image: あやとりのように、両手で発光するエネルギーの帯を持つ3D画像。一本の帯が内側に折れ曲がり、フロケ効果に特有な「メキシカンハット型」の運動量分散を想起させる。手のひらの上に浮かぶ明暗二つの光の球体は、電子と正孔が結合してできる励起子(エキシトン)を表している。 view more
Credit: ジャック・フェザストーン
光を当てるだけで新たな材料を創ることができるとしたら?―サイエンスフィクションや錬金術のように聞こえるかもしれません。しかし、「フロケエンジニアリング」と呼ばれる物理学の分野では、これが現実の目標として追及されてきました。光のような周期的な駆動により、あらゆる材料の電子構造を「着せ替え」ることができ、その基本特性を変化させることが可能です。例えば、単純な半導体を超伝導体に変えることも可能です。フロケ物理学の理論は、2009年に東京大学物性研究所の岡隆史教授と同大理学部の青木秀夫名誉教授によって理論的に提案されましたが、過去10年間でフロケ効果を実験的に実証できた例はごくわずかです。その理由として、本分野が光への依存によって制約されていることが挙げられます。今まで行われてきた実験研究では、フロケエンジニアリングの実現可能性を示すために、材料を破壊するほど高強度な光電場を用いる必要がありました。それにもかかわらず、得られる結果は限定的だったのです。
このたび、沖縄科学技術大学院大学(OIST)とスタンフォード大学を中心とする国際研究チームが、励起子(エキシトン)が光よりもはるかに効率的にフロケ効果を生成できることを実証し、フロケエンジニアリングに対する新たな、そして強力な代替手法を示しました。この成果は『Nature Physics』誌に掲載されました。OISTフェムト秒分光法ユニットを率いるケシャヴ・ダニ教授は次のように述べています。「特に二次元材料においては、強いクーロン相互作用によって、励起子は光子よりもはるかに材料の電子構造に影響を与えます。そのため、光がもたらす課題を回避しつつ、より強力なフロケ効果を達成することが可能です。これにより、フロケエンジニアリングが切り開く次世代の量子デバイスや材料に向けて、新たな道筋が示されました。」
フロケエンジニアリングで量子材料を「着せ替え」
フロケエンジニアリングは、通常の半導体から必要に応じて量子材料を創り出す手法として長年注目されてきました。フロケ物理学の根底にある原理は比較的シンプルです。系が振り子のように周期的に繰り返される駆動を受けると、その全体的な挙動は、単なる外力の繰り返しを超えて、より豊かなものになり得ます。遊具のブランコを想像してください。ブランコに乗った人を周期的に押すことで、ブランコ自体は前後に揺れるだけでなく、次第に高い位置まで持ち上げられていきます。
この原理を、時間と空間の境界が曖昧な量子世界に適用したのがフロケエンジニアリングです。半導体などの結晶中では、電子はすでに一つの周期ポテンシャル(時間ではなく空間における周期性)に支配されています。原子は密な格子構造に閉じ込められており、特定の周期的な原子構造によって規定される特定のエネルギー準位、いわゆるバンドに電子を閉じ込めているのです。結晶に特定の周波数の光を照射すると、第二の周期的な駆動が加わります。電磁波である光子が電子とリズム的に相互作用することで、今度は時間的に作用し、電子の許容エネルギーバンドをシフトさせるのです。周期的な光駆動の周波数と強度を調整することで、電子を新たなハイブリッドバンドに存在させることが可能となります。これにより、系全体の電子挙動が変化し、結果として物質の特性も変化します。これは、二つの音程が調和して新たな第三の音程を形成する過程に似ています。光駆動が停止すると、ハイブリッド化は終了し、電子は結晶構造が許容するエネルギー帯域に戻ります。しかし、この「歌」が持続する間、研究者は材料を「着せ替える」ことで全く新しい挙動を表現できるのです。
「これまでフロケ・エンジニアリングは、光駆動と同義でした」と、OIST博士課程学生のシン・ズー(朱兴)さんは述べています。「これらの系はフロケ効果の存在を証明する上で有用でしたが、光は物質との結合が弱いため、ハイブリッド化を実現するにはフェムト秒レベルの高周波数が必要になります。このような高エネルギーは材料を蒸発させてしまうことがあり、効果も非常に短命です。対照的に、励起子を用いたエキシトニックフロケエンジニアリングははるかに低い強度で実現可能です。」
