News Release

「 成人の慢性腎臓病透析患者に潜む遺伝性腎疾患を解明 」 ―未診断の遺伝性腎疾患が10%を超えて隠れている―

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

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Researchers conducted a comprehensive genetic analysis of end-stage renal failure patients with chronic kidney disease of unknown cause. They found that more than 10% of these patients had disease-causing variants of several inherited kidney diseases. Moreover, these diseases were not accurately diagnosed clinically. Researchers conducted a comprehensive genetic analysis of end-stage renal failure patients with chronic kidney disease of unknown cause. They found that more than 10% of these patients had disease-causing variants of several inherited kidney diseases. Moreover, these diseases were not accurately diagnosed clinically.

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Credit: Department of Nephrology, TMDU

 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 腎臓内科学分野の蘇原映誠准教授と森崇寧助教、藤丸拓也非常勤講師の研究グループは、医療法人眞仁会との共同研究で、20歳から49歳の間に慢性腎臓病の進行により透析療法や腎移植術を受け、その原因となる腎疾患が明らかでない患者を対象に網羅的遺伝子解析を行い、10%以上の患者に未診断の遺伝性腎疾患が潜在していることを明らかにしました。この研究は文部科学省科学研究費補助金、国立研究開発法人日本医療研究開発機構およびクラウドファンディングの支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌 Kidney International Reportsに、2024年2月14日にオンライン版で発表されました。

 

【研究の背景】

 慢性腎臓病は成人の7人に1人を占める新たな国民病と言われています。慢性腎臓病が進行すると透析療法や腎移植などの腎臓の働きを補う腎代替療法が必要となります。本邦で透析療法を受けている患者さんは約35万人います。成人の慢性腎臓病の原因の多くは糖尿病や高血圧などの生活習慣病が多いですが、約10%の患者さんは慢性腎臓病の原因が明らかではありませんでした。

 近年、成人の慢性腎臓病の患者さんにおいても、生まれつきの遺伝子の変異によって起きる遺伝性腎疾患が未診断のまま潜在していることが海外で報告されました。しかし、本邦において成人の慢性腎臓病患者を対象に網羅的遺伝子解析を実施した報告は今までになく、その実態は明らかにされていませんでした。また、原因となる腎疾患が明確でないまま慢性腎臓病が進行して腎代替療法が必要になった成人患者を対象にした網羅的遺伝子解析を実施した報告もありませんでした。

 

【研究成果の概要】

 本研究は、医療法人眞仁会の4つの外来維持血液透析施設に通院する1164名の患者さんのうち、20歳から49歳の間に腎代替療法を開始し、慢性腎臓病の原因となる腎疾患が明らかでない患者さん90名を対象に、我々が開発した298個の遺伝性腎疾患の原因遺伝子の網羅的解析を行いました。その結果、10名(11%)に遺伝性腎疾患が遺伝学的に診断されました。さらに、これらの患者は透析導入時に正確な臨床診断はされていませんでした。本研究で診断された遺伝性腎疾患の中にはファブリー病※3やアルポート症候群※4など、早期診断および早期治療にて慢性腎臓病の進行を抑えられる疾患も含まれていました。

 

【研究成果の意義】

 本研究は慢性腎臓病を対象とした網羅的遺伝子解析として、また、原因が不明な慢性腎臓病透析患者の遺伝子解析研究として日本で初めての臨床研究です。同時に臨床情報にアクセスできる血液透析など末期腎不全患者の網羅的遺伝子解析研究としては世界でも最大規模のものです。その結果として、日本における成人慢性腎臓病患者の中に多くの遺伝性腎疾患が診断されないまま潜在していることを明らかにしました。小児と異なり、成人期に慢性腎臓病として発見される遺伝性腎疾患は臨床診断が難しいことが示唆されており、これを解決するために網羅的な遺伝性腎疾患の遺伝子解析が有効であることも示しました。

 本研究ではすでに慢性腎臓病が進行した血液透析患者を対象にしており、この遺伝子解析によって腎不全進行を抑制することはできません。しかし、早期治療で慢性腎臓病の進行を抑えられる疾患も含まれていたことを考えますと、慢性腎臓病の原疾患が不明な場合、慢性腎臓病が進行する前に、遺伝子解析を行うことで正確な診断と適切な治療ができ、ひいては透析患者の減少につながる可能性を示しました。

 本研究グループは、2014年から1500家系以上の遺伝性腎疾患の網羅的遺伝子解析を施行した実績があり、そのデータ蓄積により、日本人特有の慢性腎臓病を対象とした新しい網羅的遺伝子解析システムの特許申請を2023年にしました。この慢性腎臓病の網羅的遺伝子解析システムの実用化により、慢性腎臓病患者に潜在する遺伝性腎疾患の正確な診断と適切な治療につなげることが期待されます。

 

【用語解説】

※1慢性腎臓病・・・・・・・・腎臓の働きが健康な人の60%未満に低下するか、タンパク尿が出るといった腎臓の異常が続く状態の疾患です。

※2網羅的遺伝子解析・・・・・・・・次世代シークエンサーという機械を用いて、複数の遺伝子を同時に調べる遺伝子解析手法です。

※3ファブリー病・・・・・・・・細胞内での糖脂質の分解に必要な酵素が生まれつき足りないために、全身の細胞に糖脂質が蓄積する遺伝性の病気です。主な症状のひとつに慢性腎臓病があります。

※4アルポート症候群・・・・・・・・腎臓を構成するコラーゲンタンパクの異常により慢性腎臓病に至る病気です。

※5常染色体顕性多発性嚢胞腎・・・・・・・・腎臓に嚢胞(水がたまった袋)がたくさんできて腎臓の働きが徐々に低下していく遺伝性の病気です。

※6ネフロン癆・・・・・・・・腎機能が徐々に低下する遺伝性の病気で、線維化(組織が線維成分に置き換わり硬くなってしまうこと)に加えて、特徴的な小嚢胞(球状の袋)が腎臓にできます。

※7常染色体顕性尿細管間質性腎疾患・・・・・・・・腎臓が線維化(組織が線維成分に置き換わり硬くなってしまうこと)し、徐々に腎機能が低下する遺伝性の病気です。


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