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古代のヤムシを通じて生命の進化を解明

『Nature』に掲載された研究で、謎に包まれたヤムシのゲノム、エピゲノム、細胞レベルの特徴が初めて統合的に明らかになりました。

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

小さな魚雷のような形をした毛顎動物(chaetognath)は、地球上で最も奇妙な生命体の一つと言えるかもしれません。彼らは海を泳ぎ回り、小型の甲殻類を捕食しています。毛顎動物は、口の周りにあるキチン質のかぎ形のとげ(ギリシャ語で「chaite」は「とげ」、「gnathos」は「あご」を意味する)にちなんで名付けられ、ヤムシ(矢虫・arrow worm)とも呼ばれています。

世界中の海洋に広く分布しているにもかかわらず、この独特な生物の進化の起源は、長年、生物学者を悩ませてきました。チャールズ・ダーウィンも1844年に「系統関係が不明瞭」と記しています。注目すべきは、この虫が、節足動物、軟体動物、環形動物を含む「前口動物」と、脊髄を持つすべての動物を含む「後口動物」の両方の特徴を併せ持っている点です。これらの二つのグループは、約6億年前のエディアカラ紀に共通の祖先から分岐したと考えられています。

しかし今回、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)、三重大学の後藤研究室、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームが、この謎に包まれた生物のゲノム、エピゲノム、細胞構造を解明し、その研究成果は科学誌『Nature』に掲載されました。プランクトンであるヤムシは、通常、実験室での飼育が困難ですが、唯一「イソヤムシ(Paraspadella gotoi)」という種だけは飼育が可能です。この種の学名は、ヤムシの飼育に初めて成功した三重大学の後藤太一郎特任教授を讃えて命名されました。

シャッフルする遺伝子 

イソヤムシを対象にした研究で、研究チームは、ヤムシがカンブリア紀(数億年前)からほとんど形を変えていないにもかかわらず、そのゲノムは驚異的な速度で進化し、極めて独自の遺伝的特徴を獲得したことを明らかにしました。さらに、シングルセルRNAシーケンシングにより、これらの独自の遺伝的特徴を、ヤムシの体全体に存在する特殊な細胞タイプと直接結びつけることができました。これらの細胞は、ヤムシの独特な形態や捕食行動に深く関与しています。

「ほとんどの動物は、最後の共通祖先から受け継いだ同じ遺伝子セットを使用する傾向がありますが、ヤムシは遺伝子セットを極端に再編成し、多くの新しい遺伝子、例えば水腔内の運動を感知する独自の感覚細胞タイプに関わる遺伝子などを本質的に発明したのです」と説明するのは、OISTで始まった本研究の責任著者で、元OISTの研究員、現在はUCLのシニアリサーチフェローのFerdinand Marlétaz博士です。「より一般的には、私たちの研究は、一部の動物群が分子経路を使って分岐する仕組みも示しています。」

研究チームは、進化的多様化の鍵として知られる新規遺伝子の誕生と遺伝子重複の両方が、前例のない速度で起こっていることに加え、ヤムシには、細胞分裂時にゲノムを正確に伝えるために重要な、染色体の中央にあるセントロメアの組み立てに関与する遺伝子が存在しないことを発見しました。それにもかかわらず、ヤムシがセントロメアを保持していることが判明したことから、染色体を組織化する独自の仕組みがあることを示唆しています。これらは、研究チームが明らかにしたゲノムおよび分子構成の、特異な特徴の一部にすぎません。また、かつて議論の的となったヤムシの分類については、軟体動物、環形動物、扁形動物と同じ初期の螺旋卵割動物に属することも確認しました。

「このデータにより、ヤムシの進化発生ゲノムを正確に記述し、細胞タイプと直接関連付けることが可能になりました」と、OISTマリンゲノミックスユニットの佐藤矩行教授は述べています。「これまで、このような手法は、線虫やショウジョウバエなど、よく研究されているモデル動物にのみ適用されていましたが、本研究により、動物界全体に適用可能であることが示されました。生命進化の本質的な理解に向けてまた一歩前進することができました。」


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