News Release

ADHD の障害を持つ児童を理解するために

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

Dr Emi Furukawa and Prof Gail Tripp, Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University

image: Members of the Human Developmental Neurobiology Unit. From the left: Dr Emi Furukawa and Prof Gail Tripp. view more 

Credit: OIST

注意欠陥多動性障害(ADHD)を持つ子供たちは、その場にそぐわない行動を取ることがよくあります。授業中に教室の中で動き回ったり、絶え間なくしゃべり続けたり、他人の会話に割って入ったりすることがあります。ADHDは神経発達障害の一つで、世界各地で約5パーセントの児童がこの障害を抱えていると報告されていますが、長年多くの研究が行われてきたにもかかわらずADHDの原因は未解明のままです。日本とニュージーランドの研究者たちからなる研究チームはこの度、ADHDを持つ児童が環境変化にうまく適応することができない原因を探り、その究明に貢献しうる研究成果を Journal of Child Psychology and Psychiatry 誌で報告しました。

「私たちはみんな報酬を得られる行動を繰り返す傾向があります」と、論文共著者の一人で、沖縄科学技術大学院大学(OIST)発達神経生物学ユニットのゲイル・トリップ教授は言います。「自分にとって好結果をもたらす行動はどれかを学んでいるのです」。報酬を確実に得るためのガイドラインが提示されることは滅多にありません。それでも多くの人は社会生活において報酬を得られるチャンスを最大化するために、試行錯誤して様々な行動を取ろうとします。例えば、昼食時間には研究室の仲間や先生とくつろいだ会話をしていても、会議が始まると、同席するメンバーの顔ぶれは同じでも、その場の状況にふさわしい言動をとるでしょう。

ADHDを持つ子供たちの場合、周囲の環境に応じた行動を上手くとることが難しいことが多くあります。この問題を理解するために研究チームはゲームを使った実験を行い、被験者の児童には知らせずにゲームのルールをほんの少し変更した場合、ADHDを持つ児童がその変化に対してどのような反応を示すかを調べました。今回の実験では、日本とニュージーランド在住の英語を話す8歳から13歳までの167名の児童を対象としました。そのうち半数以上はADHDの診断基準に当てはまる児童であり、そうではない児童の反応と比較しました。ゲームの内容はシンプルで、目の前の画面上に映しだされた赤い顔と青い顔のうち、多く映っているほうの顔の色を答えてもらいました。画面には縦横10マスの枠の中に青い顔と赤い顔が映っており、どちらの色の顔が多いかを選んでボタンを押すというものです。

ゲームには一定のルールが設けられました。ゲームを始める前に、検査員は児童に対し、問題に正解するとご褒美(褒め言葉とプラスチックのコイン)がもらえるが、正解してもこのような報酬が与えられない場合もあると説明しました。ゲーム開始当初の報酬は、「青い顔のほうが多い」ときの正当に対して与えられることが、「赤い顔のほうが多い」ときの正当に対して与えられるより4倍になるように設定しました。20回報酬が与えられた後、そのルールを逆転させ、今度は「赤い顔」が多くあるときの正当に対する報酬を4倍にしました。そのルールに従い20回報酬が与えられた後、再び頻繁に報酬が与えられるほうの回答を「青」に戻してゲームを行いました。児童には報酬のルールが途中で切り替わることは知らされていませんでした。

その結果、ADHDの障害の有無に関わらず、ゲームの最初の方で全ての児童まず青の回答になびくことが分かりました。しかし赤と青のどちらが多いか不確かな場合は、報酬を多くもらえる可能性がある選択肢(青)に回答がなびくことが分かりました。やがて報酬ルールが変更されると、児童の反応に違いが生じ始めました。ADHDの症状がみられない児童は明らかに赤の回答になびき始めたのに対し、ADHDを持つ児童の行動の変化はほんのわずかしかみられませんでした。

青の正当が多く報酬を与えられるようにルールを戻すと、ADHDを持つ児童とそうでない児童の行動にはさらに大きな違いが見られました。健常児においては、報酬が多く与えられるようになった「青が多い」という回答が再び増え始めました。しかし、ADHDを持つ児童の回答にはほとんど変化が見られませんでした。報酬ルールが変更されるたびに、児童らは報酬を多く得るための新しいルールに直感的に適応する必要がありましが、ADHDを抱える児童は健常児と比べて些細なルールの変化に上手く適応できていないことが今回の研究で示唆されました。

「これは本当に興味深い研究結果で、ADHDを持つ児童の行動管理において重要な意味を持つものです」とトリップ教授は言います。「ADHDを持つ子供たちには、常に明確な指示を与えることが大切であると私たちは提唱しています。子供たちに状況判断を任せるのではなく、報酬を得られる条件が何であるかをはっきりと伝え、報酬を打ち切る際には、それをADHDを抱える児童等には明確に伝える必要があります」。

ADHDを持つ児童は、決して悪い子というわけではありません。不作法な振る舞いや、ルールを無視した行動を取っているように見えるかもしれませんが、それはルールの些細な変化を読み取ることが難しいことに起因している可能性があることが今回の研究で示されました。「あらゆる状況下でも指示を明確にし、それに見合った行動に対して頻繁に報酬を与えることは甘やかすこととは違います」とトリップ教授は言います。「それは子育ての優れた戦略であり、人生における機会を平等に与えてやることに他ならないのです」。

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