News Release

サンゴの白化につながる共生藻の排出メカニズムを解明

Peer-Reviewed Publication

Hiroshima University

image: The ratio of degraded zooxanthella (Symbiodinium) cells (black bars) expelled from the two coral species are shown. Bars show the normal (white) and degraded (black) forms of zooxanthellae. Dotted lines show water temperature. view more 

Credit: Fujise et al., <i>PLOS ONE</i>. DOI: 10.1371/journal.pone.0114321, Fig. 4

このニュースリリースには、英語で提供されています。

【概要】  

広島大学大学院生物圏科学研究科の小池一彦 准教授、藤瀬里紗さん(同研究科博士課程前期修了、現オーストラリアUniversity of Technology,Sydney)、水産総合研究センター西海区水産研究所の山下 洋 研究員らを中心とする研究チームは、サンゴからの共生藻の放出現象を解明しました。

サンゴは褐虫藻とよばれる藻類と共生していますが、水温上昇などが原因で褐虫藻を失い、その結果「白化」します。白化が進むとサンゴは死亡し、サンゴ礁の生態系の崩壊につながります。小池准教授らのグループは水槽実験によりサンゴから排出される褐虫藻の数や生理状態を調べました。その結果、サンゴは褐虫藻を消化して排出する機構をもともと持っていること、水温が上昇しサンゴ内に弱った褐虫藻が増えると、その消化・排出機構が加速されることを突き止めました。これは、サンゴにとって有害であるダメージを受けた褐虫藻を排除するための、サンゴの防御機構だと思われます。

また、水温上昇の期間が長引くと、弱った褐虫藻の増加にサンゴの消化・排出が追いつかなくなり、今度は褐虫藻を消化せず排出し始めることも判明しました。これはサンゴの「緊急的な処置」です。ただしその結果、サンゴからは徐々に健常な褐虫藻が減ってゆくと思われます。また、サンゴからの排出能力を上まわるほどに弱った褐虫藻が増えてしまうと、サンゴ内にダメージを受けた褐虫藻が増え、この「褐虫藻の全体密度の低下」と「弱った褐虫藻の蓄積」が、サンゴの白化につながっていると推測しています。 この研究成果は、12月10日付で米科学雑誌プロス・ワン誌(オンライン版)に掲載されました。

【発表論文】

著者 Lisa Fujise、 Hiroshi Yamashita、 Go Suzuki、 Kengo Sasaki、 Lawrence M. Liao、 Kazuhiko Koike*

* Corresponding author

論文題目 Moderate thermal stress causes active and immediate expulsion of photosynthetically damaged zooxanthellae (Symbiodinium) from corals

掲載雑誌 PlosOne DOI: 10.1371/journal.pone.0114321

【研究の背景】

サンゴには「褐虫藻」とよばれる微細藻が共生していますが、海水温の上昇などのストレスにより、サンゴは褐虫藻を失い、それがサンゴの白化につながります。地球温暖化にともなってサンゴの白化は深刻さを増しており、1950年以降、全世界の20%のサンゴ礁が消滅したとされます。

これまでサンゴからの褐虫藻の放出はさまざまな実験により確かめられてきましたが、その多くは、著しい高水温(32℃)で行われており、現場での状況を再現していませんでした。 

そこで小池准教授らのグループは、沖縄などでよく白化が見られる「水温30℃、1週間」のストレスをサンゴに与え、サンゴから放出される褐虫藻を高精度に定量し、また、褐虫藻の状態をさまざまな機器を用いて詳細に観察しました。

【研究の内容】

沖縄などで白化が顕著に観察されるミドリイシサンゴ2種を用い、まず非ストレス下(27℃)で飼育・馴致した後、徐々に水温を30℃まであげ、その状態を1週間維持しました。サンゴからの褐虫藻の放出量は27℃と30℃では大きく違いませんでしたが、30℃においては、サンゴから放出された褐虫藻の多くが消化されていました。一方、サンゴ組織内には消化された褐虫藻はほとんど見出されませんでした。このことから、サンゴは、水温ストレスによりダメージを受けた褐虫藻を消化して排出していることが示唆されました。

また、放出された褐虫藻には消化を受けていない細胞も見つかりますが、その光合成活性は水温の上昇とともに徐々に低下していきました。一方、サンゴ内には光合成能が低下した褐虫藻はほぼ存在していませんでした。これは、水温上昇によりダメージを受けた褐虫藻を、消化せずに、緊急的に排出する機構だと思われました。

これらの機構は、サンゴにとって有害である弱った褐虫藻を体内に溜めないための、

サンゴの防衛機構だと思われます。しかし、この様にして水温上昇によって褐虫藻が弱り、それらが次々と排出されていくことによってサンゴの白化が引き越されると思われます。

【波及効果と今後の展開】

サンゴは、世界中のあらゆる生物の中で最も速く絶滅に向かっているとされます。サンゴ礁は海の熱帯雨林ともよばれ、生物多様性の宝庫です。このすばらしいサンゴ礁を残し保護していくには、その最大の減少要因である「サンゴの白化」のメカニズムを知る必要があります。

今回の成果においては、サンゴがある程度の水温上昇に自ら適応しようとする姿がみえますが、同時に、それが長期間に及ぶと白化につながる危険性も示唆されています。サンゴが変わりゆく地球環境に懸命に戦っている姿を知り、気候変動をもたらす人間が自らの責任を感じるときではないでしょうか。

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