世界初、単発X線パルスでナノ〜サブマイクロメートル構造をカメラ一台で同時計測
微細な初期プラズマ構造がレーザー固体相互作用を劇的に変化させる機構を解明
National Institutes of Natural Sciences
image: Schematic diagram of an observational experiment using an X-ray free-electron laser to study the plasma formation dynamics of a microscale rod assembly target under a high-intensity femtosecond laser.
Credit: National Institute for Fusion Science
研究背景
プラズマ※1中の不安定性※2や乱流※3の理解は、核融合※4、宇宙物理、レーザープラズマ物理※5など、幅広いプラズマ研究分野における重要課題の一つです。プラズマ中では、わずかな乱れが不安定性によって成長したり、乱流によって大小さまざまな構造の間でエネルギーが受け渡されたりします。こうした現象によって、非常に小さなものから大きなものまで、さまざまな大きさの構造が現れ、プラズマ全体の動きやエネルギーの流れに大きな影響を与えます。
一方、不安定性や乱流によって生じる構造は、わずかな条件の違いによって変化するため、実験ごとに同じ状態を再現することは容易ではありません。そのため、一度の計測で幅広い大きさの構造を同時に捉える「空間的マルチスケール単発計測」が求められています。特に、高エネルギー密度プラズマ※6では、不安定性が極めて短時間で成長するため、その初期過程を捉える高い時間・空間分解能も必要です。
研究の内容と成果
本研究グループは、新たに開発した“ビームストップフリーX線小角散乱法”とX線自由電子レーザー※7、及び、微細ロッド集合体ターゲット※8を組み合わせることで、高エネルギー密度プラズマの構造崩壊・膨張過程を、10 nmから500 nmにわたる幅広い空間スケールにおいて、サブピコ秒の時間分解能で計測することに成功しました。このような幅広い空間スケールの構造を、単発のX線パルスと一台のカメラで同時に計測したのは世界で初めての結果です。
従来のX線小角散乱法では、強いX線ビームからカメラを保護するため、ビームストップで中心部分を遮蔽し、その周囲に現れる小角の回折※9パターンを計測していました。しかし、この方法ではビームストップによって隠される超小角領域の信号を原理的に取得できません。開発したビームストップフリーX線小角散乱法では、厚み・サイズ・形状を最適化した金属薄板を重ね合わせて構成される減光フィルターシステムを用いることで、一台のX線カメラで計測できる強度範囲を、従来法の100倍以上に拡大しました。これにより、中心部の強いX線ビームをカメラの計測可能範囲まで減光し、これまで計測できなかった微細構造を現出するターゲットからの超小角領域を含む広範囲の回折信号を同時取得することを可能にしました。
実験は、兵庫県播磨のX線自由電子レーザーSACLAで生成される高輝度短パルスX線ビームと、併設された高強度フェムト秒パルスレーザーを用いて行いました。実験の概念図を図1に示します。サブマイクロメートルサイズの円柱が規則的に並んだシリコン微細ロッド集合体ターゲットを高強度レーザーで瞬間的に固体からプラズマ状態に変化させ、その構造崩壊・膨張過程をX線小角散乱信号の変化としてピコ秒・ナノメートルの時空間スケールで観察しました。
図2にビームストップフリーX線小角散乱法の原理図を示します。ロッド集合体に照射されたX線ビームは、個々のロッドによって回折・干渉することで、遠方の検出器上で特徴的な周期的ピーク信号を形成します。回折ピークの強度は低次から高次にかけて数桁にわたって減少します。そこで、比較的強度の高い低次の回折ピークを重点的に減光するため、中心付近ほどフィルターを厚くして透過率を低下させた減光フィルターシステムを検出器前に設置しました。これにより、低次から高次までの幅広い回折ピークを検出器のダイナミックレンジ内に収め、同時に計測することに成功しました。特に、従来のビームストップを用いた手法では計測できなかったm=0,±1,±2 等の低次の信号にアクセスし、プラズマのマクロな構造情報を捉えました。その結果、従来の比較対象実験に対して、計測可能な空間・時間領域をそれぞれ約一桁拡大することに成功しました。
