News Release

難治性疼痛の発症メカニズムを解明

新しい鎮痛薬開発のための重要発見

Peer-Reviewed Publication

Hiroshima University

Summary

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Credit: Hiroshima University

このニュースリリースには、英語で提供されています。

【ポイント】

  • 神経障害性疼痛モデルマウスの脊髄でconnexin43(コネキシン43)が減少していることを発見
  • 脊髄でのconnexin43発現量が減少することが原因となって、痛みの伝達能が亢進している
  • 慢性疼痛が発症した後でも、脊髄のconnexin43発現量を回復させることにより疼痛が緩和

【概要】

広島大学大学院医歯薬保健学研究院の森岡徳光(もりおかのりみつ)准教授と張(ちょう) 芳(ほう)芳(ほう)(Zhang Fang Fang)特別研究員らの研究グループは、難治性疼痛モデルマウスを用いて、脊髄の構成細胞の一つであるアストロサイトに主に発現するタンパク質connexin43が減少し、それに伴って痛みの伝達が亢進していることを明らかにしました。

現在、ガンの終末期、坐骨神経痛、糖尿病、帯状疱疹後などに認められる難治性の疼痛は、患者さんの生活の質(Quality of Life: QOL)を低下させる要因となっています。これらの痛みは、現在汎用されている鎮痛薬であるロキソニンなどの非ステロイド性鎮痛薬やモルヒネなどの麻薬性鎮痛薬が効きにくく、治療が困難であることから、新たな治療薬・治療法の確立が望まれています。

Connexin43は細胞間コミュニケーションに関わるタンパク質であり、痛みの神経伝達に対して重要な役割を果たす細胞であるアストロサイトに主に発現していることが知られています。同研究グループは、マウスを用いた実験により、難治性疼痛の一種である神経障害性疼痛時の脊髄においてconnexin43発現量が減少し、慢性的な痛みの発生に関与していることを見出しました。またconnexin43の減少により、脊髄での痛み伝達に関与するグルタミン酸の働きが亢進しており、この現象が痛みの慢性化の要因であることを明らかにしました。さらにアデノウイルスベクターを用いた遺伝子導入法により、減少したconnexin43発現量を回復させることで、疼痛反応が減弱することも証明しました。

これらの結果より、connexin43が難治性疼痛に対する治療標的となることが示され、難治性疼痛に苦しむ多くの患者さんを救う新たな治療戦略を提示する可能性が期待されます。 本研究成果は、平成27年6月24日(日本時間)発行の科学誌「Brain, Behavior, and Immunity」のオンライン版で公開されました。

【研究の背景】

神経障害性疼痛に代表される難治性の痛みの治療において、慢性化した痛みを緩和することが重要です。一方、何故痛みは慢性化するのか、そのメカニズムは不明でした。そのため、痛みの慢性化に関わるメカニズムを明らかにすることで、これまでにない新たな鎮痛薬の創製に繋がることが期待されます。本研究では、神経障害性疼痛モデルマウスを用いて、痛みの伝達において重要な組織である脊髄での機能変化に注目しました。特に、痛みの神経伝達機能に関与する細胞であるアストロサイトに発現するconnexin43の発現変化と痛みに及ぼす影響を、生化学的解析ならびに動物行動解析により検討しました。

【研究成果の内容】

森岡徳光准教授らの研究グループは、坐骨神経を損傷して作成した神経障害性疼痛モデルマウスの脊髄において、対照群と比較してconnexin43発現量が減少することを明らかにしました。特に痛みの慢性期(神経損傷後1週間から3週間)において、connexin43発現量の有意な減少が認められました。またRNA干渉法により脊髄でのconnexin43発現量を人為的に低下させたマウスにおいても、神経障害性疼痛モデルと同様に痛みが発症しました。反対に、アデノウイルスベクターを用いた遺伝子導入法により、脊髄のconnexin43発現量を回復させると、神経障害性疼痛が有意に減弱しました。

さらに脊髄でのconnexin43発現量の低下により、痛みの伝達能が亢進していることがわかりました。特に痛みの伝達に関与する神経伝達物質であるグルタミン酸の働きが亢進していることを明らかにしました。

また炎症誘発物質である腫瘍壊死因子(tumor necrosisfactor: TNF)が脊髄でのconnexin43発現低下を誘発する物質であることも突き止めました。

これら結果は、神経障害性疼痛の慢性化の要因として、脊髄でのconnexin43発現量の低下が関与していることを示唆するものであり、さらにその発現回復を介して難治性の疼痛を緩和できる可能性を提示しています。

【今後の展望】

本研究結果から、connexin43発現量を増加・回復させる薬剤が新たな鎮痛薬候補となる可能性が予想されます。我々はすでに候補物質を同定しており、その有効性について神経障害性疼痛モデルを用いて解析を進めているところです。

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【論文】
雑誌名:Brain, Behavior, and Immunity, 2015
論文タイトル:Tumor necrosis factor-mediated downregulation of spinal astrocytic connexin43 leads to increased glutamatergic neurotransmission and neuropathic pain in mice.
著者名:Norimitsu Morioka, Fang Fang Zhang, Yoki Nakamura, Tomoya Kitamura、 Kazue Hisaoka-Nakashima and Yoshihiro Nakata
DOI番号:10.1016/j.bbi.2015.06.015


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