News Release

核融合プラズマの閉じ込め改善機構を解明

30年来の謎に迫る成果

Peer-Reviewed Publication

National Institutes of Natural Sciences

Dependence of the Electric Current upon the Radial Direction Electric Current

image: The right side of the figure where the electric field's absolute value is small corresponds to the L-mode plasma and the left side having large electric field to the H-mode. The black line indicates the experimental value of the electric current and the red line the theoretical value used in the model based upon differences in the trajectories. view more 

Credit: Tatsuya Kobayashi

核融合発電炉の実現を目指して、磁場で高温度・高密度のプラズマを閉じ込める研究が世界中で行われています。発電炉実現における最大の問題の一つに、プラズマの乱れた流れである「乱流」がプラズマの閉じ込めを悪化させてしまうという問題があります。乱流*1が存在すると、中心部分の温度が高いプラズマが外に吐き出されてしまい、核融合を起こす条件に到達することができなります。問題解決の鍵は、1982年にドイツの実験装置で偶然発見されました。そこでは、プラズマの端の部分で乱流が抑制され、プラズマ全体の温度がかさ上げされた「Hモード」*2と呼ばれるプラズマが実現されることがわかりました。これに対し、乱流が多く、温度の低いプラズマは「Lモード」のプラズマと呼ばれています。Hモードプラズマはその後世界中の装置で再現されました。Hモードは、国際熱核融合実験炉ITERの標準的な運転モードとして採用されています。

これまでの研究で、Hモードの機構を解明する試みが多くの研究者によりなされてきました。イオンと電子がつりあった通常の状態では、プラズマ中に強い電場は出来ません。この状態がLモードのプラズマに対応します。理論により、Hモードではイオンと電子の分布にほんの少しだけ偏りが生じることでプラズマの端の部分で強い電場が発生し、乱流を抑制していることが予測されました。その後、当時最先端の計測装置を用いて、理論研究者が予測した電場の構造が実際に存在していることが示されました。残された謎は、どのようにしてこの電場構造が形成されるかということでした。この謎は、Hモードの発見当初から研究が進められていますが、現在まで30年以上にわたって解明されていませんでした。

今回、核融合科学研究所(NIFS)の小林達哉助教、伊藤公孝教授、井戸毅准教授らの研究グループは、量子科学技術研究開発機構(QST)、九州大学との共同研究により、NIFSで開発した「重イオンビームプローブ」を用いてQSTのJFT-2Mトカマクのプラズマポテンシャルを計測し、実験データを解析した結果、30年来の謎であった電場の発生メカニズムを突き止めました。

強い電場を作り出すイオンと電子の分布の「偏り」は、半径方向に流れる電流によって作られます。この電流が発生するメカニズムは複数提案されていましたが、どの効果が特に重要かはこれまでに明らかになっていませんでした。今回の計測・解析で、電子とイオンの軌道の違いから生まれる効果が、電流生成に特に重要な役割を果たしていることを突き止めました。今回使用した実験データは1999年に取得された古いものですが、近年の理論物理学、解析手法の進展により、最先端の成果を出すことができました。17年経った現在でもプラズマ物理の進歩に貢献できたことは、本実験データの質の高さを示しています。

本研究成果は、英国ネイチャー・パブリッシング・グループの学術誌サイエンティフィック・リポーツ(電子版)に平成28年8月4日付けで掲載され、広く一般公開されています。  

図1は半径方向電流(Jr)の電場(Er)依存性を示しています。電場の絶対値が小さいグラフの右側がLモードプラズマ、電場の絶対値が大きいグラフの左側がHモードプラズマに対応します。黒線が電流の実験値、赤線が軌道の違いに基づくモデルを用いた理論値を示します。本実験では、プラズマがLモードからHモードになる際、理論値が実験値をよく表すことが示され、これにより電流を発生させるメカニズムが明らかになりました。ただし、Lモードの電流値は、理論値と実験値の間に大きな隔たりが存在します。この原因の解明には、さらなる研究が必要です。図2はLモードとHモードプラズマの温度分布を示しています。Hモードでは温度が周辺でかさ上げされ、全体として高い温度が実現されています。

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【用語解説】

(*1)プラズマを加熱していくと、小さな渦状の流れが自然に発生し、温度の上昇が妨げられます。この小さな渦状の流れは、向きも大きさも様々であるため、乱れた流れ「乱流」と呼ばれています。乱流が発生すると、中心部分の温度の高いプラズマは、乱流の渦に乗って外側に吐き出されてしまいます。結果として乱流は、プラズマの温度上昇を妨げる原因になってしまいます。

(*2)Hモードは、high confinement mode (良い閉じ込め状態)の略で、1982年にドイツの実験装置ASDEXで発見されました。プラズマがHモードでない場合(Lモード;low confinement modeと呼ばれます)、プラズマを加熱するパワーを増やしても、乱流が存在するため温度が上がりにくく、核融合を起こす条件に達することができません。一方、プラズマがHモードになると、電場によってプラズマの端にある乱流が抑制されるため、全体の温度がかさ上げされます。このためHモードは、将来の核融合発電炉を成功させるための鍵として、その原理や応用方法が世界中で研究されています。


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