この手法を用いて得られた実験結果を図3に示します。固体状態とプラズマ状態の微細ロッド集合体ターゲットに対するX線小角散乱計測結果の比較をすると、プラズマ状態では高次の回折ピークの強度が小さくなっていることがわかります。実は、この信号変化にプラズマサイズの情報が含まれています。そこで、高強度フェムト秒レーザーとX線自由電子レーザーとの間の微細ロッド集合体ターゲットに到達する時間差を変更させながら計測することで、ピコ秒スケールのダイナミクスを明らかし、プラズマ膨張速度と電子温度を導出しました。さらに、実験結果と数値シミュレーションを比較することで、微細構造を有する固体表面に形成される初期プラズマのサイズがわずか数ナノメートル増加するだけで、レーザーエネルギーの固体への吸収率が約4分の1に低下することを明らかにしました。
研究成果の意義と今後の展開
開発したビームストップフリーX線小角散乱法は、プラズマの不安定性や乱流によって生じる、さまざまな大きさの構造の形成・変化を解明する上で重要な計測手法です。今回の成果により、本手法を用いてレーザーエネルギーの吸収を左右するプラズマの微細構造を詳細に調べることが可能になりました。この知見は、標的への効率的なエネルギー伝達が求められるレーザーイオン加速の理解にもつながり、レーザープラズマ研究のさらなる進展が期待されます。
また、本手法は、固体が崩壊してプラズマへと変化する基礎過程を探索するための新たな計測プラットフォームとなる可能性があり、将来的には核融合炉におけるプラズマと炉壁の相互作用などへの応用も期待されます。
さらに、本計測手法はプラズマ以外の分野にも応用可能です。例えば、生体細胞のように繰り返し測定が難しく、時間とともに状態が変化する試料に対しても、少ないX線照射回数で幅広い空間スケールの構造を捉えることが可能となります。このような特徴を活かし、さまざまな分野への展開が期待されます。
【用語解説】
※1 プラズマ
固体、液体、気体に続く「物質の第4の状態」と呼ばれ、気体をさらに高温にするなどして、原子から電子が離れ、電子とイオンが自由に動き回る状態。
※2 (プラズマ)不安定性
プラズマ中に生じたわずかな密度や電磁場などの乱れが、時間とともに成長する現象。最初は非常に小さかった乱れが、プラズマを構成する電子やイオンとの電磁場相互作用によって増幅され、特徴的な大きさや形をもつ構造へと発展する。
※3 乱流
プラズマ中に、大小さまざまな渦や密度・電磁場の乱れが生じ、それらが複雑に影響し合う状態。異なる大きさの構造の間でエネルギーが受け渡されることで、非常に小さなものから大きなものまで幅広いスケールの構造が現れる。
※4 核融合
水素などの軽い原子核どうしが融合して、より重い原子核に変わる反応。このとき大きなエネルギーが放出される。太陽のエネルギー起源であり、この原理を用いた核融合発電に向けた研究が世界規模で行われている。
※5 レーザープラズマ物理
高強度・高出力のレーザーを物質に照射して生成されるプラズマや、レーザーとプラズマの相互作用を研究する物理分野。レーザーのエネルギーがどのようにプラズマへ伝わるのか、また、そのエネルギーによってプラズマがどのように加熱・膨張し、電子やイオンがどのように運動するのかなどを調べる。
※6 高エネルギー密度プラズマ
非常に小さな空間に大きなエネルギーが集中した、極めて高温・高圧なプラズマ。
※7 X線自由電子レーザー
電子を光速近くまで加速し、その電子から非常に強力なX線を発生させる装置。従来のX線源と比べて、極めて明るく、非常に短い時間幅をもつX線パルスを生成できることが特徴。
※8 微細ロッド集合体ターゲット
ナノ工学と材料工学の融合技術によって作成したロッドの直径や高さ、間隔をナノメートルオーダーで制御・デザインした集合体。比表面積の大きなバルク構造体として、レーザー場が平均遮断密度を超えてバルク中に侵入するなど、独特な線形・非線形光学分散を示す。
※9 回折
波が構造体に当たることで広がり、それらの波が互いに干渉して縞などの特徴的な模様をつくる現象。
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