image: Turbulent Flow
Credit: Rosti (2025), J. Fluid Mech., 1012, R5. CC BY-NC 4.0.
乱流とは、飛行機に乗っているときに感じる揺れの原因となる、不規則で混沌とした動きのことで、何世紀にもわたり、科学者たちの関心を集めてきました。沖縄科学技術大学院大学(OIST)では、この現象を「複雑流体」と呼ばれる特殊な物質群において研究しています。水のような単純な流体とは異なり、複雑流体は液体と固体の中間のような振る舞いをします。例えば、ポリマーと呼ばれる長鎖分子を流体に加えると、ポリマーはその乱流の挙動を劇的に変化させ、流れのダイナミクスに影響を与えることがあります。こうしたポリマー流体は複雑流体の一種で、シャンプーや食器用洗剤、手指消毒剤、ケチャップなど、私たちの身の回りに広く存在しています。
ポリマー流体の流れを形作る物理的な基本原理は、これまで明確に解明されておらず、集中的な研究が続けられてきました。この理解は、例えば、流れの挙動が薬剤の放出速度に影響を与える標的型の薬物送達(ドラッグデリバリー)システムのような応用分野において非常に重要です。しかし、ポリマー流体では慣性や弾性といった複数の要因が複雑に相互作用することで、乱流の振る舞いも多様になり、その根本的な動力学を解き明かすのはこれまで困難とされてきました。
最近まで、2種類の乱流はそれぞれ異なる条件下で発生すると考えられていました。一つは「慣性乱流」で、飛行機の揺れのような流体の不規則な動きに見られる典型的な乱流です。これは、流体の慣性力が支配的なときに起こり、非常に不規則な流れを生み出します。
もう一つは「弾性乱流」と呼ばれ、より珍しい現象です。例えば、水に絵の具を混ぜることを想像してください。ゆっくり優しくかき混ぜても、突然予測不能な渦が現れることがあります。これは、流体中のポリマーが伸びて弾性エネルギーを蓄え、それが流れを不安定にするために起こります。この場合、流れを支配するのは弾性力です。これまでは、慣性乱流は高速で大規模な流れでしか発生せず、弾性乱流は非常にゆっくりで穏やかな流れでのみ発生すると考えられてきました。
この度、OISTの複雑流体・流動ユニットによる最新の研究では、この2種類の乱流が、実は同時に存在していることが明らかになりました。研究成果は、科学誌『Physical Review Letters』に掲載されています。研究チームは、高度なコンピュータシミュレーションを用いて、大規模な流体運動は慣性乱流のように振る舞う一方で、同じ流れが極めて小さなスケールでは弾性乱流に移行することを発見しました。
「今回の研究で必要とされたシミュレーションは前例のないものでした」と語るのは、論文の筆頭著者であるピユーシュ・ガルグ博士です。「微細なスケールの情報を捉えるには、極めて高解像度のモデルを効率よく実行できる計算システムが不可欠でした。これほどのレベルで詳細を明らかにできたからこそ、この現象を発見できたのです。実際、今回のシミュレーションは、これらの流体に関するものとしては過去最大規模です。」
この発見は、弾性乱流がこれまで考えられていたよりもはるかに広く存在している可能性を示しています。「これまでは、弾性乱流は慣性がほとんどない、非常にゆっくりで穏やかな流れでしか発生しないと考えられていました。しかし、私たちの研究では、それが誤りであることが示されました。ポリマー流体において、弾性乱流は慣性乱流と同時に小さなスケールで出現することを発見しました。つまり、同じ流れの中に、スケールの違いによって、2種類の乱流が存在しているのです」とガルグ博士は説明します。
「この発見は、これまで別々の分野とされていた乱流研究と複雑流体研究をつなぐ架け橋となります。OISTの学際的な研究環境があったからこそ、異なる分野の研究者が知見を共有し、未解決の問題に取り組むことができました」と語るのは、論文の共著者であり、複雑流体・流動ユニットを率いるマルコ・ロスティ准教授です。
この研究により、弾性乱流が慣性ポリマー流体の中でも発生することが明らかになり、乱流の理解において欠けていた重要なピースを提供するかもしれません。これにより、パイプラインでの抵抗低減、化学物質の混合、バイオメディカル分野など、ポリマーを使って流体の挙動を制御する産業分野において新たな可能性が広がります。
本研究の一部はOIST、日本学術振興会(JSPS)、革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の支援を受けて実施しました。
画像:ロスティ (2025), J. Fluid Mech., 1012, R5. CC BY-NC 4.0.
Journal
Physical Review Letters
Method of Research
Computational simulation/modeling
Subject of Research
Not applicable
Article Title
Elastic Turbulence Hides in the Small Scales of Inertial Polymeric Turbulence
Article Publication Date
13-Aug-2025