摩擦現象の謎「静摩擦のパラドックス」を簡単なモデルで説明

横浜国立大学の中野健教授と渡辺稔紀大学院生は、摩擦現象の謎として長年残されている「静摩擦のパラドックス」の問題に取り組み、わずか六個のパラメータで描かれる力学的なトイモデルで明快に説明するシナリオを発見しました。

静摩擦のパラドックスとは、「固着しているように見える接触面が実は極低速ですべっている」、つまり「静摩擦が作用すべき状況で動摩擦が作用している」という奇妙な実験事実のことを指します。とりわけ固着とすべりを繰り返すスティックスリップにおける静摩擦のパラドックスは、超精密計測や超精密加工を左右する原子スケールの摩擦から、我々がモノに触れたときに感じる肌ざわり、音楽を奏でる擦弦楽器の音色、機械が発する不快なノイズ、そして我々の平和な生活を脅かす地震の発生源となる地球内部のプレート間の摩擦まで、人間社会の多様な側面に直結する基礎的な問題です。高校の物理にも登場する静摩擦や動摩擦などの常識的な概念を使わずに同パラドックスを説明する本研究の斬新なアプローチは、一般に複雑と言われる摩擦現象に対して従来とは異なる視点を提供し、摩擦の学理を多角的に深化させることが期待されます。

本研究成果は、American Physical Society（米国物理学会）が発行する国際学術誌「Physical Review E」にて、2025年6月18日に公開されました。