News Release

ナノカプセルに閉じ込めた金ナノ粒子を使って三次元構造を組み立てる新しい技術を開発

高感度のマルチカラーセンサーなどへの応用に期待

Peer-Reviewed Publication

Toho University

桒原 彰太 博士

image: 論文の責任著者 桒原 彰太 博士(東邦大学理学部化学科 准教授 ) view more 

Credit: 桒原 彰太 博士

東邦大学の桒原彰太准教授と名古屋大学の桒原真人准教授らの研究グループは、シリカ殻を持つナノカプセル内に閉じ込めた金ナノ粒子を用いて、ナノ物質による三次元構造を作り出す技術を新しく開発しました。ナノ物質同士を組み立てることにより新たな物性の発現が期待され、その三次元構造が持つ特徴的な光学特性を利用することで、高感度のマルチカラーセンサーなどの技術開発に繋がることが期待されます。
 
 この研究成果は2023年10月25日に英国王立化学会が刊行する「Nanoscale Advances」誌に発表され、同誌のOutside Front Coverとして選出されました。

 

発表者名

山田 龍一(東邦大学大学院理学研究科化学専攻 博士前期課程2年)
桒原 真人(名古屋大学未来材料・システム研究所 准教授)
桒原 彰太(東邦大学理学部化学科 准教授)

 

発表のポイント

  • 光学特性を利用してバイオイメージング、光触媒などへの応用が期待されている、金ナノ粒子を用いた三次元構造を構築することに成功しました。
  • 得られた金ナノ粒子の三次元構造の電子エネルギー損失分光(EELS)マッピングに関する計算結果から、外部から入射する電磁場のエネルギーに依存して異なるプラズモンモードが発生し、入射光のエネルギーに依存して、様々な位置に強い電磁場が発生する構造体を構築することができました。
  • 本研究成果は、多種類の金ナノ粒子の三次元構造を組み合わせた高感度のマルチカラーセンサーなどの技術開発に繋がることが期待されます。

 

発表概要

 金属ナノ粒子の形状に依存した局在表面プラズモン共鳴に対応した光を照射すると、位置特異的に発生した強電場によりナノ粒子を融合させることができます。本研究ではこの技術を利用し、金ナノ粒子を繋ぐことで高次構造体を構築し、金ナノ粒子の持つ特異な光学特性の拡張を目指しました。
 これまでは、金ナノ粒子の高次構造体を構築する際、金ナノ粒子同士の接触確率の低さと接触方向の制限から、金ナノ粒子で構成された立体構造を構築することが難しいことが課題となっていました。
 
 本研究では、メゾ多孔質のシリカ殻を持つサブミクロンサイズのシリカカプセル内に複数個の金ナノ粒子を閉じ込めることで金ナノ粒子の接触確率を上げ、また三次元方向から金ナノ粒子同士が接触できる空間を作り出すことにより、金ナノ粒子で構成された三次元構造を創製することに成功しました。
 これによって得られた金ナノ粒子の三次元構造について、走査透過型電子顕微鏡画像から推測し電子エネルギー損失分光(STEM -EELS)(注1)マッピングに関する計算を行った結果、外部から入射する電磁場のエネルギーに依存して異なるプラズモンモードが発生し、三次元構造のプラズモンモードの変化に伴い、ホットスポットの位置が変化することが明らかになりました。

