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社会行動に関わる脳細胞「ソーシャルセル」を同定

Kobe University

Research News

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IMAGE: (A)テスト概要図 (B)テストマウスの対象物への接触時間と回数 (C)マウスとマウスの各接触様式 view more 

Credit: � 2020 Miura et al.

神戸大学大学院医学研究科の内匠 透教授(理化学研究所生命機能科学研究センター客員主管研究員)らは、微小内視鏡※1を用いたCaイメージング法※2により脳内島皮質※3に社会行動に関わる細胞「ソーシャルセル」を同定しました。今後、社会行動の意思決定の神経ネットワークが明らかになることが期待されます。

この研究成果は、9月21日付けで、米国科学誌PLOS Biology電子版に掲載されました。

ポイント

  • 微小内視鏡を用いて、マウスの大脳島皮質に社会行動に関わるソーシャルセルを発見した。
  • 「社会意思決定ネットワーク」における「社会性」と「情動性」モジュールのインターフェースとして島皮質が働いている。
  • 島皮質は統合失調症や自閉症といった様々な精神神経疾患で変化していることが知られており、本成果はこれらの島皮質の社会性機能について細胞レベルでの知見を与える。

研究の背景

新型コロナウイルス感染拡大により、その予防法の一つとして、ソーシャルディスタンスの確保が推奨されています。ウイルス感染の観点からその物理的距離は2メートルとも言われていますが、ヒトとヒトとの距離、社会的距離を隔てた交流、社会的相互作用はどのように決定されるのでしょうか。

この社会(性)行動は複雑な行動様式で、「感覚入力」、「内的状態」、そして「意思決定」からなる感覚処理から行動変容までの過程を含んでいます。すなわち、視覚、嗅覚、聴覚、触覚などのマルチモーダル※4な感覚系を使って相手の情報を処理し、動機、覚醒、情動、報酬、記憶などの(社会性)内的状態にてらしあわせて、探索、交配、攻撃、養育、支配などの行動決定を行うところまでが一連の行動様式です。

これらに関わる脳領域としては、扁桃体、視床下部、中脳、大脳(前頭)皮質などが知られていますが、その詳細な神経ネットワーク、特に細胞レベルでの理解は未だ不十分です。

全脳での神経活動のマッピング方法としては、c-fosなどの最初期遺伝子の発現マッピングや機能的MRI(functional MRI, fMRI)が挙げられます。また、自由に行動する動物(マウス)の局所神経回路の計測としては、ファイバーフォトメトリー法や今回の研究で用いられた頭部に固定した微小蛍光顕微鏡を用いたCaイメージング法があり、さらに、頭部を固定したマウスでの2光子顕微鏡による観察もあります。

研究の内容

ホームケージにマウスを入れ、同じケージ内に知らない(初めて接触する)マウス、あるいは静的な物体を入れた時の行動を観察しました(図1・A)。テストマウスは、物体に比べて知らないマウスに対しての接触時間、および回数が著しく増加し(図1・B)、鼻、体幹、肛門にそれぞれ接触するような社会的行動を示しました(図1・C)。

また、本研究チームはアデノ随伴ウイルスベクターを用いてCaインジケーター(GCaMP)※5をマウスの大脳島皮質に導入し、無顆粒島皮質(AI)へGRINレンズ※6を埋め込んだのちに、頭部に固定した微小蛍光顕微鏡を用いて(図2・A)、マウス自由行動下でのCaイメージングによる神経活動の記録を行いました。

9匹のマウスから取得した神経細胞(ニューロン)の細胞記録を解析したところ、社会的相互作用に相関して活動するソーシャル・オン(Social ON)細胞と、反対に社会的相互作用を示さないときに活動するソーシャル・オフ(Social OFF)細胞を同定しました。全部で737個のニューロンのうち、ソーシャル・オン細胞が22.8%(168個)、ソーシャル・オフ細胞が1.4%(10個)でした。さらにソーシャル・オン細胞168個のうち、社会的相互作用がありマウスが止まっているときに活動する細胞が60.1%、社会的相互作用があり動いているときに活動する細胞が7.1%でした。また、接触様式別では鼻と鼻の接触が35.7%、体幹との接触が20.2%、肛門との接触が5.4%でした(図2・E)。

