News Release

台風に負けない観測拠点

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

Plankton

image: Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University researcher Mary Grossmann identified more than fifty thousand plankton images. This figure shows the diversity of her findings, including diatoms (c), radiolarians (d), copepods (f), isopods (g), shrimp (k), and fish (l). view more 

Credit: OIST

このニュースリリースには、英語で提供されています。

台風時に海は撹拌され破壊をもたらすことは知られていますが、台風の間に何が起こっているのかを正確に調べることは難しく、海洋においてはことさら困難です。沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、海中で何が起こっているのかを長期間にわたってモニタリングするために、海洋観測システムを設置しました。海洋生態物理学ユニットに所属するマリー・グロスマン博士は、この観測システムを用いて、台風の最中にプランクトンに何が起こっているのかを究明しました。2014年12月30日付で The Journal of Oceanography 電子版に発表された同博士の研究は、台風時に海中で起こっている現象を知る貴重なものです。

 グロスマン博士は、次のように語っています。「台風が来る前に起こっていることはわかっています。台風が去って安全になったらすぐに船を出すことができるので、台風の後に起こっていることも知ることができます。けれども、台風の最中に何が起こっているのかは、明らかにされていません。」プランクトンの微細な形態を調べられるほど感度が高く、台風の威力にも耐えることができる観測機器を選択することは、容易なことではありません。海洋生態物理学ユニットは、沖縄県の本部半島沖に「OCTOPUS」と呼ばれる観測ステーションを設置しました。「OCTOPUS」は、OISTケーブル海洋観測システム(OIST Cabled Teleoperational Observatory Platform for Undersea Surveillance)を略した呼び名です。このOCTOPUSには、カメラ、波高や波長などの計測用モニター類、温度センサーを含めた海中をモニタリングするためのさまざまなツールが搭載されています。このステーションは、水深約20 メートルの海底近くに位置しており、沖縄美ら海水族館より動力の提供を受けています。「最初の台風のとき、ケーブルに問題が起こりました」と、グロスマン博士は説明しています。「電力供給ケーブルが何本か引き抜かれてしまい、いくつかのセンサーへの送電が遮断されたのです。」 また、別の台風では、沖縄美ら海水族館が停電したために、グロスマン博士は荒天時のデータを全く収集することができませんでした。このような困難がありましたが、2013年の台風シーズンが終わるまでに、3回の台風のデータを集めることができました。

 グロスマン博士が使用している機器の1つに、同博士とユニットを率いる御手洗哲司准教授が「プランクトン連続撮像システム(Continuous Plankton Imaging System)」と呼んでいる装置があります。この機器は、小さな水滴サイズである30マイクロリットルの海水に焦点を合わせた高解像度の画像を1秒間に4回撮影します。グロスマン博士はこの画像を用いて、撮影体積中のすべての生物を同定しました。この作業は、コンピュータの力を借りて各画像の空白部をすべて切り取ることによって行いました。「沖縄の海は貧栄養です。つまり、食べ物があまりないのです」と、グロスマン博士は説明します。「水は真っ青で澄みきっているので、とても深くまで見ることができます。これはつまり、海水中に何もない、ということです。」それでもグロスマン博士は、この研究の中で、珪藻類、放散虫類、カイアシ類、等脚類のほか、エビやクラゲ、魚類の幼体など、5万個体を超えるプランクトンを同定しました。

 グロスマン博士は、次に、台風の間にプランクトン濃度がどのように変化するのかを図式化しました。すべての台風で同じ結果にはなりませんでしたが、興味深いパターンがいくつかみられました。例えば、浮遊性プランクトンの2つのグループである珪藻類と放散虫類はどの台風のときにも増加しました。一方、クラゲや等脚類のように遊泳能力のあるいくつかのプランクトンのグループは、台風時の高濁度の水を積極的に回避しているようでした。このようなプランクトンの多くが海水中で激しく巻き上げられる砂粒と同じ大きさであることを考えると、これは理にかなっているといえます。「それはまるで、自分に向かって木を投げつけるたくさんの人達と一緒に森の中に入って行くようなものです」と、グロスマン博士は語っています。博士はまだ、遊泳能力のあるプランクトンが台風の間どこに行くのかを突き止めてはいませんが、水の濁度が低い水柱の上層部に移動する可能性があると考えています。

 プランクトンが一貫した移動習性をもっていることに、グロスマン博士は驚きました。「大型台風の最中でも、プランクトンがその移動パターンを変えることはありません」と、同博士は語っています。例えば、エビ類や等脚類は、台風時にもやはり夜間にのみ摂食のために現れました。ある1時点では画像中に大量の端脚類が観察され、その後すぐに毛顎類の大群が現れて端脚類に取って代わりました。グロスマン博士は、毛顎類の1個体の体内に端脚類が取り込まれているのを発見するまで、この突然の変化を説明することができませんでした。博士は、毛顎類が端脚類を摂食している場面を観察することができたのです。「このような対になる写真が見つかるというだけでも、プランクトンの画像を手作業で分類する価値があります」と、博士は語っています。

 しかし、グロスマン博士はすぐに、この研究は決して包括的なものではなく、まだ誰も見たことがなかった海中の様子を垣間見ただけであると指摘しました。結局のところ、見ることができているのは、生態系のごく一部にすぎません。同博士は、あらゆる水深で写真を撮影することができるよう、カメラをウインチに取り付けたいと考えていますが、台風に耐えてこれを行う方法はありません。「満潮時や干潮時に起こる波によってさえ、カメラが危険にさらされるおそれがあります」と、グロスマン博士は語っています。ただ、観測ステーションが砂中に安定してきたため、次の台風シーズンには、より多くの台風時にデータを収集することができるものと期待しており、「ケーブルはゆっくりと沈み込んでいるので、来年はトラブルが少なくなるだろうと考えています。」 と付け加えました。

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