News Release 

悪性脳腫瘍(グリオブラストーマ)に対する免疫チェックポイント阻害剤の効果を飛躍的に高める化学免疫療法をナノDDSにより実現

Innovation Center of NanoMedicine

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IMAGE: 左図:親水性のポリエチレングリコール (PEG) の一端に、アスパラギン酸ヒドラジドをリンカーとして疎水性のエピルビシンを固定した分子を水中で会合させると、エピルビシンを内含した高分子ナノミセル (Epi/m) が形成される。 右上図:PTEN(+) または PTEN(-) のGBMをマウスの脳に移植し、尾静脈から Epi/m と 抗PD1抗体 (aPD1) を投与し生存期間を評価した。 右下図:PTEN(-)GBMを用いた時の生存期間の比較。対照群には、PBS(リン酸緩衝液)を投与した。その結果、対照群(黒)では30日以内に全数 (8/8) 死滅。Epi/m単体(ピンク)では、30日後から徐々に死滅し40日で半数 (4/8)、50日までに7/8死滅した。aPD1単体(茶)では、30日以内に6/7が死滅した。それに対し、Epi/m+aPD1(赤)では、50日後に1/8 が死滅したものの 7/8 が3か月経過後も生存した。... view more 

Credit: 2020 Innovation Center of NanoMedicine

・脳腫瘍の中でも最も予後の悪いグリオブラストーマ(膠芽腫:GBM)の化学免疫治療(Chemo-immunotherapy)に有効なナノDDS(高分子ミセル)の開発に成功。

  • 免疫チェックポイント阻害剤(ICI)単独では効果を示さないGBM(PTEN negative GBM)に対してもエピルビシン内包高分子ミセルを併用する事で顕著な抗腫瘍効果が得られる事を動物実験で実証。
  • エピルビシン内包高分子ミセルとICI併用の相乗効果で、腫瘍浸潤T細胞(TIL)の数が大幅に増加し、がん細胞を効果的に攻撃。
  • 一方、免疫反応を妨げる骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)は有意に減少。
  • 脳内にGBM(PTEN negative)を移植したマウスの生存期間をICI単独の場合と比べて有意に延長。対照群,ICI単独群で30日以内に全数死滅に対し、化学免疫療法を施した群では、90%が3か月以上生存。
  • エピルビシンは、単独で全身臓器や造血器官で障害を起こすが、高分子ミセルに内含したことで、これらの副作用を顕著に改善。組織により AUC に差。
  • このエピルビシン内包高分子ミセルは他のがん種について既にヒト臨床試験に進んでおり、早期の臨床展開も期待出来る。
  • 本成果は、米国化学会が発行するACS Nano (Impact Factor=14.588 in 2019)誌に8月6日付でWeb掲載されました。

公益財団法人川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター(センター長:片岡一則、所在地:川崎市川崎区、略称:iCONM)は、東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻との共同研究により、脳腫瘍の一種、グリオブラストーマ(膠芽腫:GBM)の新規治療法をマウスで実証したと発表しました。GBMは、極めて病勢進行が速く予後の悪い(5年生存率:10.1%)脳腫瘍で、複数の化合物が医薬品候補物質として臨床開発の途上にあるものの、現時点で生存期間を大きく改善できる薬物療法はありません。特にがん抑制遺伝子のひとつ、PTEN遺伝子(注1)に異常がある症例では治療抵抗性が強く、高いメディカルニーズがあります。一般的に、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI)(注2)は GBMに対してあまり有効でないとされていますが、その理由として、GBMではT細胞の腫瘍浸潤性が低く、また免疫反応が抑制されている傾向にあることが挙げられます。今回発表した手法では、iCONMのナノDDS技術により、免疫誘導細胞死 (ICD)(注3)を引き起こすエピルビシンを腫瘍組織に選択的に送達することで、ICDを局所的に引き起こすとともに、ICIを併用することで、その相乗効果が得られることを期待しました。その結果、この「化学免疫療法 (CIT)(注4)」は、GBMを脳に移植したマウス(以下、マウスGBMモデル)で奏効し、有意に生存期間を延長することに成功しました。化学免疫療法処置のマウスでは、腫瘍浸潤T細胞 (TIL)(注5)の上昇、および免疫反応の低下に繋がる骨髄由来免疫抑制細胞 (MDSC) (注6)の減少が観られ、腫瘍細胞による免疫チェックポイント機能が無効になっていることが分かりました。

