News Release

心と身体の制御に関わる「脳幹の孤束核」を読み解く

脳の深くにある孤束核を低侵襲に観察する生体脳イメージング法を開発

Peer-Reviewed Publication

National Institutes of Natural Sciences

image: 

Double-Prism-based brainStem imaging under Cerebellar Architecture and Neural circuits

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Credit: Masakazu Agetsuma

孤束核は、心と身体の制御に関わっている

迷走神経は、臓器からの信号を脳に伝えることで心の制御に関わると考えられています。迷走神経の電気刺激は、難治性の「てんかん」に対する治療として医療現場で用いられているほか、難治性うつの治療など幅広い効果が期待される療法の1つです。迷走神経が情報を伝える重要な部位の一つが、脳幹の「孤束核」です。孤束核には多くの臓器の情報が一旦集約され、そして脳内の心の制御に関わる様々な部位に情報を送達すると考えられています。

一方、孤束核は非常に多くの臓器から信号を受けとるため、集まる各情報は別々に他の脳部位へ中継されるのか、あるいは孤束核内部で各臓器情報のやりとりが起こるのか、など、詳細なメカニズムは未だ多くが不明です。

 

孤束核イメージングの難しさ

研究が進みづらい理由の1つとして、孤束核が小脳とよばれる脳部位の奥(深部)にあることが挙げられ、生きた状態での詳細な観察は非常に困難でした。過去には、小脳を取り除いた状態での孤束核の観察法も提案されましたが、小脳は運動制御に重要であり、更に最近ではこころ(情動)の制御にも重要であることが示されており、小脳機能を維持したままで孤束核を観察する手法が求められていました。

 

ダブルプリズムを用いることで孤束核のイメージングに成功

そこで揚妻らは、小脳機能を保持したまま孤束核の神経活動を記録することのできる、「D-PSCAN法」を新たに開発しました。D-PSCAN法では、2mmサイズのガラスの直角マイクロプリズムを2つ組み合わせた「ダブルプリズム」を用います。この微小なダブルプリズムを生体マウスの小脳と脳幹の隙間に埋め込むことで、小脳を神経切断せずに、その奥にある孤束核を広い視野で高解像度に可視化できます。この手法を元に、生きたマウス脳において、小脳の機能を保持したまま、孤束核の神経活動を広範囲で記録することに成功しました。

迷走神経を電気刺激した際の、孤束核神経細胞の生体内の反応を神経細胞レベルの解像度で検出することに成功したことで、将来的に迷走神経刺激療法の更なる改良につながる可能性も示唆されました。また、食後に分泌される腸管ホルモンの投与によって引き起こされる、孤束核の神経細胞の活動も、D-PSCAN法により検出することに成功しました。

 

今後の展望

今回の結果を受けて、揚妻准教授は「孤束核の役割は、こころの制御以外にも、節食、代謝、腸内細菌叢などに関する様々な研究分野で注目されております。今回開発した生体内での孤束核イメージング技術「D-PSCAN法」を用いることで、孤束核による心の制御や摂食・代謝の調節の仕組みの解明が進むことを期待しています」と語ります。

 


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