News Release

ヒトiPS細胞から作製した腎臓の細胞が血管とつながる

~腎臓再生医療に向けて大きく前進~

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

image: This is a human iPS cell-derived glomerulus that is connected to the mouse vasculature upon transplantation. view more 

Credit: Professor Ryuichi Nishinakamura

熊本大学発生医学研究所の研究グループは、ヒトiPS細胞※1から誘導した

腎臓組織をマウスの腎臓に移植することによって、誘導ヒト腎臓組織内の糸球体※2にマウスの血管がつながることを証明しました。科学雑誌「Journal of the American Society of Nephrology (アメリカ腎臓学会雑誌)」オンライン版に11月19日17:00(アメリカ東部時間)【日本時間の11月20日午前7時より情報解禁】に掲載されます。

本成果は、試験管内で作ったヒト腎臓糸球体が移植により血管とつながって、さらに成熟することを示したもので、尿を作るという腎臓の機能獲得へ向けた大きな前進です。またこの方法を元に腎臓の病気を再現できる可能性があり、病因の解明と創薬開発につながることが期待されます。  

この研究は、熊本大学発生医学研究所腎臓発生分野のSazia Sharminさん(大学院医学教育部博士課程)、太口敦博助教、西中村隆一教授らが、順天堂大学(栗原秀剛准教授)、広島大学(山本卓教授ら)と共同で行ったもので、科学技術振興機構CREST「人工多能性幹細胞(iPS細胞)作成・制御等の医療基盤技術」、科学研究費補助金の支援を受けました。  

(概要説明)

  • 糸球体のろ過機能を司る細胞(ポドサイト※3)が緑色に光るヒトiPS細胞を作成し、試験管内でヒト糸球体ができる過程を初めて可視化した。

  • 緑の蛍光を指標にヒト糸球体のポドサイトを純化し、生体の糸球体で重要な機能を持つ遺伝子群が発現していることを証明した。
  • iPS細胞由来の腎臓組織をマウスに移植することによって、ヒトの糸球体にマウスの血管が取り込まれた。
  • 血管に隣接するヒト糸球体のポドサイトには特徴的なろ過膜が形成され、尿のでき始めと推定されるものが観察された。

※1 iPS細胞:皮膚から作られた万能細胞
※2 糸球体:腎臓中で血液から尿をろ過する部位
※3 ポドサイト:糸球体のろ過機能を司る細胞。複雑な突起と特殊なろ過膜を持つ。  

(説明)

腎不全による人工透析患者数は増加の一途をたどり、社会的問題にもなっているものの、腎移植の機会は限られています。網膜など多くの臓器で臨床応用も視野に入れた再生医療研究が進む一方で、腎臓を創ることは極めて困難とされていましたが、我々は2013年末に、ヒトiPS細胞から試験管内で3次元の腎臓構造の作製に成功したことを報告しました。  

多くの腎臓疾患では、血液から尿をろ過する糸球体という部位に支障を来します。糸球体のろ過機能は、血管に接するポドサイトという細胞が担っており、特殊なろ過膜によって水分は通り抜けるが血液中の蛋白は尿に漏れないようになっています(図1参照)。そこで今回は、糸球体とその中のポドサイトに焦点をあてて詳しく解析しました。まず、iPS細胞を遺伝子改変することによって、緑に蛍光発色するヒト腎臓組織を試験管内で作成し、ヒト糸球体がどうやってできていくかを解明しました。そして緑の蛍光を使ってヒト糸球体のポドサイトだけを取り出して解析し、試験管内で作ったものが、生体において機能的に重要な遺伝子群を実際に発現することを明らかにしました。さらにヒトiPS由来の腎臓組織をマウス体内に移植すると、マウスの血管を伴った糸球体を形成できることがわかりました(図2参照)。ヒト糸球体ポドサイトは生体内と同じように血管と隣接することでさらに成熟し、特徴的なろ過膜構造を形成しました。糸球体内には尿のでき始めを示す像も観察されました。

血管を取り込んだヒト糸球体、及び特徴的なろ過膜をもつポドサイトを作ったという報告は世界で初めてです。今後、腎臓の排出路部分を作って組み合わせることで、尿を作って流すという腎臓の機能獲得に向けて前進することができます。また患者様由来のiPS細胞を使うことによって、腎臓病の原因解明と新薬の開発への貢献も期待されます。

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(論文及び著者)
Human induced pluripotent stem cell-derived podocytes mature into vascularized glomeruli upon experimental transplantation
Journal of the American Society of Nephrology on line Nov 19, 2015

Sazia Sharmin, Atsuhiro Taguchi, Yusuke Kaku, Yasuhiro Yoshimura, Tomoko Ohmori, Tetsushi Sakuma, Masashi Mukoyama, Takashi Yamamoto, Hidetake Kurihara and Ryuichi Nishinakamura

【お問い合わせ先】
●研究内容に関すること
熊本大学発生医学研究所 腎臓発生分野
教授 西中村 隆一(にしなかむら りゅういち)
電話:096-373-6615  E-mail:ryuichi@kumamoto-u.ac.jp


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