News Release

新しい抗血栓療法時代の評価法

- 複数の抗血栓薬の効果判定を一つの機器で -

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

T-TAS Results

image: Changes of AR values by NOAC (Edoxaban). view more 

Credit: Dr. Koichi Kaikita (http://dx.doi.org/10.1016/j.ijcard.2015.06.041)

熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科学(小川久雄客員教授・国立循環器病研究センター副院長)の海北幸一講師、有馬勇一郎医師、伊藤美和医師、末田大輔特任助教らは、虚血性心疾患、心房細動などの不整脈や、深部静脈血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)等で抗血栓薬※1を服用中の患者において、国産の新しい測定装置※2(Total thrombus-formation analysis system: T-TAS、藤森工業)を用いて血栓形成能(血栓のできやすさ)を測定することが薬効の評価や出血リスクの予測に有効であることを明らかにしました。  

抗血栓薬は血液をサラサラにする薬として、心臓病や脳卒中の予防・治療に広く用いられていますが、これまでこれら多くの抗血栓薬の効果はそれぞれ異なる手法によって評価されており、一度に複数の治療薬を併用している場合などには、患者の状態に応じた一様な評価が難しい状態でした。中でも新規経口抗凝固薬※3に関しては適切な効果判定法もなく、薬が安全で有効かどうかを確実に判断できませんでした。

本成果は、T-TASという新しい測定器を用いることで、これまで抗凝固効果の判定が困難であった新規経口抗凝固薬の効果や、虚血性心疾患患者が飲んでいる複数の抗血小板薬の効果を一つの検査機器で評価できることを明らかにしたものです。さらにT-TASの測定結果は出血性合併症の指標にもなりうることが示され、一連の報告は抗血栓薬の種類、投与量の調節や、出血・血栓性疾患の新たな管理指標として用いられることが期待されます。  

本研究成果は、文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて、一部の結果はすでに昨年、医学雑誌「International Journal of Cardiology」に、最新の結果については「Journal of the American Heart Association」オンライン版に米国(EST)時間の2016年1月6日(土)【日本時間の1月16日(土)】に掲載、さらに「Journal of Thrombosis and Haemostasis」オンライン版に米国(EST)時間の2016年1月25日【日本時間の1月26日(日)】に掲載されました。

※1 抗血栓薬

血栓と呼ばれる血液の固まりがひきおこす心筋梗塞や脳梗塞などの治療・予防に用いられる薬で、血液が容易に固まることを防ぎ、血栓形成を抑制します。血栓は血小板と凝固因子の相互反応により形成されますが、抗血栓薬は効果を発揮する部位に応じて、抗血小板薬と抗凝固薬に大別されます。血栓ができにくくなる(血液が固まりにくくなる)一方で、出血しやすい、出血が止まりにくいなどの副作用があります。

※2 血栓形成能解析システム(Total thrombus-formation analysis system: T-TAS)  

血管を模したマイクロチップと検体(採血した血液)を送り出すポンプ、圧力センサー、光学顕微鏡で構成されるモニタリング装置。採血した血液は測定までに煩雑な前処理が不要で、しかも必要な試料は500μLと少量で済む点が特長です。チップ上に流れる血液が模擬血管に血栓を形成していく様子を実際に見ることができ、血栓ができる速さや量を定量的に評価することが可能です。得られる結果は、凝固因子の活性反応を中心に測定するAR値と、血小板の活性化を中心とした血栓形成を測定するPL値の二つがあります。

※3 新規経口抗凝固薬  

この数年で日本市場に広まった新しいタイプの抗凝固薬で、旧来の抗凝固薬(ワルファリン製剤)と比較してより選択的に凝固因子を抑制することができます。そのため、十分な効果を保ちながら副作用(出血)を減らすことが期待され、急速に普及している薬剤です。しかし、効果を測定することが旧来の方法では困難などの問題もあります。

1.
論文名
A novel quantitative assessment of whole blood thrombogenicity in patients treated with a non-vitamin K oral anticoagulant.

著者名(*責任著者)
Sueta D, *Kaikita K, Okamoto N, Arima Y, Ishii M, Ito M, Oimatsu Y, Iwashita S, Takahashi A, Nakamura E, Hokimoto S, Mizuta H, Ogawa H.

