News Release 

光で接着力が低下する歯科用接着剤の開発

歯科材料の容易な脱着や低侵襲的な歯科治療への応用に期待

Tokyo Medical and Dental University

Research News

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IMAGE: To facilitate the debonding of dental restorative materials adhered on tooth surfaces, UV light-embrittled dental resin cement containing photodegradable polyrotacane (PRX) cross-linkers was developed. PRX is a supramolecular interlocked polymer... view more 

Credit: Department of Organic Biomaterials,TMDU

 東京医科歯科大学生体材料工学研究所有機生体材料学分野の田村篤志准教授、由井伸彦教授、医歯学総合研究科う蝕制御学分野の二階堂 徹非常勤講師(現 朝日大学授)、田上順次教授らの研究グループは、紫外光照射で接着力が低下する歯科用接着剤を新たに開発しました。歯質表面へ歯科材料を強固に固定する接着剤は、約40 年前に本学で開発されて以降、現在も歯科治療の基盤となる技術です。しかしながら、治療後に不要になった材料を脱離する方法については、依然として課題です。本研究では、超分子構造ポリマーであるポリロタキサンに光分解機能と接着剤成分を架橋する設計を施し、既存の歯科用接着剤に混合するだけで光で脆化する機能を賦与することに成功しました。これにより、歯質表面へ固定した歯科材料の紫外光照射による容易な脱着や、脱着に伴う歯質の損傷を軽減できると期待されます。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとに行われたもので、その研究成果は国際科学誌ACS Applied Polymer Materials(エーシーエス アプライドポリマーマテリアルズ)に2020 年11 月25 日にオンライン版で発表されました。また、アメリカ化学(ACS)が発行する約70 誌の中から、1 日1 報のみ科学的な重要性、新規性の高い論文として紹介されるACS Editor’s Choice(2020 年11 月25 日)に本論文は選出されています。

【研究の背景】

 虫歯や矯正などの歯科治療では治療用器具を接着剤により歯質表面に直接固定する治療が行われており、「接着」は歯科治療の基盤技術だと言えます。湿潤環境の口腔内で歯の表面に金属、セラミックス、高分子などの材料を接着する技術は、40 年以上前より研究が進められおり、本学で開発された4-META などの接着性モノマー*1 の開発がブレークスルーとなり、歯質への安定な接着技術が達成されました。このような歯科用接着剤は、治療用器具を短期間接着する矯正治療、暫間固定、仮着などの歯科治療にも用いられていますが、強固に固定された治療具を歯質表面から脱着するためには力学的に剥離、脱着する以外の選択肢はないのが現状です。しかし、矯正用のセラミックブラケットを脱着する場合などに、歯質再表面のエナメル質も同時に剥離してしまい、エナメル質を損傷することが報告されています。エナメル質は再生しない組織であり、損傷による知覚過敏等が懸念されることから、非侵襲的な脱着技術の確立が期待されています。

【研究成果の概要】

 以上のような課題に対し、歯科材料の強固な接着と任意のタイミングでの脱着を可能とする接着剤開発を目的に、紫外光で非可逆的に接着強度が低下する接着剤の開発を考案しました。本研究では、環状糖類シクロデキストリンの空洞部に高分子鎖が貫通した構造の超分子ポリロタキサンに、紫外光照射で分解する設計と接着剤成分を化学的に架橋する設計を施すことで、既存の接着剤に紫外光照射で分解機能を賦与することを検討しました。ポリロタキサンを介して架橋された接着剤成分は、ポリロタキサンの分解に伴い架橋構造が崩壊するため接着強度が低下すると考えられます。また、ポリロタキサンはネックレス状の特徴的な化学構造であり、光分解性結合(o-ニトロベンジルエステル)を軸高分子内に一か所導入するだけで光分解機能を賦与することができます。このため、光分解性結合の導入数を減少させることができ効率的に接着強度が低下すると期待されます。

 光分解性結合として、軸高分子中央にo-ニトロベンジルエステルを有するポリロタキサンを新たに合成し、紫外光照射に対する分解特性をサイズ排除クロマトグラフィー*2 で評価しました。その結果、紫外光照射30 秒後よりポリロタキサンの分解が確認され、2 分間の照射で約60%のポリロタキサンが分解しました。このようなポリロタキサンの分解は、紫外光照射によってo-ニトロベンジルエステルが切断されたことに起因すること

が明らかになっています。

 次に、既存の歯科用接着剤にポリロタキサンを溶解させ、プラスチック片(ポリメチルメタクリレート)同士の接着を行いました。接着剤中のポリロタキサン含量が10 wt%のとき、接着強度は既存の歯科用接着剤と変化はありませんでしたが、紫外光を2 分間照射することによってポリロタキサンの分解が生じたことで約50%まで接着強度が低下しました。そこで、牛歯象牙質に対するプラスチック片の接着と光照射による接着強度の変化を引張試験により検討しました。接着剤中のポリロタキサン含量が増加するにつれて接着強度が低下しましたが、実用には影響のない最低限の接着力(20 MPa 程度)は維持していました。一方、紫外光を2 分間照射した結果、象牙質とプラスチック片間の接着強度が約60%低下することを見出しました。接着強度の改善や照射する紫外光の波長など改良が必要な課題もあるものの、光で脆化する接着剤を用いることで、歯質表面へ固定した歯科材料の容易な脱着や、脱着に伴う歯質の損傷を軽減できると期待されます。

【研究成果の意義】

 歯科治療における「接着」は、歯科治療の基盤となる広く普及した技術であり、現在も研究が続けられ日々改良が行われていますが、「脱着」を目的とした歯科材料開発は潜在的なニーズはあったものの現在に至るまでほとんど行われていません。光分解性ポリロタキサン架橋剤は、既存の歯科用接着剤に添加するだけで接着強度を任意のタイミングで低下することができることが特徴であり、既存の接着技術を改変することなく脱着の機能を賦与できるため様々な歯科用接着剤に適用可能であると考えられます。歯科における脱着技術が実現すれば、歯列矯正などにおける非侵襲的な歯科治療の提供だけではなく、歯科材料の定期的メンテナンスなど新たな歯科治療法の開発につながる発展性があると考えられます。 

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【用語解説】

*1 接着性モノマー: 歯質表層のコラーゲンやカルシウムに結合する構造の接着剤成分であり、接着剤モノマーを介して歯質表面に異種の材料が接着される。

*2 サイズ排除クロマトグラフィー: 高分子の分析方法の一つであり、高分子を分子量の大小に応じて分離する手法

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