PTEN遺伝子の変異は、子宮内膜がんとならびGBMで好発することが知られており、GBM患者の4割近くに及ぶとされています。PTEN遺伝子が正常なマウスGBMモデルでは、ICIの投与により40%が70日以上生存(対照群では1か月以内に全数死滅)したのに対し、PTEN遺伝子が欠損したモデルでは、ICIに対して治療抵抗性(ICI投与群も1か月以内に全数死滅)を示しました。細胞レベルでの観察では、PTEN欠損細胞 (CT2A-luc) では、PTEN遺伝子の発現が正常な細胞に比べて約5倍のPDL1を発現していることが分かり、それがICIに対する治療抵抗性に結びついていると考えられます。アントラサイクリン系の抗がん剤が乳がんにおいてPD-L1の発現を抑制することが知られており(注7)、その代表的な薬剤であるエピルビシンを効果的にGBM病巣に届けることができれば、ICIの効果を高めることができると考え、高分子ミセルにエピルビシンを内含させたナノミセル(注8)とICIの併用による化学免疫療法を実施しました。

エピルビシンは、DNAに直接結合して細胞分裂を抑制し、またトポイソメラーゼIIの阻害により殺細胞性を持つ抗がん剤で全身の臓器および造血器官に対して有害事象を及ぼします。しかし、高分子ミセルにエピルビシンを内含させ、CT2A-luc を脳内に移植したマウスに静脈内投与すると、エピルビシン単体を投与した場合と比べて 160倍腫瘍組織への集積性が高いことが分かりました。また、正常な脳組織と腫瘍組織で AUC(注9)を比較すると、67倍腫瘍組織の方が高く、高分子ミセルにエピルビシンを内含させたナノミセル (Epi/m) の生物学的利用率がGBM組織で顕著に高く、エピルビシンに由来する副作用を軽減できることがわかりました。

PTEN遺伝子が正常なGBM細胞(GL261-luc)を移植したモデルでは、Epi/m 5mg/kg + 抗PD1 5mg/kg の投与により全数が70日以上生存し、顕著な生存期間の延長が観察されました(対照群では30日以内に全数死滅、抗PD1 5mg/kg 単体で40%が70日以上生存、Epi/m 5mg/kg 単体で80%が70日以上生存)。これに対し、PTENが欠損したGBM細胞 (CT2A-luc) を移植したモデルでは、同一の投与量では30%のみが70日以上生存し明確な延命効果は確認できませんでした(対照群、抗PD1 5mg/kgでは30日以内に全数死滅、Epi/m 5mg/kg では50%が35日以上生存)。そこで投与量を増やしEpi/m 15mg/kg + 抗PD1 5mg/kg で生存期間を評価すると、90%が70日以上生存できるようになり顕著な延命効果を確認できました(対照群では30日以内に全数死滅、抗PD1 5mg/kgでは30日以内に90%が死滅、Epi/m 15mg/kg では50%が40日以上生存)。

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本研究内容は、アメリカ化学会 (ACS) が発行する ACS Nano誌(注10)に8月6日付でWeb掲載されました。

対象となる論文:H. Kinoh, S. Quader, H. Shibasaki, X. Liu, A. R. Maity, T. Yamasoba, H. Cabral and K. Kataoka, “Translational Nanomedicine Boosts Anti-PD1 Therapy to Eradicate Orthotopic PTEN-Negative Glioblastoma” ACS Nano, 2020, in press.

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsnano.0c03386

(注1)PTEN (Phosphatase and Tensin homologue deleted on chromosome 10) 遺伝子:細胞増殖を促す PI3K/Akt シグナル伝達経路を負に調節するがん抑制遺伝子。変異など、この遺伝子の発現異常は、高頻度で細胞のがん化を促し、またがん組織においては病勢進行が起きやすい環境を作る。本研究においては、PTEN遺伝子を正常に持つマウスと、PTEN遺伝子をノックアウトしたマウスの両方でGMB治療効果を評価した。

(注2)免疫チェックポイント阻害剤:がん組織に浸潤したT細胞ががん細胞に近づくと、がん細胞表面にPDL1と呼ばれるリガンドを発現させる。このPDL1がT細胞表面のPD1受容体と結合すると、そのT細胞はがん細胞に対する攻撃を失うことが知られている。この PDL1-PD1の結合を阻害する薬剤を「免疫チェックポイント阻害剤」という。本研究では、マウスの抗PD1抗体を用いた。

