図2 エイズウイルス(HIV)の誕生に至るまでの霊長類レンチウイルスの異種間伝播経路と、本研究成果のまとめ (IMAGE)
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分子系統学とウイルス分離場所の地理情報の統合解析(系統地理学的解析、biogeography)から、エイズウイルスは、約100年前に中央アフリカで誕生したと推察されています。エイズウイルスは、系統学的に、グループM(major)、N(non-M-non-O)、O(outlier)、Pの4つのグループに分類されます(図右。カッコ内の数字は、現在に至るまでに生み出したと推定される総感染者数)。また、ウイルスの遺伝配列の分子系統学的解析から、グループMとNのエイズウイルスはチンパンジーのレンチウイルスSIVcpzが、グループOとPのエイズウイルスはゴリラのレンチウイルスSIVgorが、それぞれヒトへと異種間伝播することで誕生したことが示唆されています。また、ゴリラのレンチウイルスSIVgorもまた、チンパンジーのレンチウイルスSIVcpzが、ゴリラへと異種間伝播することで誕生したと推察されています。このように、ウイルスの配列情報を用いた分子系統学的解析により、エイズウイルスの誕生につながる、類人猿の中でのレンチウイルスの異種間伝播の経路については詳細が明らかとなっています。しかし、それぞれのレンチウイルスがどのようにして新しい宿主の「種の壁」を乗り越え、新しいレンチウイルス(ヒトにとってのエイズウイルス)へと適応進化したのか、その分子メカニズムについてはほとんど明らかとなっていませんでした。本研究により、HIVグループOとPの祖先であるSIVgorが誕生する際、その祖先であるSIVcpzのVifタンパク質が、M16Eという変異を獲得することにより、ゴリラの内因性免疫であるAPOBEC3Gを拮抗阻害する機能を新規に獲得したことが明らかとなりました。
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©佐藤佳
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