News Release

オスへの投資がコストになっていることを実証

-様々な生物で性の進化・維持メカニズム解明に期待-

Peer-Reviewed Publication

Kyoto University

Exploring a Sexual Mystery

image: A Kyoto University research team has shown that males can 'cost' less when there is a higher proportion of females, a result that may have broad implications for studies of the evolution and sustainability of sexual reproduction. view more 

Credit: Kyoto University

小林和也 京都大学大学院農学研究科研究員(日本学術振興会特別研究員PD)と長谷川英祐 北海道大学大学院農学研究院准教授は、オスとメスがいる有性系統とメスしかいない無性系統が同一地域に生息するネギアザミウマを対象として、オスへの投資が有性系統のコストになっていることを実証しました。

ネギアザミウマの有性系統と無性系統の個体数を調べることで、有性系統のオスが多くなるとネギアザミウマ集団内で有性系統個体が占める割合が低下することを明らかにしました。この結果は有性系統が無性系統と競争する際にオスへの投資がコストになっていることを示しています。

さらに、ネギアザミウマの生態を模したコンピュータシミュレーションを用いて、1)無性系統の侵入によって有性系統集団にオスへの投資を減らす性質が広がること、2)これまでの定説では有性生殖が絶滅すると考えられていた条件下でもこの投資削減によって絶滅を回避できることを確認しました。つまり、有性生殖のオスへの投資は状況に応じて減らすことができるため、これまで考えられていたよりも有性生殖は進化・維持しやすい性質であることが明らかになりました。

本研究は日本学術振興会の特別研究員奨励費(09J00012および14J00916)の支援を受けて行われました。論文は2016年4月1日英国科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。

【研究の背景】

理論上、有性生殖を行う生物は、メスだけで増えることのできる無性生殖生物と比べて、資源の半分を子育てに全く貢献しないオスに投じているため、一個体あたりの増殖率が半分になってしまいます。有性生殖は無性生殖と比べて非効率的にも関わらず、多くの動植物が無性生殖ではなく有性生殖を行っていることから、有性生殖は2倍のコストを上回る大きなメリットを生んでいると予想されています。これまで多くの研究者が有性生殖にメリットをもたらす仮説の検証を試みてきましたが、コストを上回るメリットが何であるのか、まだはっきりとは分かっていません。一方でコストが実際の生物で2倍なのかどうか、きちんと定量した研究はありませんでした。オスへの投資が本当にコストなのだとしたら、オスへの投資をメスに回すことで負担を軽減することが可能なはずです。

【研究手法・成果】

本研究ではネギアザミウマという農業害虫に着目しました。ネギアザミウマにはオスとメスがいる有性系統とメスしかいない無性系統が同じ畑の同じ作物上に共存していることが知られています。そこで複数の圃場でそれぞれの系統の個体数を調べることで、有性系統のオスへの投資が本当にコストとなってネギアザミウマ集団に占める有性系統の割合を減らすかどうかを確かめました。その結果、有性系統のオスとメスの数が等しい圃場では有性生殖個体が少なく、一方で有性系統のオスが少ない圃場では有性系統と無性系統が同じくらい採集されました。すなわち、有性系統のオスが多くなるとネギアザミウマ集団内で有性系統個体が占める割合が低下することが明らかになりました。さらに、野外で観察されたオスへの投資削減が無性系統の存在によって生じたことを確かめるため、ネギアザミウマの生態を模したコンピュータシミュレーションを行ったところ、無性系統の導入後に有性系統集団がオスへの投資を減らすことが示されました。

【今後の展開】

本研究により、従来は固定したものと想定されていた有性生殖のコスト(オスへの投資)が実際には削減できることが明らかになりました。もし有性生殖のコストを小さくできるならば、メリットが小さくても集団中に維持されると予想されます。つまり、これまで考えられていたよりも有性生殖は進化・維持しやすい性質であることが明らかになりました。本研究とこれまでに知られている有性生殖のメリットを組み合わせることで、地球上に広くみられる有性生殖の進化・維持メカニズムが解明されることが期待されます。

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Bibliographic Info:
著者:小林和也、長谷川英祐
タイトル:'A female-biased sex ratio reduces the twofold cost of sex'
掲載誌:Scientific Reports


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