News Release

二つの薬の併用で冠動脈プラークを劇的に退縮

-心筋梗塞発症予防に向けた新たな治療法-

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Plaque Progression/Regression

image: This is a cross-sectional observation of a substantial reduction in plaque area. (PB = plaque burden) view more 

Credit: Dr. Kenichi Tsujita (http://dx.doi.org/doi:10.1016/j.jacc.2015.05.065)

このニュースリリースには、英語で提供されています。

熊本大学 熊本大学 大学院生命科学研究部 循環器内科学(小川久雄教授)の 辻田賢一 講師らは、標準的な脂質低下治療薬「スタチン」と併用してコレステロール吸収阻害薬「エゼチミブ」投与することで、標準的な治療に比べて強力な脂質低下効果と冠動脈プラーク退縮(縮小)効果がみられることを、血管内超音波の解析を用いた臨床試験によって明らかにしました。

 冠動脈プラーク(冠動脈の血管内膜に脂質などが沈着した状態)の退縮は、心筋梗塞や狭心症などを抑制する鍵とされており、本成果は、エゼチミブを併用する新規治療戦略が従来のスタチン単独治療法よりも強力な効果がある事を解明しただけでなく、心筋梗塞発症予防に向けた新たな治療法の確立につながるものです。

熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学辻田賢一講師、小川久雄教授らが、国内17施設との共同研究で行いました。  

本研究成果は、文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて、科学雑誌「The Journal of the American College of Cardiology」オンライン版にロンドン時間の2015年月29日(水)10:00【日本時間の7月28日(火)18:00】に掲載されました。

(URL: http://content.onlinejacc.org/article.aspx?articleid=2411160&resultClick=1)

論文名
Impact of Dual Lipid Lowering Strategy With Ezetimibe and Atorvastatin on Coronary Plaque Regression in Patients With Percutaneous Coronary Intervention: Insights From Multicenter Randomized Controlled PRECISE-IVUS Trial

著者名(*責任著者)
Kenichi Tsujita*, Seigo Sugiyama, Hitoshi Sumida, Hideki Shimomura, Takuro Yamashita, Kenshi Yamanaga, Naohiro Komura, Kenji Sakamoto, Hideki Oka, Koichi Nakao, Sunao Nakamura, Masaharu Ishihara, Kunihiko Matsui, Naritsugu Sakaino, Natsuki Nakamura, Nobuyasu Yamamoto, Shunichi Koide, Toshiyuki Matsumura, Kazuteru Fujimoto, Ryusuke Tsunoda, Yasuhiro Morikami, Koushi Matsuyama, Shuichi Oshima, Koichi Kaikita, Seiji Hokimoto, Hisao Ogawa.

掲載雑誌
The Journal of the American College of Cardiology

【お問い合わせ先】

熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科学
担当:教授 小川久雄(おがわひさお)    
講師 辻田賢一(つじたけんいち)
電話:096-373-5175
e-mail:tsujita@kumamoto-u.ac.jp

(概要説明)

  • 厚生労働省の人口動態統計によると、心疾患は癌などの悪性腫瘍に次いで死因の第2位であり、制圧に向けた薬物治療の開発が望まれている
  • 現在はスタチン※1による悪玉コレステロール※2の低下が心血管関連疾患における脂質低下療法の標準的な治療法であるが、標準的スタチン治療を行っても半数以上の患者が心血管関連疾患を発症してしまう
  • スタチン治療では、肝臓でのコレステロール合成を抑制する反面、代償として小腸でのコレステロール吸収が進んでしまう
  • スタチンの標準治療にコレステロール吸収阻害薬「エゼチミブ」を併用すると、より安全で効率的に悪玉コレステロールが低下した
  • 血管内超音波を用いた詳細な冠動脈プラーク進展・退縮の解析によると、スタチン+エゼチミブの併用療法は、9-12か月間の治療により、強力な冠動脈プラーク退縮を示した

###

注)※1:スタチン:HMG-CoA還元酵素阻害薬の総称で、効率的に悪玉コレステロールの値を下げ、心血管関連疾患を抑制することが知られている。

※2:悪玉コレステロール:低比重リポ蛋白コレステロールの俗称で、心血管関連疾患抑制と極めて強い相関があることが知られている。

(説明)
スタチンを用いてLDLコレステロール(LDL-C)を低下させると、それに相関して冠動脈疾患リスクが減少する。しかしながら、それでもなお多くの患者に心血管関連疾患のリスクが残っており、スタチンの単独投与で十分なLDLコレステロールを低下させるのは困難である。

当科では、国内17の関連施設と共同で、PRECISE-IVUS試験(Plaque REgression with Cholesterol absorption Inhibitor or Synthesis inhibitor Evaluated by IntraVascular UltraSound)によって、冠動脈疾患患者に対するスタチンとエゼチミブの併用投与による冠動脈プラーク退縮について検討した。  

対象は経皮的冠動脈インターベンション(PCI)※3を施行した冠動脈疾患患者であり、LDLコレステロール値 100mg/dL(基準値は一般男女で60~139mg/dL)以上を被験者の基準とした。対象をスタチン(アトルバスタチン)単独投与群(単独群;102例)またはスタチン(アトルバスタチン)+エゼチミブ併用投与群(併用群;100例)に無作為に割り付け、LDLコレステロール値を 70mg/dL未満まで下げることを目標としてスタチンを増減し9~12カ月間投与した(図1)。効果の評価として、血管内に沈着した脂質等の物質であるアテロームの容積率(PAV)の変化量(ΔPAV)を計測し、両群間の差を調べた。

 試験開始時の LDLコレステロールは併用群108.3mg/dL、単独群109.8mg/dLと、両群間に有意な差は見られなかった。試験中のスタチン投与量は、エゼチミブを併用した方がスタチン投与量は少ない。試験終了時のLDL-Cは、併用群63.2mg/dL(-40%)に対し単独群では73.3mg/dL(-29%)と、併用群の方が有意に低下した(図2)。

また、単独群と併用群ではアテロームの容積率の変化に有意な差が見られた(表)。

さらに、血管容積の試験開始時からの変化量は、併用群が-4.1mm3と有意に縮小したのに対し、単独群では-0.6mm3と有意な変化を認めなかった。また、特に急性冠症候群(ACS)の患者において併用群と単独群のΔPAVに有意差を認め、併用群でより顕著なプラーク退縮が認められた。  

本試験の結果から、「日本人PCI施行患者において、スタチンとエゼチミブの併用投与によって、LDL-C低下およびコレステロール吸収亢進の抑制と同時に、より強力な冠動脈プラークの退縮が得られることが示された。特に、急性冠症候群(ACS)の患者において、LDL-C低下およびコレステロール吸収とプラーク退縮に関連が見られた。さらにエゼチミブ併用による血管陽性リモデリング※4の抑制効果が認められており、ハイリスクの冠動脈疾患患者に対するスタチンとエゼチミブの併用療法には臨床的有用性が期待される」と結論した。

※3 経皮的冠動脈インターベンション(PCI):   
狭くなった血管をバルーン(風船)やステントなどで内側から広げる手術。

※4 血管陽性リモデリング:
プラークの生成や進展に伴って血管径が拡大すること。


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.