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横顔が輝く宇宙灯台:謎の超高輝度X線パルサーの正体をスパコンがあばく

Peer-Reviewed Publication

National Institutes of Natural Sciences

新タイプの宇宙灯台モデルのイメージCG

video: 降着柱(赤色)が中性子星へと落下すると衝撃波により降着柱が熱せられて明るく輝く。このとき光は降着柱の側面から抜け出るため、降着ガスの落下を妨げることなく継続的に明るく輝くことができる。中性子星の自転軸と降着柱の向きとの「ずれ」が降着柱の角度を周期的に変化させ、降着柱の表面が一番広く見えるタイミングで明るく見えるためパルスとして観測される view more 

Credit: NAOJ

 超高輝度X線源と呼ばれる、古典的な限界光度(後述)の10倍や100倍を超えて極めて明るく光る謎のX線天体が、何百個も発見されています。それは、通常の100倍以上も多量のガスを吸い込んで光るブラックホールとする説が現在もっとも有力です。ブラックホールは「底なしの井戸」なので、周りにガスがあればいくらでも吸い込み、明るく光ることができるのです。

 ところが2014年に米国のX線観測衛星NuSTAR(ニュースター)は、超高輝度X線源の一つ M82 X-2から、規則正しい周期で発せられるX線(X線パルス)を検出しました。ブラックホールはパルスを出しません。一般にパルス放射をする天体は「パルサー」と呼ばれ、その正体は直径10kmほどの高密度天体(中性子星)と考えられています。超高輝度X線源は全てブラックホールであるとした当時の定説を大きく覆す、衝撃的な発見でした。しかし従来の考え方では、中性子星がこれほどX線を強く放射することはできないとされていました。いかにして「底がある」(すなわち、固い表面をもつ)中性子星がガスを多量にとりこんで、通常のパルサーより何百倍も明るいパルスを放射するのか、大きな謎となりました。世界中の研究者がこの不可思議な現象解明に取り組んだのです。

 一般に、天体にガスが多量に降り積もると、ガスがそれまでもっていた重力エネルギーは熱に変換され、高温となり明るく光ります。しかし、このとき光は圧力を生み出し、ガスを落ちる方向とは逆方向に押し戻してしまうのです。ガスが落ちてこないので、ガスはこれ以上明るく光ることができません。これが「古典的な限界光度」であり、これは天体の質量によって決まっています。さらに、パルスが出るということは、中性子星の磁場の極に形成されたガスの柱(「降着柱」とよぶ)が、中性子星の自転に伴って、灯台のように周期的に周りを照らすことで説明されます。では、この降着柱に多量のガスが降ってくるとどうなるでしょうか。はたしてガス降着により、柱は通常の何百倍も明るく光ることができるでしょうか?

 しかし、この疑問に答えることは簡単ではありません。この問題解明には、ガスの運動と、電磁波放射の伝搬、そしてガスと放射の相互作用の3つを正確に解く必要があります(放射流体シミュレーション)。これには高度な計算技術と、多くの計算を必要とします。そのため、降着柱に対してこのような計算が行われてきませんでした。

 これらの問題に対し今回、川島氏らの研究グループは、世界に先駆けて「放射流体シミュレーション」と「降着柱」の両方を取り入れた中性子星へのガス降着のシミュレーションを行うことに成功しました。川島氏らは、これまでにブラックホールにおけるガス降着に対して、大規模な放射流体シミュレーションを精力的に行ってきた研究グループです(2010年大須賀助教プレスリリース (link is external)等)。ブラックホールの計算で養った技術やコードを活かし、中性子星へのガス降着に応用することによって、今回のシミュレーションが実現したのです。

 さらにこの計算は、国立天文台天文シミュレーションプロジェクトが運用するスーパーコンピュータ「アテルイ」(Cray XC30) によって行われました。天文学専用のスーパーコンピュータを用いることで、多くの計算を必要とする今回のシミュレーションが可能となったのです。

 今回シミュレーションにおける特筆すべき点は、新しいパルサーのモデルです。従来のパルサーモデルとは、中性子星の両極方向に光のビームが出るという「古典的な宇宙灯台モデル」です(動画1参照)。磁極を真正面から覗き込む形になった時に、パルサーが明るく観測されます。しかし今回の計算では、従来型とは別タイプの「宇宙灯台モデル」を提唱しました(動画2参照)。これは、降着柱の側面が明るく光るというモデルです。光る側面が、パルサーの自転で見える角度が変わることによって明滅します。これまでに、似たようなアイディアが提唱されていたことがありましたが、本当に側面が明るく光ることが可能かどうかを実際に多次元シミュレーションで確かめられたのは、今回が初めてのことです。

この新しい宇宙灯台モデルを用いたシミュレーションの結果(図2)、中性子星に向かって降着柱の中をガスが落下すると、中性子星の表面付近で衝撃波が発生し、莫大な光が生み出されました。しかし、この光が柱の側面方向から抜けてゆくことで光の圧力が弱まり、継続的にガス降着が可能となることがわかりました。この降着柱の側面から抜けていく光は、超高輝度X線源の光度に匹敵する明るいX線であることが示されました。この研究で、パルス放射をする超高輝度X線源の中心天体が中性子星であるということを、初めてシミュレーションより裏付けることができたのです。

 シミュレーションを行った川島氏は次のように語ります。「天文学の最も大きな未解決課題の一つとして、数百万太陽質量以上の巨大ブラックホール形成シナリオの解明があります。超高輝度X線源の正体がブラックホールではなく、中性子星であれば、数ある巨大ブラックホール形成シナリオに制限を与えられるかもしれません。今後は、新しい灯台モデルの詳細な観測的特徴を明らかにするために、強い磁場中での放射とガスの相互作用に関する補正や一般相対論的な補正を加えたより精緻な計算をおこない、超高輝度X線源の中心天体の謎にさらに迫っていきたいと思います。」

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