News Release

【日本人の約2割は肥っていなくても脂肪肝に注意】

日本人では肥満の基準を満たしていなくてもPNPLA3 遺伝子

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

image: Longitudinal changes in the prevalence of non-alcoholic fatty liver disease stratified by the PNPLA3 genotype among normal weight Japanese subjects. view more 

Credit: Dr. Kentaro Okniki (http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0132640)

このニュースリリースには、英語で提供されています。

熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)薬物治療学分野の鬼木健太郎助教、猿渡淳二准教授らは、日本赤十字社熊本健康管理センター・緒方康博所長、大竹宏治医師らとの共同研究により、PNPLA3遺伝子に変異がある人では、たとえ肥っていなくても、脂肪肝やそれに関連する腎機能障害の発症リスクが高いことを、人間ドック受診者を対象とした臨床研究により初めて明らかにしました。

脂肪肝(アルコールや肝炎ウイルスが原因のものを除く)は食べ過ぎや運動不足等により、肝臓に中性脂肪が溜まった"肝臓の肥満症"ともいえる状態であり、近年の食生活の欧米化に伴い、日本でも増加傾向にあります。脂肪肝は慢性肝炎や肝硬変等の肝疾患だけでなく、糖尿病や腎機能障害、心血管疾患等の生活習慣病の発症や進展にも関わってきます。通常、脂肪肝は肥満と共に発症しますが、日本人は欧米人と比べて、肥満の基準を満たしていない人(非肥満者)の脂肪肝発症者の割合が特に高く、さらに非肥満者の脂肪肝は糖尿病や高血圧等の合併率が高いことが問題となっています。加えて、脂肪肝は自覚症状がないため見過ごされやすく、慢性肝炎などの進行した状態で発見されることも多いため、早期発見・予防が重要となっています。これまで欧米人を中心とした遺伝子解析により、肝臓で脂肪分解に関与するPNPLA3遺伝子に変異があると脂肪肝の発症や進展に関わることが報告されてきましたが、非肥満者への影響は明らかではありませんでした。

今回、本研究結果から、日本人では、PNPLA3遺伝子に変異のある人(日本人の約2割)は、たとえ肥っていなくても脂肪肝や腎機能障害を発症しやすく、生活改善等による積極的な介入が望まれることが示唆されました。

本研究の成果はアメリカ東部夏時間の2015年7月22日14時(日本時間7月23日午前3時)に「PLOS ONE」に発表されました。「PLOS ONE」は生命科学・医学を含む多種多様な領域の科学論文が掲載される世界最大のオープンアクセスジャーナルです。

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<論文名>

Influence of the PNPLA3 rs738409 polymorphism on non-alcoholic fatty liver disease and renal function among normal weight subjects
(非肥満者において、PNPLA3遺伝子変異が非アルコール性脂肪性肝疾患の発症と腎機能低下に関与する)

<掲載雑誌>
PLOS ONE, in press (2015)

<著者名・所属>

鬼木健太郎1、猿渡淳二1,2*、居塚智子1、梶原彩文1、守田和憲1、坂田美咲1、大竹宏治3、緒方康博3、中川和子1,2
1熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)薬物治療学分野
2熊本大学薬学部育薬フロンティアセンター
3日本赤十字社熊本健康管理センター
*論文の責任著者

<研究の背景>

PNPLA3の変異遺伝子型は欧米人を対象とした遺伝子解析により、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)*1の発症に関与することが2008年に見出され、その後、PNPLA3が肝臓において脂肪の分解に関与することや、PNPLA3の変異遺伝子型が脂肪肝の進行した疾患(慢性肝炎、肝硬変、肝がん)の発症にも影響することが報告されてきた。日本人においても、PNPLA3の変異遺伝子型を持つ人の割合は約2割と高く、その重要性は高い。一方で、日本人を含むアジア人では、欧米人と比べて肥満の基準*2を満たさない人(非肥満者)におけるNAFLDの割合が高く、事実、日本人のNAFLD患者の約4割は肥満を呈さない。また、非肥満者のNAFLDは糖尿病や高血圧等の合併率が高いことが問題となっており、それらの疾患に伴う腎機能障害や心血管疾患等の発症リスクも高いと考えられる。しかしながら、非肥満者におけるPNPLA3の変異遺伝子型の影響は明らかではなく、日本人におけるNAFLDの予防・治療戦略を立てる上で重要な情報が欠けていた。

<研究の内容>

上記の背景を踏まえて、本研究では、日本赤十字社熊本健康管理センターの人間ドック受診者740名を対象に(うち、393名は経時的データ含む)、PNPLA3遺伝子型がNAFLD発症並びに腎機能低下に及ぼす影響について、肥満の基準を基にグループ化して検討した。NAFLDに関する検討では、飲酒習慣のある者*3や、B型肝炎やC型肝炎の原因となるウイルスを保有する者を除外した。その結果、肥満の基準を満たさない群において、PNPLA3遺伝子に変異のある人では、NAFLD罹患率が約3倍高く、推定糸球体濾過量*4は低かった。さらに、この結果は約5年間の経時的なデータを用いた解析においても確認された。

以上より、日本人ではたとえ肥満の基準を満たしていなくてもPNPLA3遺伝子に変異を持つ人では、NAFLDや腎機能低下に注意が必要であると考えられた。

最近、PNPLA3遺伝子に変異を持つ人は、持たない人と比べて、食生活の改善や運動によりNAFLDが改善しやすいことが報告されており、遺伝子変異を持つ人の積極的な生活改善が望まれる。今後、本研究結果に加えて、NAFLDや腎機能障害の発症・進展に関わる他の遺伝子型やその他の因子の影響を明らかにできれば、NAFLDや腎機能障害発症の早期予測が可能になり、リスクが高い人の早期抽出と積極的な生活改善指導・治療によって、NAFLDや腎機能障害の効率的な予防・治療と医療費の削減が期待できる。

*1非アルコール性脂肪性肝疾患
肝臓に中性脂肪が沈着して肝障害をきたす疾患の総称であり、飲酒に
よって引き起こされる肝障害や、ウイルス性、自己免疫性の肝疾患は除外
される
*2肥満の基準
BMI指数[体重kg�(身長m)2]が25kg/m2以上の場合、肥満と定義される。
*3飲酒習慣
一日の平均アルコール摂取量が男性30g以上、女性20g以上
アルコール30gは日本酒1合又はビール大瓶1本に相当する
*4推定糸球体濾過量
血清クレアチニン値、年齢、性別から推算される腎臓の機能を表す値で、推定糸球体濾過量が低いと腎機能の低下を表す
多くの医療施設で腎機能の評価項目として使用される


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