掲載雑誌
International journal of cardiology (Int J Cardiol. 197:98-100, 2015)

(説明)

 心房細動や深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)の治療に対して使われる新規経口抗凝固薬は、これまでのワルファリン製剤(ワーファリン錠)と異なり、納豆や青汁などの食事制限が必要ない、血液検査で内服量を調整する必要がない、他の薬剤との飲み合わせに優れている、など多くの利点がある一方で、薬価が高いことや個人に合った内服量を調整することができないといった欠点があります。

 整形外科で膝関節置換術や股関節置換術を行う際には深部静脈血栓症が起こりやすいことが知られており、深部静脈血栓症を予防するために新規経口抗凝固薬を予防的に使用することが保険診療で認められています。

末田特任助教らは、整形外科との共同研究により、膝関節置換術目的に入院した連続20症例を対象として、T-TASを用いて新規経口抗凝固薬の服薬前後での血栓のできやすさを検討しました。測定の結果、新規経口抗凝固薬(エドキサバン)の服薬によりT-TAS値(AR10-AUC30)が有意に低い(血栓のできやすい状態が改善されている)ことが明らかとなり、T-TASが新規経口抗凝固薬の効果判定に有用であることが示されました。

2.
論文名
Total Thrombus-formation Analysis System (T-TAS) predicts periprocedural bleeding events in patients undergoing catheter ablation for atrial fibrillation

著者名(*責任著者)
Ito M, *Kaikita K, Sueta D, Ishii M, Oimatsu Y, Arima Y, Iwashita S, Takahashi A, Hoshiyama T, Kanazawa H, Sakamoto K, Yamamoto E, Tsujita
K, Yamamuro M, Kojima S, Hokimoto S, Yamabe H, Ogawa H.

掲載雑誌
Journal of the American Heart Association (J Am Heart Assoc. 2016 in press)

(説明)  

心房細動は日本では70万人以上が罹患していると推定される不整脈で、血液がよどむことにより血栓ができやすくなり、脳梗塞や全身性塞栓症の発症率が高くなります。血栓形成を予防するためには抗凝固薬による適切な治療が必要ですが、新規経口抗凝固薬の内服後に、安全かつ有効かどうかを判断する確実な指標がないのが現状です。  

本研究で伊藤医師らは、熊本大学循環器内科で心房細動に対してカテーテル治療を受けられた128症例の血栓形成能を、T-TASを用いて評価しました。その結果、新規経口抗凝固薬の内服3日目で、T-TAS値は有意に低下し、さらにカテーテル治療により出血性合併症を生じた群では、カテーテル治療前のT-TAS測定値がすでに有意に低い(血栓ができにくい、出血しやすい性質である)ことが明らかとなりました。以上の結果は新規経口抗凝固薬の効果を早期に判別する測定システムであることを明らかにし、測定値を活用することにより適切な出血・血栓症予防の管理が可能になると期待されます。

3.
論文名
Assessment of platelet-derived thrombogenicity by the total thrombus-formation analysis system in coronary artery disease patients on antiplatelet therapy

著者名(*責任著者)
Arima Y, *Kaikita K, Ishii M, Ito M, Sueta D, Oimatsu Y, Sakamoto K, Tsujita K, Kojima S, Nakagawa K, Hokimoto S, Ogawa H.

掲載雑誌
Journal of Thrombosis and Haemostasis (J Thromb Haemost. 2016 in press)

(説明)  

抗血小板薬はいわゆる「血液をサラサラにする薬」の一種で、狭心症や心筋梗塞・脳梗塞の再発予防に必要な抗血栓薬です。現在日本でも数種類の抗血小板薬が使用されていますが、高齢化に伴う合併疾患の増加により、抗血栓薬の多剤服用による出血性合併症(薬効により血液が固まりにくくなる)が問題となっています。また狭心症の治療で冠動脈ステント留置術を受けた後、一定期間二種類の抗血小板薬を服用しなくてはなりませんが、これまで異なる抗血小板薬の効果を、一つの指標で評価することはできませんでした。

本研究で有馬医師(現国立循環器病センター上級研究員)らは、熊本大学循環器内科に入院した冠動脈疾患患者372症例の血栓のできやすさをT-TASを用いて評価しました。T-TASの測定値のうち、血小板による血栓形成を反映するPL値を用いて検討した結果、抗血小板薬非服用群(56例)に比べて、抗血小板薬単剤使用群(69例)と二剤併用群(149例)ではPL値が有意に低下し、血小板による血栓ができにくい状態になっていることが判りました。さらに、抗血小板薬の単剤使用群より二剤併用群においてPL値が更に低下することも明らかとなり、抗血小板薬の相加的な効果が明らかとなりました。以上の結果は異なる種類の抗血小板薬の効果を単一の測定値で評価できることを示したものです。そのため抗血小板薬による血栓形成抑制能を総合的に評価する指標として、抗血小板薬の多剤併用の解消や、患者の状態に応じた個別の管理に活用することが期待されます。

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【お問い合わせ先】
熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科学
担当:講師 海北幸一(かいきたこういち)
電話:096-373-5175
e-mail:kaikitak@kumamoto-u.ac.jp


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