次に別のタイプのテストとして、直線型の部屋を区切った装置(チャンバー)を用いたテストを行いました(図3・A)。両端をそれぞれA, Bとし、何もしていない状態(control)ではA, Bともに空に、1回目はAに静的な物体、Bに知らないマウスを入れ、2回目はAにマウス、Bに物体を入れて、4分間探索行動をとらせました。それぞれの回についてテストマウスの社会的相互作用(接触)時間を調べたところ、controlではA,B間に差がなく、1回目はB、2回目はAと、マウスが入っているチャンバーとの接触時間が長くなりました(図3・B)。さらにAI内のニューロンを解析したところ、やはり知らないマウスに反応するソーシャル・オン細胞と、また、逆の活動をするソーシャル・オフ細胞を同定しました。それらはAかBかの位置とは関係なくマウスに対して反応しました(図3・C)。

今後の展開

大脳皮質の中の島皮質は解剖学的に社会行動をとるきっかけとなるマルチモーダル感覚を、「社会行動ネットワーク」と「辺縁報酬系」からなる「社会意思決定ネットワーク」に統合させる位置にあります。今回の研究では、社会性行動の際に無顆粒島皮質の活動を単一細胞レベルで直接観察し、島皮質の社会性機能における細胞レベルでの知見を得ることができました。すなわち、多数のソーシャル・オン細胞と少数のソーシャル・オフ細胞が逆の活動をしていることを見出しました。今後、これらソーシャル・オン細胞およびソーシャル・オフ細胞の投射先の同定や活動操作により、回路レベルでの理解が進むことが期待されます。

また、今回発見した無顆粒島皮質の神経の特徴は、島皮質がサリエンシーと呼ばれる感覚刺激によるボトムアップ性注意を誘引する特性に関与する可能性を示唆しています。これは「社会意思決定ネットワーク」における「社会性」と「情動性」モジュールのインターフェースとして島皮質が働いているというこれまでの知見と合致する結果となっています。

さらに、島皮質の構造、機能が統合失調症や自閉症といった様々な精神神経疾患で変化していることが知られており、今回の結果は、これら島皮質の社会性機能について細胞レベルでの知見を与えるものです。今後は、これらの疾患モデル動物での解析が期待されます。

用語解説

※1 微小内視鏡 蛍光顕微鏡を小型化してマウスなどのげっ歯類の頭部に固定できようにしたもの(右図)。GRINレンズと組み合わせることで、脳深部からのイメージングが可能になる。

※2 Caイメージング 細胞、組織等のカルシウム状態を光学的に測定する顕微鏡技術。

※3 島皮質 前頭葉、側頭葉、頭頂葉、基底核に囲まれた大脳皮質領域。組織学的には、前腹側部に顆粒細胞層を欠く無顆粒島、その後背側部に亜顆粒島、さらにその後背側部に全ての層構造が明確な顆粒島に分類される。前島部では行動発現、知覚、内受容、情動など認知機能に関する活動がみられる。味覚、嗅覚、触覚、痛覚などの感覚に加え、報酬、社会的な痛み、社会的情動、共感、内臓覚や自己意識まで関係している。臨床的には、種々の精神神経疾患との関連が示唆されている。

※4 マルチモーダル 視覚、聴覚を含め複数のコミュニケーションモードを利用して、システムとインターラクションを行うインターフェースの様式。

※5 Caインジケーター(GCaMP) 細胞内カルシウムイオン濃度を検出する指示薬。GCaMPは緑色蛍光タンパク質(EGFP)、カルモジュリン(CaM)、ミオシン軽鎖フラグメント(M13)を遺伝子工学的に結合させたタンパク質プローブ。カルシウムイオンがカルモジュリンと結合すると、Ca2+/CaM複合体がM13と相互作用してEGFPの立体構造を変化させ、蛍光強度が変化する。カルシウム濃度の変化をGCaMP蛍光強度の変化として検出することができる。

※6 GRINレンズ 屈折率分布型レンズのことで、光線をレンズ媒質内で放射状に屈折させるレンズ。細長い光学系を構成するのに適している。

謝辞

本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(S)、新学術領域研究「スクラップ&ビルドによる脳機能の動的制御」、武田科学振興財団研究助成による支援を受けて行いました。

論文情報 タイトル “Encoding of social exploration by neural ensembles in the insular cortex” DOI: 10.1371/journal.pbio.3000584

著者 Isamu Miura, Masaaki Sato, Eric T.N. Overton, Nobuo Kunori, Junichi Nakai, Takakazu Kawamata, Nobuhiro Nakai, Toru Takumi

掲載誌 PLOS Biology

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