News Release

一つのセンサで建物の異常を簡易的に特定する

~持続可能な社会の実現に向けた建物の健全性評価に~

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

慣性型加振器を含む建物のモデル

image: 解析モデル(左)と実験モデル(右),右図のロードセルで力を測定 view more 

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<概要>

豊橋技術科学大学 機械工学系 機械ダイナミクス研究室の田尻大樹助教と河村庄造教授は、建物の最上階に設置された慣性型加振器で測定される力の周波数応答のみから建物の柱の剛性低下を簡易的に特定する手法を開発しました。この手法では、従来必要とされていた加速度センサなどを複数の階に設置することなく、力センサだけで建物全体の異常を診断することができます。この研究成果は、国際学術誌「Mechanical Systems and Signal Processing」に掲載されました。

 

<詳細>

 SDGs No.11 goalに掲げられている「住み続けられるまちづくりを」を実現するためには、建物の異常を早期に特定することが重要です。そのため、様々な分野で建物の健全性評価の研究が行われています。

建物が最も揺れる周波数(共振周波数≒固有振動数)は、建物の床の質量や柱の剛性などの物理特性と関係があることが古くから知られており、それを踏まえた異常診断手法の研究が行われてきました。その多くは、環境からの加振やアクチュエータによる加振によって建物に力が与えられ、複数階に設置された加速度センサで測定した加速度の周波数応答から共振周波数を読み取ることで異常の発生階と程度を特定していました。近年では、一つの階に設置した加速度の周波数応答から異常を特定する、機械学習を援用した手法なども提案されており、その一つの加速度センサをどの階に設置するか、国内外で議論されていました。

 そこで本研究チームは、センサの設置台数や設置位置に関する課題を解決するため、どの階にも加速度センサを設置する必要のない手法を開発しました。この手法では、建物の最上階に設置した慣性型加振器で建物を揺らし、その揺らす力の周波数応答のみから異常を特定することができます。理論的には、力の周波数応答の共振周波数が「建物と慣性型加振器を一つの構造物」と考えるときの固有振動数、反共振周波数が「建物のみが構造物」と考えるときの固有振動数に相当することに基づいています。この関係を定式化したうえで、数値シミュレーションと実験モデルによる実験により、この手法の妥当性と適用可能性が検証されました。

 

 

<開発秘話>

 機械工学系田尻大樹助教は、本研究の背景について次のように説明しています。

「建物に設置するセンサの数を減らすことができれば、センサの設置・組み込みに伴うコストを回避でき、センサの保守管理に伴うメンテナンスの長期化を防ぐことができます。そのため、センサの削減により異常診断手法の導入と運用が加速すると期待していました。

そのような中で、どのようにセンサを削減するかを模索していたとき、別の研究で加振器そのものの周波数特性を把握する必要があり、その実験で初めて力の周波数応答だけに着目することになりました。振動工学に精通する研究者にとっては当たり前のことかもしれませんが、加振器を取り付ける土台は、非常に重く、非常に硬い金属などを用いるべきです。しかし、無知であった私は、何も考えずに、実験室にあった金属の板やブロックを加振器の土台にして、力の周波数応答を測定しました。このとき、本来知りたかった加振器の共振周波数以外に共振周波数や反共振周波数が現れること、土台の大きさや剛さによってそれらが異なることに気付きました。これを逆手にとって、力の周波数応答だけを使って構造物の異常を診断できないかという考えに至りました。」

 

<今後の展望>

 この研究では、単純な材料や構造の実験モデルを用いて実験検証を行い、開発された手法の適用可能性を確認しましたが、今後は、実際の建物に近い材料・構造を用いた実験モデルや実際の建物を対象にする場合の手法の実用性や拡張性について検討していきます。

また、実際の建物を揺らすことができる加振器は存在するのかという問題については、高層ビルなどの建物にはアクティブ動吸振器と呼ばれる振動を抑制するための装置が設置されており、それをあえて異常診断のための加振器として活用することができるのではないかと考えられます。それらの装置は、地震や風により建物が揺れるときにのみ作動するため、あえて加振器として活用することができれば、SDGs No.12 goalに掲げられている「つくる責任つかう責任」を果たすことに貢献すると考えられます。

 

<論文情報>

Daiki Tajiri and Shozo Kawamura (2025). Simple abnormality diagnosis method for layered structures using force measurement data of an inertial vibrator. Mechanical Systems and Signal Processing, 10.1016/j.ymssp.2025.112648 .

 

 


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