image: Schematic model comparing the binding of traditional triGalNAc (triantennary) versus polyrotaxane-based monoGalNAc to the trimeric structure of ASGPR (asialoglycoprotein receptor). While conventional approaches required precisely branched triGalNAc, this new model illustrates how modifying a sliding polyrotaxane with multivalent monoGalNAc units allows them to dynamically adjust and bind strongly to the receptor's binding sites.
Credit: Taharabaru et al.
核酸医薬やゲノム編集技術といった最新の創薬モダリティ(治療アプローチ)は、その多くが細胞の中で働く必要がありますが、単独では細胞内に移行しにくいという大きな課題があります。そのため、薬を標的となる細胞の中へ確実に導入する技術が不可欠です。現在、このような薬を肝臓に移行させるために、肝細胞表面の受容体 (アシアロ糖タンパク質受容体: ASGPR) に強く結合する N-アセチルガラクトサミン (GalNAc) という糖リガンドが利用されています。この受容体は、3つの結合部位がセットになった「三量体」という構造で待ち構えているため、それらに同時に・隙間なく結合できるよう、あらかじめ 3 つの GalNAc を精密な間隔で枝分かれさせた構造 (triGalNAc:三分岐型糖鎖) が必要とされてきました 。しかし、triGalNAc は、製造に非常に煩雑な化学合成を要するためコストが高く、大型の分子を運ぶ際の効率にも限界がありました。
そこで熊本大学大学院生命科学研究部の田原春 徹 助教および東 大志 准教授らのグループは、ひも状の軸分子に環状のシクロデキストリンが貫通したポリロタキサンという超分子ポリマーに着目しました。この分子は、数珠やそろばんのように環状分子が軸の上を自由に回転・スライドできる、ユニークな「動き」を備えているのが特徴です。本研究では、ポリロタキサンを構成する環状分子に単一の GalNAc (monoGalNAc) を修飾すれば、受容体の三量体構造に合わせて自ら最適な位置に収まり、あらかじめ三分岐の形を精密に作らなくても、強く結合できるのではないか、という仮説を立てました 。
この仮説を実証するため、単一の GalNAc (monoGalNAc) が修飾されたポリロタキサン、三分岐型の GalNAc (triGalNAc) が修飾されたポリロタキサンに加え、monoGalNAc あるいは triGalNAc が修飾された通常の (可動性が低い) ポリマーを合成し、これらの比較検討を行いました。その結果、monoGalNAc あるいは triGalNAc が修飾されたポリロタキサンは、通常のポリマーよりも顕著に高い効率で標的である肝細胞内へ取り込まれることが示されました。重要なことに、triGalNAc が修飾された非可動ポリマーは、monoGalNAc が修飾された非可動ポリマーよりも高い細胞内取り込みを示すのに対し、monoGalNAc が修飾されたポリロタキサンおよび triGalNAc が修飾されたポリロタキサンは、ほぼ同等の効率の細胞内取り込みを示すことを明らかにしました 。
このことから、環状分子が自由に動けるポリロタキサン構造においては、複雑な三分岐構造をあらかじめ形成させずとも、複数の monoGalNAc が受容体の配置に合わせて自発的に集まり、多数のリガンドと多数の受容体が同時に結合する多価相互作用が効率的に誘起される可能性が示されました。これは、精密な化学構造に頼る従来の設計概念を、ポリロタキサンの「動き」というユニークな特性によって打破する画期的な戦略です。
本技術の有用性を確認するため、次世代バイオ医薬品への応用を試みました。まず、特定のタンパク質を標的の細胞の中で分解させる働きを持つ新しい抗体医薬 (Lysosome targeting chimera: LYTAC) に適用しました。その結果、本技術を応用した LYTAC をマウスへ投与した結果、肝標的化のために triGalNAc が付与されている従来の LYTAC と比較して、顕著に高い効果を示す可能性を見出しました。
さらに、標的の遺伝子を改変できることから、遺伝病の治療薬として期待されているゲノム編集分子 (Cas9 RNP) の送達への応用可能性について調べました。その結果、Cas9 RNP を搭載したナノ粒子に対し、monoGalNAc 修飾ポリロタキサンを結合させると、肝臓における遺伝病 (ATTR アミロイドーシス) の原因遺伝子であるトランスサイレチンのゲノム編集効率を向上させることを明らかにしました。
本研究は、分子の中での分子の「動き」という特性を利用した新しい設計指針を提示するものです。シンプルなリガンドを利用できるため、製造コストを抑えた安価かつ効率的なデリバリー技術として、将来的なゲノム編集治療などの普及に大きく貢献することが期待されます。
Journal
Advanced Science
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Cells
Article Title
Molecular Mobility of N-Acetylgalactosamine-Modified Cyclodextrins on a Polyrotaxane for Highly Efficient Liver Targeting of Antibody Chimeras and Genome-Editing Ribonucleoproteins
Article Publication Date
11-Jun-2026
COI Statement
The authors declare no conflicts of interest