新しい研究により、オオムギのMKK3遺伝子の変異が種子休眠を微調整して、休眠状態を継続するか、早期発芽するかを決める仕組みが明らかになった。この研究結果から、育種家は、気候条件が変化する中で種子休眠と作物の耐性のバランスを取るための新たな遺伝子ツールを得ることができた。農業は改良された特徴を持つ作物を意図的に選択することで発展してきた。とりわけ穀物における選択の際の重要な特徴の一つは、種子が発芽可能となるまでの期間、つまり、種子休眠である。野生穀物の場合、種子休眠のおかげで植物は予測不可能な状況でも確実に生き延びることができる。栽培穀物の場合、栽培化の際に迅速で均一な作物の定着と収量の増加を可能にすべく、人間による選択で休眠期間は短縮した。しかし、休眠期間の短縮でオオムギのような現代の穀物では穂発芽(PHS)が発生しやすくもなる。つまり暖かく湿った気候で穀物が早期に発芽してしまい、大きな農業損失につながる可能性がある。地球の気温が上昇し、極端な気候が頻発するようになるにつれ、PHSとそれに関連する作物損失の発生は増える可能性が高い。
種子休眠は世界の食糧安全保障にとって重要にあるにもかかわらず、この特徴の根底にある進化と分子機構は依然として不明点が多い。これまでの研究で、Mitogen-activated protein kinase kinase 3(MKK3)遺伝子の変異が種子休眠の調整に重要な役割を果たしていることが示されている。Morten Jøgensenらは、野生及び栽培オオムギにおけるMKK3の遺伝子変異を調査し、MKK3蛋白質のわずかなアミノ酸変化が休眠とPHS耐性に大きな違いをもたらすことを発見した。詳細な遺伝子及び分子解析により、栽培オオムギは、その野生の祖先とは異なり、MKK3遺伝子のコピーを多数持っていることが多く、このコピー数多型とキナーゼ活性を変化させるアミノ酸変化が組み合わさって、オオムギの種子休眠を微調整していることが判明した。その研究結果によると、地域の気候や農業慣行に応じて、世界各地で異なるMKK3ハプロタイプが進化したという。例えば、麦芽製造やビール醸造で低休眠性のオオムギが好まれるヨーロッパ北部では過剰に活性化した変異体が出現し、東アジアといった湿度の高いモンスーン地帯ではPHSを防ぐために休眠性の強いタイプが存続している。何らかの用途や生育条件内で生産性と品質を向上させるということで、特定のMKK3ハプロタイプが地域ごとに突出するようになった。しかしそれらの遺伝的複雑性は、従来の交雑育種にとって課題となっている。Jørgensenらは、このことは、現代の遺伝子型に導入すれば、変動する気候条件で持続可能で耐性のある作物の成長を促進できる変異体を特定する際のパンゲノムアプローチの価値を例証していると述べている。
Journal
Science
Article Title
Post-domestication selection of MKK3 shaped seed dormancy and end-use traits in barley
Article Publication Date
6-Nov-2025