News Release

ハイパースペクトルカメラを用いた青色オーロラの初の高精度高度分布観測

高度200kmにおける明るい青色オーロラ発生メカニズムの解明に向けて

Peer-Reviewed Publication

National Institutes of Natural Sciences

図

image: 朝、太陽が昇るにつれて、オーロラの太陽光照射部分は高高度から始まり、時間の経過とともに徐々に下層へ広がっていく。 view more 

Credit: 自然科学研究機構 核融合科学研究所

研究背景

 

オーロラ:オーロラは宇宙からの電子が地球の大気(酸素や窒素)と衝突し発光する自然現象である。赤、緑、紫など多様な色は「どの原子や分子が 光を発する」か、「エネルギーがどのように変化するか 」によって決まる。この光には「落下する粒子の速度」や「 大気の状態」に関する情報が隠されている。

 

どの高度で輝くのか?:地上から見たオーロラは空全体に広がるように見えるが、実際の高度を特定するのは困難だった。従来法では複数のカメラを異なる場所に設置し立体画像を撮影することで高度推定を行っていた。単一カメラでは高度を特定できないと考えられていた。

 

新たな発想:研究者らは実験室でのプラズマ研究に着想を得た。そこでは長年確立された技術として、「粒子ビーム」を発射し、そのビームによって励起された光と観測の視線との交点によって深度を決定する方法があった。今回はこれをオーロラに応用し、太陽光によって励起されたオーロラ発光(共鳴散乱光) を利用した。この光とカメラの視線の交点を利用することで、単一カメラでの高度推定が可能となった。

 

ハイパースペクトルカメラの強み:通常のカメラやフィルター観測では、夜明けの薄明時に太陽光反射と共鳴散乱光が混在し、区別が困難である。しかしハイパースペクトルカメラは「光の色の情報(波長)を極めて細かく観察」できるため、両成分を正確に分離・捕捉できる。

 

研究成果

2023年10月21日未明にスウェーデン・キルナで観測された青色オーロラについて、当研究チームは核融合科学研究所が設置したハイパースペクトルカメラのデータ解析を実施。オーロラ発光の原因となる窒素分子イオン(N₂⁺)の高度分布を精密に推定することに成功した。

夜間オーロラ発光では、窒素分子イオンの発光が高度約130kmで最も強くなることが知られている。しかし今回の夜明け時(天文薄明)の観測では、発光強度の増加率が高度200kmでピークに達することが明らかになった。これは少なくとも薄明時間帯において、高度200kmという高高度での発光が極めて強いことを直接示しており、そのような高高度に窒素分子イオンが存在している可能性を示唆している。

この結果は、高高度における窒素分子イオンの密度が従来考えられていたよりも高い可能性を示唆するこれまでの観測を裏付けると同時に、オーロラ形成に関わる物理過程に関する理論モデルの検証を可能にした。ハイパースペクトルカメラを用いた高精度観測は、オーロラ研究に新たな道を開くものである。

 

研究成果の意義と今後の展開

ハイパースペクトルカメラを用いたオーロラ観測により、従来定量化が困難だった天文薄明期における共鳴散乱光の時間的・高度変化を正確に捉えた。干渉フィルターを用いた従来型カメラと比較し、観測領域を拡大するとともに新たな高度推定手法を導入した。

  これは、電離層における窒素分子イオンの生成と流出という長年の課題の解決に寄与することが期待される。

 

今後、この学際的研究は国内外の大学・研究機関との連携を通じて進展し、世界的なオーロラ研究の発展に寄与することが期待される。

 

【用語解説】

※1 ハイパースペクトルカメラ:光を分光的に細かく分解できるカメラ。従来のカメラが光を3バンド(赤・緑・青)に分割するのに対し、ハイパースペクトルカメラは数百のより細かいバンドに分割可能。市販のハイパースペクトルカメラは昼間撮影用であり、微弱なオーロラを観測できない。オーロラ観測には高感度カメラが必要。

 

※2 薄明:日の出前または日没後、空が完全に暗くならない 状態で、大気散乱光によりかすかに明るさを保つ時間帯。具体的には太陽の亜高度角(地平線と太陽中心の間の角度)が12度から18度の間を指す。

 


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