News Release

アルツハイマー病とパーキンソン病に共通する脳の仕組みを発見

脳内の信号伝達を妨げる共通のシナプス機構が明らかになり、 神経変性症状の共通原因が特定されました。

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

共通のシナプス機構

image: 共通のメカニズムを表現したイラスト。背中合わせに並ぶ2人のシルエットの頭部には、明るい色の歯車がかみ合うように描かれ、脳内の共通のシナプス機構を象徴している。黄色、青、緑、赤、オレンジの鮮やかな背景が、治療法の可能性を感じさせる前向きな印象を与える。 view more 

Credit: 瀬良垣香織(OIST)

アルツハイマー病とパーキンソン病は、世界中で数百万人が罹患している代表的な神経変性疾患です。沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、両疾患に共通する分子カスケード(分子の連鎖反応)がシナプス機能障害を引き起こすことを明らかにし、症状が生じる仕組みの理解を一歩前進させました。本成果は、科学誌『Journal of Neuroscience』に掲載されました。

研究チームは、疾患に関連するタンパク質の蓄積によって、シナプスを介した脳細胞のコミュニケーションがどのように妨げられるかを探索しました。その結果、脳内の正常な信号伝達に不可欠なシナプス小胞の再利用を妨害する経路を発見しました。本論文の筆頭著者であるディミタル・ディミトロフ博士は次のように述べています。「シナプスは、さまざまな機能を制御する神経回路に関与する、脳内のコミュニケーションのハブです。したがって、記憶に関わる神経回路のシナプスにタンパク質が蓄積すると記憶が障害され、運動制御に関わる神経回路に蓄積すると運動障害を引き起こすことが予測されます。そのためシナプス機能障害に共通する同一のメカニズムが、アルツハイマー病とパーキンソン病に伴う異なる症状を引き起こす可能性があります。」

脳の情報伝達を支える小胞の働き 

脳は神経伝達物質を使って、細胞間で信号をやり取りしています。これらの神経伝達物質は脳細胞内で生成され、シナプス小胞と呼ばれる小さな膜の袋に包まれて貯蔵・輸送されます。小胞は細胞膜に移動して融合し、神経伝達物質をシナプス間隙に放出します。放出された神経伝達物質は拡散し、近くの細胞にある受容体に到達します。信号伝達を持続させるには、小胞が細胞膜から回収され、神経伝達物質を再充填したうえで再利用される必要があります。 

本研究では、小胞の回収プロセスを阻害し、脳の正常な情報伝達を妨げる分子カスケードを特定しました。 

病気に関連するタンパク質が脳細胞に蓄積すると、細胞の構造と機能に不可欠な微小管と呼ばれるタンパク質フィラメントが過剰に産生されます。過剰に生成された微小管は、ダイナミンというタンパク質を捕捉してしまいます。ダイナミンは、空となった小胞を細胞膜から回収し、再利用するうえで重要な役割を果たしています。ダイナミンが減少すると、小胞の回収と再利用が滞り、脳細胞間のシグナル伝達とコミュニケーションが妨げられるのです。

アルツハイマー病とパーキンソン病の治療法開発への期待 

この新たな共通メカニズムの解明により、創薬ターゲットとなり得る複数の段階が明らかになりました。「疾患関連タンパク質の蓄積の防止、微小管の過剰な生成集合の阻止、あるいは微小管とダイナミンの結合の阻害―私たちが発見した新しいメカニズムは、アルツハイマー病とパーキンソン病に共通する三つの潜在的な治療ターゲットを特定しています」と、本論文共著者の高橋智幸名誉教授は述べています。「こうした研究は、患者やその家族、そして社会全体への負担を軽減する新たな治療法の開発に向けて、重要な役割を果たします。」 

本研究は、チームによる長年の研究の成果に基づいています。これまでに、微小管がパーキンソン病に関わるとの報告(2017年) 、ダイナミンと微小管の結合がアルツハイマー病に関わるとの報告 (2022年)、そしてマウスのアルツハイマー病症状を改善するペプチドについて報告しています(2024年)。今回の研究成果に基づき、研究チームは、このペプチドがパーキンソン病の症状緩和にも応用できる可能性があると考えています。 


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