双極性障害の病態に関する理解が進み、エピジェネティックな状態を標的とした治療薬や診断・治療マーカーの開発など、多方面での応用が期待されます。

統合失調症や双極性障害は、人口の約1%が罹患し長期間の治療が必要とされる重篤な精神疾患です。過去の疫学研究から、発症には遺伝要因と環境要因の複雑な相互作用が関係していると考えられていますが、確実な遺伝要因は同定されていません。

セロトニントランスポーターは、神経伝達物質をやりとりするシナプス間隙において神経伝達物質セロトニンの濃度調節を行っている蛋白質です。セロトニントランスポーターを標的とした薬剤は、抗うつ薬として広くうつ病や不安障害の治療に用いられており、精神疾患の病態に深く関わる分子の一つと考えられています。また、この遺伝子のプロモーター領域には、5-HTTLPRと呼ばれる遺伝子多型があり、うつ病をはじめとした精神疾患との関連解析が多数行われてきました。多型のタイプがL(long)型である場合、遺伝子の働きが強くなり多くのセロトニントランスポーターが産生され、S(short)型である場合は少なく産生されます。人は大まかにこの2種類の組み合わせであるL/L、S/L、S/Sのいずれかの型を持ちます。2003年のある研究では、解析の結果、S型を持つと不安傾向が強く、よりうつ病に罹患しやすいと報告され、大きな話題となりました(Capsiら、Science 2003)。しかし、近年の大規模な研究によりこの内容が精査され、5-HTTLPRの遺伝子多型と精神疾患の単純な関係は明確に否定されています。

DNAはメチル化などの化学修飾により遺伝子の発現が制御されています。本研究グループは、過去に双極性障害患者でのDNAメチル化解析により、セロトニントランスポーター遺伝子内の2つの特定の部位(CpG3およびCpG4)が高いメチル化状態を示すことを報告しました(菅原ら, Transl Psychiatry 2011)。本研究では、過去に同定したこのCpG部位について大規模な追試実験を行い、また、新たに統合失調症患者での検討も行い、セロトニントランスポーターDNAのメチル化が病態に与える影響について、包括的な検討を行いました。

双極性障害患者450例、統合失調症患者440例、健常者460例について、血液(末梢血)から抽出したゲノムDNAを用いて、セロトニントランスポーター遺伝子のDNAメチル化状態を測定しました。その結果、双極性障害患者および統合失調症患者のセロトニントランスポーターCpG3部位について、男性患者において高メチル化状態にあることを確認しました。なお、小型の霊長類であるマーモセットに、抗精神病薬を長期(28日間)投与し、そのセロトニントランスポーター遺伝子のDNAメチル化状態を測定したところ、メチル化変化は検出されなかったことから、双極性障害患者および統合失調症患者におけるメチル化変化は、投薬の影響を受けたものではないことが推定されます。

また、セロトニントランスポーター遺伝子の遺伝子多型5-HTTLPRの詳細な解析を行ったところ、双極性障害患者および統合失調症患者において5-HTTLPRが低活性型(S/SもしくはS/L)である場合、メチル化率が高いことを確認しました。次に、セロトニントランスポーター遺伝子のCpG3部位を人工的にメチル化し転写活性化能を測定したところ、メチル化したセロトニントランスポーター遺伝子では、転写活性化能が著しく抑制され、セロトニントランスポーター蛋白質の生成が抑制されることを見出しました。

さらに、年齢・性別を適合させた健常者41例、統合失調症患者 57例について、MRI脳画像を用いて扁桃体の体積を調べました。扁桃体は不安や恐怖といった情動反応において主要な役割を担う器官で、セロトニントランスポーターの働きが強く、過去にDNAメチル化状態との関連が報告されています。解析の結果、低活性型5-HTTLPRを持つ男性患者の左扁桃体の体積と、CpG3のDNAメチル化率が逆相関を示すことがわかりました。以上のことから、低活性型5-HTTLPRを持つ男性統合失調症患者では、セロトニントランスポーターが高メチル化状態にあり、セロトニントランスポーター量の低下を通して扁桃体体積の減少が生じている可能性が示唆されました。

研究を主導した岩本和也教授は次のようにコメントしています。

「本研究によりセロトニントランスポーター遺伝子の特定の部位は、統合失調症や双極性障害の男性患者において高メチル化状態にあり、扁桃体の体積変化と関連していることが示されました。今後、発症予測や診断、治療効果判定などのバイオマーカーとしての応用が期待されるとともに、分子病態の解明の糸口になると考えられます。」

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本研究成果は、学術雑誌誌「Schizophrenia Bulletin」に令和2年6月19日に掲載されました。

[Source]

Ikegame, T., Bundo, M., Okada, N., Murata, Y., Koike, S., Sugawara, H., ... Iwamoto, K. (2020). Promoter Activity-Based Case-Control Association Study on SLC6A4 Highlighting Hypermethylation and Altered Amygdala Volume in Male Patients With Schizophrenia. Schizophrenia Bulletin. doi:10.1093/schbul/sbaa075

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