発表内容

 ナノ粒子に光による電磁場が加わることで誘起される局在表面プラズモン共鳴(Localized surface plasmon resonance:以下、LSPR)(注2)は、ナノ粒子の形状に強く依存することが知られており、その光学特性を決めます。ナノ粒子の構造を制御することにより光学特性を自在に操ることができることから、これまで様々な構造を有する金属ナノ粒子が合成されています。そしてそれらの光学特性を利用し、センサーやバイオイメージング、光触媒などへの応用が報告されています。さらに高次の構造体を構築することでLSPRのモードを制御する方法が提案されており、DNAなどの化学修飾によりナノ粒子を繋ぐ方法が主に用いられています。
 一方、光照射により金属ナノ粒子に発生するLSPRを利用することで金属ナノ粒子を融合させ、金属ナノ粒子を繋ぐことができます。金属ナノ粒子の形状に依存したLSPRに対応した波長の光を照射することで、位置特異的に強電場が発生し、それに伴うホットエレクトロンにより金属ナノ粒子の融合が進むと考えられます。こうして得られた金属ナノ粒子の構造体では、光学活性、旋光性など、これまで分子に見られた光学特性を発現させることも可能となります。
 しかし、金属ナノ粒子を繋ぐ工程においては、金属ナノ粒子を含む溶液中で合成を進めるため、金属ナノ粒子の接触確率が低く、複数個の金属ナノ粒子を繋ぐことが難しいことが課題となっていました。また、基板上に金属ナノ粒子を塗布した場合、接触方向の制限から、金属ナノ粒子で構成された立体構造が構築できませんでした。

 本研究では、メゾ多孔質のシリカ殻を持つサブミクロンサイズのシリカカプセル内に複数個の金ナノ粒子を閉じ込めることで金ナノ粒子の接触確率を上げ、また三次元方向から金ナノ粒子同士が接触できる空間を作り出すことでこれらの課題を解決し、シリカカプセルに内包された複数個の金ナノ粒子を三次元方向から接触させ、光照射により金ナノ粒子を融合させることで、金ナノ粒子により構成された三次元構造を構築することができました。また、透過型電子顕微鏡観察から、金ナノ粒子により構成された三次元構造がシリカカプセル内に作り出されたことを確認しました。得られた金ナノ粒子の三次元構造について、走査透過型電子顕微鏡画像から推測し電子エネルギー損失分光(STEM-EELS)マッピングに関する計算を行った結果、外部から入射する電磁場のエネルギーに依存して異なるプラズモンモードが発生し、三次元構造のプラズモンモードの変化に伴い、ホットスポットの位置が変化することが明らかとなりました。
 得られた金ナノ粒子の三次元構造では、異なるプラズモンモードが三次元上の様々な場所に発生することから、LSPRによる光増強効果と組み合わせることにより、多色の光を使った高感度センサーへと応用展開することが可能です。また異なる位置に検出対象となる様々な分子を修飾すること、検出に用いる光の波長を変えるだけで異なる分子を一度に検出することも可能となると考えられます。今後は多種類の金ナノ粒子を融合し、異なるLSPRを発生させることで、高感度のマルチカラーセンサーなどを簡便に作製する技術開発へと繋がることが期待されます。

発表雑誌

雑誌名
「Nanoscale Advances」(2023年10月25日)

論文タイトル
Three-dimensional building of anisotropic gold nanoparticles under confinement in submicron capsules

著者
Ryuichi Yamada, Makoto Kuwahara, and Shota Kuwahara*(*責任著者)

DOI番号
10.1039/d3na00683b

論文URL
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2023/na/d3na00683b

用語解説

(注1)走査透過型電子顕微鏡-電子エネルギー損失分光法(STEM-EELS)
電子線を絞って電子ビームを観察対象の試料に照射し、試料を透過してきた電子を検出し像を得る透過型電子顕微鏡のうち、試料の上を、電子線を走査させてイメージングするものを走査透過型電子顕微鏡という。電子エネルギー損失分光法は、電子ビームを試料に照射し、透過してきた電子の持つエネルギーが、試料に当たる前と比べてどれだけ失われたかを検出する。励起するエネルギー領域により、プラズモンやバンド間遷移の情報を得たり、元素組成を分析できたりする。

(注2)局在表面プラズモン共鳴(Localized surface plasmon resonance:LSPR)
金属や半導体に電子や光が入射すると、材料表面に自由電子などの電荷の集団振動が誘起される。この固有振動を表面プラズモンといい、誘起された電場と入射光が共鳴すると、特定の光が強く吸収や散乱される。この現象を表面プラズモン共鳴と呼ぶ。ナノ粒子のように材料をナノサイズまで小さくすると、電荷の集団運動がナノ粒子に分極し、ナノ粒子の種類や形に依存した光学特性をもつ。これを局在表面プラズモン共鳴という。


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.