News Release

世界初、カンキツ害虫の共生細菌から「謎の管状構造」を発見

〜害虫防除や生命進化研究に新たな突破口〜

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

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 The Asian citrus psyllid (left), a representative elongated Profftella cell containing numerous intracellular tubules (middle), and the architecture of a single tubular structure (right).

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<概要>

豊橋技術科学大学の中鉢淳 准教授、韓国・釜山大学の宋致宖 助教授、生理学研究所の村田和義 特任教授、神戸大学の洲﨑敏伸 学術研究員らによる国際研究チームは、世界的なカンキツ害虫であるミカンキジラミに共生する細菌「プロフテラ」から、生物界に前例のない新たな管状構造を発見しました。この成果は、チームが多様な顕微鏡技術を駆使して明らかにしたもので、害虫防除の新たな戦略に加え、生命進化の研究にも大きな展開をもたらす可能性があります。

<詳細>

ミカンキジラミ(Diaphorina citri*1(図A)は、世界のカンキツ産業に深刻な被害をもたらし、カンキツ類の国際価格高騰の一因にもなっている重要な農業害虫です。この虫は腹部に特別な器官を持ち、その中に「プロフテラ(Candidatus Profftella armatura)」*2という細菌を共生させています。プロフテラは、親から子へと受け継がれる細菌で、毒性物質を使ってミカンキジラミを天敵から守る「防衛共生体」であり、ミカンキジラミを選択的に防除するための標的として注目されています。また、先ごろの電子顕微鏡観察により、プロフテラには既知の細菌では見られない特異な構造が存在する可能性が示されました*3。ゲノム情報などから、それがウイルスなどの外来生物である可能性は否定されましたが、その全体像や三次元的な配置、構成成分については明らかになっていませんでした。

そこで本研究では、連続ブロック表面走査型電子顕微鏡(SBF-SEM)法*4や超高圧電子顕微鏡(HVEM)トモグラフィー法*5など、最先端の三次元電子顕微鏡技術を駆使して、プロフテラの内部構造を詳細に解析しました。その結果、プロフテラの細胞は太さ約2 μmで、長さは最大136 μm以上と極めて細長く、最大45 μmにも及ぶ長大なチューブ状構造を多数(1細胞あたり1〜43本)持つことが明らかになりました(図B)。これらのチューブは直径約230 nmで、5~6本の繊維が右巻きにねじれたらせん状構造からなり、プロフテラ細胞の体積に対して一定の割合を占めることも判明しました(図C)。さらに、化学固定や包埋などの処理を施さなくても、高真空下の電子顕微鏡観察において形状が保持されるほど、安定で強固な構造であることが分かりました。蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)*6、DNA染色、ヌクレアーゼ*7処理、電子顕微鏡観察を組み合わせた解析により、これらのチューブはDNAを含む「核様体」*8ではなく、プロフテラ自身のリボソーム*9を多数含む構造であることも示されました(図D)。以上から、今回発見されたチューブ状構造は、プロフテラの細胞小器官(オルガネラ)*10と定義でき、リボソームを用いたタンパク質合成に関与するだけでなく、長大なプロフテラ細胞に機械的な支持を与え、物質輸送の足場としても機能する可能性があります。一般に細菌はオルガネラを持たないため、本成果は、細菌におけるオルガネラ発見として極めて稀有な例です。この発見は、生物の進化過程における細胞構造の発達を理解する新たな手がかりとなるとともに、宿主であるミカンキジラミの選択的防除法開発の基盤としても期待されます。

<展望>

今後は、チューブの主要構成成分、構築機構、機能の解明を進めます。

<論文情報>

本研究成果は、2025年9月18日付で科学雑誌「Npj Imaging」にオンライン掲載されました。

Chihong Song, Junnosuke Maruyama, Kazuyoshi Murata, Toshinobu Suzaki, and Atsushi Nakabachi (2025). Enigmatic tubular ultrastructure in the bacterial defensive symbiont of the Asian citrus psyllid Diaphorina citri. Npj Imaging, September 18, 2025. doi: https://doi.org/10.1038/s44303-025-00107-w


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