News Release

よく伸び自己修復・形状記憶する新素材を “ごみゼロ”で調製することに成功

Researchers from Japan synthesize hydrogels using tannic acid and ultra-high molecular weight polyethylene oxide using a zero-waste process

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

image: A blend of UHMW PEO and TA results in the formation of a dense, highly stretchable hydrogel, known as TaPeO Gel. These remarkable gels exhibit exceptional elongation, adhesive properties, and minimal swelling properties. view more 

Credit: Taishi Higashi from Kumamoto University, Japan

( 概要説明)
熊本大学大学院先導機構/大学院生命科学研究部 (薬学系) の東 大志准教授、同大学大学院薬学教育部博士前期課程2 年の後藤唯花大学院生( 当時)らのグループは、タンニン酸 (TA) と超高分子量のポリエチレングリコール(PEO) を水中で混合すると、ゴム状によく伸びるゲル (TaPeO ゲル) が得られることを明らかにしました。TaPeO ゲルを水分を含んだ状態で引っ張るとよく伸び、最大 1,000% の伸長率を示しました。また、TaPeO ゲルを乾燥させると、軽量で強靭なプラスチック様の素材に変化しました。大変ユニークなことに、乾燥 TaPeO ゲルを破断しても、破断面をお湯に浸し再接着させると、元通りになりました。また、乾燥 TaPeO ゲル自体は固い素材ですが、お湯に浸して応力を加えると変形可能でした。変形した素材を再度お湯に浸すと、最初の形に戻ったことから、乾燥 TaPeO ゲルは形状記憶能を有することが分かりました。さらに、TaPeO ゲルを調製する際に生じる不要な上清を捨てずに乾燥すると、伸長率1,500% 以上と、今回使用した試験機では測定できないほどよく伸びるフィルム (TaPeO フィルム) を調製することができました。すなわち、TA と PEO を用いると、“ ごみゼロ” で強くて賢いゲルやフィルムを調製することができました。今後、本素材を医療素材などに応用していく予定です。
本研究成果は、国際科学雑誌「Results in Materials」において、令和 5 年7 月 31 日に公開されました。本研究は、文部科学省卓越研究事業の支援を受けて実施されたものです。


( 説明)
東 准教授は、お茶を飲んだ際に感じる舌のざらつき“ 渋み”が好きで、日常的に濃い味のお茶を飲んでいました。ある日、渋みの原因が気になり調べたところ、お茶に含まれるタンニン酸 (TA) が原因であることを知りました。さらに、TA について詳しく調べていくと、TA は、東 准教授がよく研究で多用するポリエチレングリコール (PEG) と、水中で混合するだけでゲルを形成するという、海外の論文に辿り着きました (Kim et al., Adv. Funct.Mater., 2015, 25, 2402–2410)。早速試してみると、論文に書かれていた通り、粘性の高い液体のりのような物質を得ることができました。このときに使用したPEG の分子量は 1 万で、一般的によく用いられる分子量の PEG でした。東 准教授の研究室には、様々な分子量の PEG があるため、超高分子量の PEG (PEO)( 分子量50万) で試行したところ、 TA と水中で混合した瞬間、既報の TA/PEG ゲルとは全く性質の異なるゴム状のゲルが得られました。非常にユニークなゲルであると感じたため、興味を持った複数の学生とチーム「タンニン酸ファミリー」を立ち上げ、本ゲルを TaPeO ゲルと命名しました。こんなこともできる、あんなこともできると議論を重ね、TaPeOゲルの性質を追究していきました。学生のアイデアも加わり、TaPeO ゲルの非常にユニークな性質が次々と明らかになりました。
まず、TaPeO ゲルは、TA 水溶液と PEO 水溶液を混合し、得られた塊を回収して得ます 。この塊を圧縮成形し、引張試験を実施しました 。その結果、TaPeO ゲルは一定の条件で調製したゼラチンゲル、アガロースゲル及びアクリルアミドゲルよりも強靭でよく伸びる ( 最大で自長の1,000% 以上) ことが分かりました 。また、TaPeO ゲルを切断し、切断面を接触させると再接着しました。
次に、ゲルを乾燥させ、乾燥 TaPeO ゲルを調製しました。乾燥 TaPeO ゲルはプラスチックのように固く軽量で、500 g の負荷をかけても破断しませんでした。また、一般的なプラスチックは一度破断すると元には戻りませんが、乾燥 TaPeO ゲルは、破断しても破断面をお湯に浸して接触させるだけで、破断面が視認できなくなるほど元通りになりました。すなわち、乾燥TaPeO ゲルは自己修復能を示すことが明らかとなりました。自己修復した乾燥 TaPeO ゲルは、 500 g の負荷をかけても形を維持し、その強靭性は破断前のゲルと同等でした。
乾燥 TaPeO ゲルはそのままでは固くて変形しませんが、お湯に浸すと変形し、さらに室温でしばらく放置すると、その形状を固定できました。変形した状態でさらにお湯に浸すと、一番最初の形に戻すことができました。すなわち、乾燥 TaPeO ゲルは形状記憶能を有することが明らかとなりました。
TaPeO ゲルを調製する際には、不要な上清 (懸濁液) が生じます。その上清には、ゲルを作ることができなかった未反応の TA や PEO があるはずであり、その上清を乾燥させると、フィルムができるのはないかと考えました。
期待通り、TaPeO ゲルを調製する際に生じる上清を捨てずに乾燥させると、透過性のあるフィルム (TaPeO フィルム) が得られ、伸長率1,500%以上と、試験機では測定できないほどよく伸びることが明らかとなりました。
このように、TA と超高分子量 PEO を用いると、全く廃棄物を出すことなく、よく伸びて、自己修復能や形状記憶能を有する賢い素材を開発することができました。タンニン酸は安価で安全性も高く、環境に優しい素材です。抗菌作用や抗ウイルス作用も有します。さらに、新型コロナウイルスに対する抗ウイルス効果も報告されています。今後は、このような知見を有効活用し、医療材料等に応用していく予定です。


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