半導体では、通常、光子によって電子が低エネルギー状態(価電子帯)からより高いエネルギー準位(伝導帯)へ励起されると、価電子帯に正孔(ホール)が残り、電子と正孔が束縛して励起子が形成されます。負に帯電した電子と、価電子帯に残された正に帯電した正孔からなる電子・正孔対はボソン準粒子を形成し、電子が最終的に光を放出しながら価電子帯へ戻ってくるまで持続します。「励起子は初期励起によって与えられた固有の振動エネルギーを保持しており、調整可能な周波数で材料内の周囲の電子に影響を与えます。励起子は材料自体の電子から生成されるため、光よりも材料と強く結合します。そして重要なことに、ハイブリッド化を効果的に駆動する周期的な力として機能するほど高密度な励起子集団も、はるかに少ない光量で生成できます。これが今回私たちが観測した現象です」と、共著者でローマ・トル・ヴェルガータ大学のジャンルカ・ステファヌッチ教授は説明しています。
世界最高水準のTR-ARPES装置が研究上の障壁を低減
この成果は、OISTフェムト秒分光法ユニットが長年にわたり培ってきた励起子研究と、並行して構築した世界最高水準のTR-ARPES(時間・角度分解光電子分光法)装置によって実現しました。
励起子を用いたフロケ効果を調べるため、研究チームは光駆動によって原子レベルの薄さの半導体を励起し、電子のエネルギー準位を記録しました。まず、強力な光駆動を用いて電子バンド構造に対するフロケ効果を直接観測しました。これはそれ自体が重要な成果です。次に、光駆動を1桁以上弱め、200フェムト秒後に電子信号を測定することで、光による効果とは別に励起子を用いたフロケ効果を捉えました。「実験結果がすべてを物語っていました」と語るのは、OIST卒業生で、現在はカリフォルニア工科大学プレジデンシャル・ポストドクトラル・フェローのビベック・パリック博士です。「光を用いたフロケ複製を観察するには数十時間のデータ取得が必要でしたが、励起子を用いたフロケを実現するにはわずか2時間程度で、しかもはるかに強い効果が得られました。」
これにより、本研究チームでは、フロケ効果が光に限らず一般的に実現可能であることと、これまで主流であった光子以外のボソンによっても信頼性高く生成し得ることを明確に示しました。励起子を用いたフロケ効果の実現には、光学的アプローチと比べてはるかに少ないエネルギーで済みます。理論的には、音響振動を利用したフォノン、自由電子を利用したプラズモン、磁場を利用したマグノンなど、多様な励起手段によって生成される他のボソン系準粒子でも、同様の効果を達成できると考えられます。このようにして、研究チームは実用的なフロケエンジニアリングに向けた基盤を築き上げました。これは、新たな量子材料やデバイスをより信頼性高く創出するための重要な一歩となります。「応用フロケ物理学への扉を開きました」と結論付けるのは、本研究の共同筆頭著者であるデイビッド・ベーコン博士(元OISTポスドク研究員、現在はユニバーシティ・カレッジ・ロンドンに所属)です。「多様なボソン系への応用が可能です。量子材料の創出と直接制御における大きな可能性を考えると、これは興奮すべき成果です。具体的な手法は今後の課題ですが、最初の実用的なステップに必要なスペクトル特性を確立しました。」
Journal
Nature Physics
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Not applicable
Article Title
Driving Floquet physics with excitonic fields
Article Publication Date
19-Jan-2026
COI Statement
J.M., M.K.L.M. and K.M.D. are inventors on a granted patent related to this work filed by the Okinawa Institute of Science and Technology School Corporation (US patent 11,372,199). K.E.J.G. is an inventor on a patent application related to this work filed by the Agency for Science, Technology and Research (Singapore) (SG2022050106 published on September 9, 2022). The authors declare no other competing interests.