image: Figure: Experimental setup (left) and average comfort level during the task (right). Error bars
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<概要>
豊橋技術科学大学情報・知能工学系認知神経工学研究室と視覚認知情報学研究室の研究チームは、将来のスマートシティにおける物流を想定し、ヒトが荷物を持って歩きながら自律移動型運搬ロボットへ荷物を渡すときの、ヒトの行動と快適さを調査しました。その結果、ロボットが近くまで来るとヒトは快適に感じやすく、遠いと不快に感じやすいことがわかりました。特に荷物が重いときにその傾向がより強く表れました。一方で、ロボットが近くまで接近するとヒトの歩行速度は低下し、一時的に動きを止めて躊躇する行動も見られました。これらの結果から、ヒトはロボットを「手伝ってくれる存在」として受け止める場合があり、適切な接近距離や動作設計が快適な協働に重要であることが示唆されました。この研究の結果は、2025年10月20日付でInternational Journal of Social Robotics誌上にオンライン版が発表されました。https://doi.org/10.1007/s12369-025-01329-z
<詳細>
近年、物流やサービスの現場では、自律移動型ロボットが荷物の運搬や受け渡しを担う場面が増えつつあります。しかし、ヒトとロボットが同じ空間で作業する際に、どのような距離や動き方がヒトにとって快適で安心できるのかは十分に分かっていませんでした。特に、ロボットが荷物を受け取るためにヒトへ近づくような状況では、ロボットの動き方や停止位置がヒトの感じ方や行動に大きく影響する可能性があります。このような背景から、本研究では、ヒトとロボットが向かい合って接近し、ヒトが荷物をロボットに渡す際の行動特性と主観的な快適さを明らかにすることを目的に、心理物理学的手法を用いて3つの実験を行いました。
最初の実験では、ロボットがどの程度近づいたときにヒトの歩行行動が変化するかを調べました。その結果、ロボットが近距離まで接近すると、ヒトは慎重に歩き、一時的に足を止めるなどの躊躇が増える傾向が見られました。次の実験では、荷物の重さが快適さに与える影響を調べました。その結果、荷物が重いときほどロボットが近くまで来た方が快適に感じられ、逆にロボットが遠くにいて動かない場合には不快に感じる傾向がありました。最後の実験では、ロボットに慣れている人とそうでない人を比較しましたが、経験の違いによる行動や快適さの差はほとんど見られませんでした。
これらの結果から、ヒトはロボットの動きを単なる機械的な接近ではなく、「協力して荷物を受け取ってくれる動作」として認識する場合があることが示唆されました。つまり、ロボットの接近距離や動作パターンを適切に設計することで、ヒトに安心感や快適さを与える行動設計が可能であると考えられます。本研究は、ヒトとロボットが安全かつ快適に協働できる社会の実現に向けた基礎的知見を提供するものです。
本研究の共同第一著者である情報・知能工学系の田村秀希助教は「自律移動型ロボットは、近年、都市部での物流、飲食物の配達・配膳など、さまざまな場面で活用が進んでいます。こうしたロボットが今後さらに私たちの身近な存在になるためには、ヒトにより受け入れやすい動き方が求められます。私たちは、ヒトが持つ認知の特性や行動の傾向をロボットの動きに取り入れることで、より快適な共存が可能になるのではないか、と考えています」と述べています。
<今後の展望>
今後は、現実の利用環境を想定し、ロボットの外観や大きさ、発する音、動く速度や方向などの要素がヒトの感じ方に及ぼす影響をさらに詳しく検証していく予定です。将来的には、こうした知見をもとに、物流やサービスの現場をはじめとしたさまざまな場面で、ヒトとロボットが安全かつ快適に協働できる行動設計の基盤を確立することを目指します。これにより、ロボットが私たちの生活環境の中でより自然に受け入れられ、共に作業する社会の実現につながることが期待されます。
図:実験イメージ(左).主観的な快適度(右).エラーバーは標準誤差を示す.
<論文情報>
Tamura, H.†*, Konno, T.†, Ito, K.†, Matsubara, Y., Martinsen, M. M., Nakauchi, S., & Minami, T. (2025). Human Behavior and Comfort During Load Carrying to Autonomous Mobile Robot. International Journal of Social Robotics, 1–19. https://doi.org/10.1007/s12369-025-01329-z
(*: 責任著者, †: 共同第⼀著者)
Journal
International Journal of Social Robotics
Article Publication Date
20-Oct-2025