(注3)免疫誘導細胞死(ICD: immunogenic cell death):エピルビシンなどある種の抗がん剤や薬剤は,通常のネクローシスやアポトーシスに比べ免疫応答を惹起しやすい形で,がん細胞を殺傷する.この細胞死を免疫誘導細胞死とよび,免疫の攻撃目標となる分子の細胞膜表面への露出などいくつかのメカニズムが報告されている。

(注4)化学免疫療法 (CIT):化学療法と免疫療法を組み合わせて使うことで、がん細胞を攻撃するT細胞の攻撃力を高め、またその攻撃力を弱めようとするがんの防衛反応を弱めることでがん細胞をたたくがん治療法。

(注5)腫瘍浸潤T細胞 (TIL):リンパ球の一種、T細胞が特定のがん細胞を認識し、攻撃力を持つためには、がん組織に浸潤しがん細胞と接触する必要があるが、難治性癌ではT細胞の浸潤を防げる仕組みがある。免疫チェックポイント阻害剤が効果を発揮するためには、T細胞の活性化が必要で、そのためには、十分な量のTILが不可欠となる。

(注6)骨髄由来免疫抑制細胞 (MDSC):がん細胞は、免疫抑制物質を分泌し骨髄における免疫抑制細胞の産生を誘導する。その結果、T細胞や樹状細胞といったがん細胞を攻撃する細胞が不活化し、がん細胞は免疫から逃れることが可能となる。免疫チェックポイント阻害剤が効果を発揮するためには、T細胞の活性化が必要で、そのためには、MDSCの数を減らす必要がある。

(注7)H. Ghebeh et al. Breast Cancer Research, 2010, 12, R48., E. M. Rom-Jurek et al. Int. J. Mol. Sci. 2018, 19.

(注8)ナノミセル:様々な機能性分子を持つ両親媒性ポリマーを水中で会合させることにより形成される数十nmの大きさを持つ球状または棒状の分子集合体。1nmは、10億分の1メートル。人の身長を地球の直径に例えると、細胞一つの大きさは東京ドーム、ナノミセルの大きさはサッカーボールのサイズとなる。 H. Cabral, K. Miyata, K. Osada, K. Kataoka, “Block copolymer micelles in nanomedicine applications” Chem. Rev. 2018, 118 6844-6892. (DOI: 10.1021/acs.chemrev.8b00199) (注9)AUC (area under the concentration-time curve):体循環血液中に入った薬物量は直接測定することができないので、薬物血中濃度の経時変化を表した曲線(薬物血中濃度-時間曲線)と、横軸(時間軸)によって囲まれた部分の面積。

(注10)ACS Nano 誌:アメリカ化学会 (ACS) が発行する学術誌のひとつで、化学、生物学、材料科学、物理学、工学の領域におけるナノサイエンスおよびナノテクノロジー研究に関し、グローバルレベルでの学術情報コミュニケーションを目的としている。学術誌の影響力を示すインパクトファクター (2019) は 14.588 を誇り、世界で最も権威のある科学誌のひとつ。

公益財団法人川崎市産業振興財団について  

産業の空洞化と需要構造の変化に対処する目的で、川崎市の100%出捐により昭和63年に設立されました。市場開拓、研究開発型企業への脱皮、それを支える技術力の養成、人材の育成、市場ニーズの把握等をより高次に実現するため、川崎市産業振興会館の機能を活用し、地域産業情報の交流促進、研究開発機構の創設による技術の高度化と企業交流、研修会等による創造性豊かな人材の育成、展示事業による販路拡大等の事業を推進し、地域経済の活性化に寄与しています。

https://www.kawasaki-net.ne.jp/

ナノ医療イノベーションセンターについて  

ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)は、キングスカイフロントにおけるライフサイエンス分野の拠点形成の核となる先導的な施設として、川崎市の依頼により、公益財団法人川崎市産業振興財団が、事業者兼提案者として国の施策を活用し、平成27年4月より運営を開始しました。有機合成・微細加工から前臨床試験までの研究開発を一気通貫で行うことが可能な最先端の設備と 実験機器を備え、産学官・医工連携によるオープンイノベーションを推進することを目的に設計された、世界でも類を見ない非常にユニークな研究施設です。  https://iconm.kawasaki-net.ne.jp/

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