別の研究は、抗酸化物質について癌の拡散を促進する可能性を明らかにしているが、今回の研究では、特定のタイプの糖尿病治療薬に含まれる抗酸化物質が対象とされている。癌を有するマウスを用いた研究者らは、そうした薬剤の一部が既存の癌(結腸癌と肝臓癌を含め)の転移を促進し得ることを今回発見した。この所見がもしヒトで実証されると、抗酸化物質を含有するこのタイプの薬剤を、癌を有する糖尿病患者に投与することに対する警告となる。動物実験によるエビデンスの増加は、毒性のある活性酸素種から細胞を保護する化合物である抗酸化物質が、癌の増殖や転移をも加速化させる可能性を強調している。抗酸化物質は、酸化ストレスが誘因となる疾患である糖尿病の患者の治療に一般的に用いられている。糖尿病は多くの癌のリスクを高める疑いがあり、癌も有する糖尿病患者の数も増加しつつある。しかし、糖尿病治療薬が癌に対してどのように影響を及ぼすのかは、ほとんど分かっていない。Hui Wangらは、抗酸化作用を有する一般的な糖尿病治療薬の2つのクラスについて、その影響を結腸癌および肝臓癌を有するマウスで調べた。その結果、これらの薬剤は癌の発現リスクを高めはしなかったものの、既存の腫瘍の転移を加速させたことが分かった。薬剤に含まれる抗酸化物質は、癌細胞を酸化ストレスから保護して、その遊走と浸潤の能力を高めるようであった。細胞実験から、この薬剤はNRF2シグナル伝達経路を活性化し、転移促進蛋白質の発現を誘発することが示された。実際、NRF2の欠失(遮断)により、癌細胞の遊走が顕著に抑制された。肝臓腫瘍の患者から採取したサンプルの分析では、NRF2発現は腫瘍転移と関連することが示された。これらの結果に基づいて、研究者らは、癌を有する糖尿病患者に対する、抗酸化物質を含有する薬剤の安全性について評価するさらなる研究を行うよう求めている。研究者らが何らかの最終的な臨床上の推奨を行うには、マウスで得られた今回の所見を臨床研究で確認する必要があるだろう。
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Journal
Science Translational Medicine