News Release 

金星にリン化水素分子を検出

生命の指標となる分子の研究に新たな一歩

National Institutes of Natural Sciences

Research News

IMAGE

IMAGE: 金星の想像図と、その中に見つかったリン化水素のイラスト。 view more 

Credit: ESO/M. Kornmesser/L. Calada & NASA/JPL/Caltech

イギリス・カーディフ大学のジェーン・グリーブス氏ら英米日の研究者からなるチームは、アルマ望遠鏡とジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡による観測で、金星にリン化水素(PH3、ホスフィン)を検出しました。研究チームは、金星大気中における太陽光による化学反応、あるいは火山からの供給などの可能性を検討しましたが、いずれも観測された量のリン化水素を説明することはできませんでした。研究チームは、リン化水素が未知の化学反応によって作られた可能性が高いと考えています。一方で、地球上にはリン化水素を排出する微生物が存在することから、生命由来の可能性も捨てきれないとも考えています。リン化水素は、太陽系外惑星における生命存在の指標のひとつと考えられている分子であることから、今回の発見はその妥当性を検証するために非常に重要な材料であり、また今後の金星大気の詳細観測の重要性を示す結果ともなりました。

金星は、太陽系において地球のひとつ内側を回る惑星で、大きさや質量が地球によく似ています。一方で最も大きな違いは、金星が二酸化炭素を主体とする非常に分厚い大気を持っていることです。地上で90気圧にもなる二酸化炭素の大気は強烈な温室効果をもたらし、金星の表面温度は460℃にもなります。金星は大気も含めて非常に乾燥しており、地球上に生きているような生命が存在する可能性は低いと考えられています。一方、気圧も温度も下がる高度50km付近では微生物が存在できるのではないかとして、一部の研究者は検討を続けてきました。

ある惑星において生命の存在の有無を判断する方法の一つは、大気の成分を調べることです。例えば、ある分子が生命体によって排出されるものであり、同時に大気での化学反応などで作られにくい性質を持ったものであれば、その分子は生命の指標となり得ます。

近年注目されている生命指標の一つに、リン化水素(PH3)があります。地球では、リン化水素は生命活動と関連することがわかっています。金星大気のように酸素原子が多く存在する環境では、リンは水素原子よりも酸素原子と結合する可能性が高くなります。また、塩化物イオンなどが大気中に存在すると、リン化水素は破壊されてしまいます。そのような環境で安定的にリン化水素が存在するためには、これを絶えず供給し続けるメカニズムが必要です [1] 。

イギリス・カーディフ大学のジェーン・グリーブス氏らの研究チームは、太陽系外惑星におけるリン化水素の調査を行う前に、太陽系の惑星の大気でリン化水素を探してみることにしました。ハワイにあるジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡(JCMT)を使って金星を波長約1mmの電波で観測したところ、波長約1mmの電波で、リン化水素の兆候が発見されました。これをさらに確かなものにするためにアルマ望遠鏡を用いて金星を観測したところ、やはりリン化水素が検出されました。グリーブス氏は、「金星のスペクトルにリン化水素の兆候が見えたことには、とても驚きました。」とコメントしています。

検出されたリン化水素は、大気分子10億個に対して20個程度の割合で存在していることがわかりました。研究チームは、リン化水素の成因を調べるため、太陽光や雷による金星大気の化学反応、地表から風によって吹き上げられる微量元素、火山ガスによる供給などを検討しましたが、観測された量のせいぜい1万分の1程度のリン化水素しか作ることができないという結論に達しました。

研究チームは、地球上の微生物を参考に、金星大気に微生物がいたとした場合のリン化水素供給量も見積もりました。地球の微生物には、岩石や別の生物由来物質からリンを取り出し、水素を付加させてリン化水素として排出するものがあります。研究チームは、同様の微生物が金星大気にもいた場合、検出された量のリン化水素は説明できると考えています。

研究チームの一員である京都産業大学の佐川英夫教授は、「今回は大気内での化学反応などでは十分な量のリン化水素が作り出せないと結論付けましたが、もちろん私たちが見落としている、生命由来でない化学反応によってリン化水素が作られている可能性も大いに残されています。改めて金星を観測し今回の結果を検証することも含めて、結論に達するまでにはまだまだ課題が残されていると思います。」と語っています。

研究チーム全体としても、今回のリン化水素の検出だけで生命の存在が確認できたとは考えていません。今回の研究でリン化水素が存在していると考えられた高度50~60km付近の大気は0~30℃程度と地球生命にとっても生息しやすい温度にはなっていますが、この高度領域に存在する雲は濃硫酸が含まれる極めて酸性の高い環境であり、地球の微生物が生きていくには厳しすぎる環境です。アルマ望遠鏡をはじめとする地上大型望遠鏡による追加観測に加え、金星大気の詳細観測や大気成分のサンプルリターンなどの探査機計画が立案・実現されれば、謎に満ちた金星大気をより詳しく理解できるようになると、研究チームは考えています。

###

[1] リン化水素は、木星と土星の大気ではすでに検出されています。木星と土 星の大気は水素とヘリウムが主成分で、酸素はほとんど含まれていません。リ ン化水素は木星・土星の大気の奥深くの高温高圧の場所で作られ、大気循環に よって上層大気に運ばれると考えられています。金星は岩石惑星であるため、 同様の化学反応でリン化水素が作られることはないと考えられます。

Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.