image: Figure 1. Liquid sample cell for X-ray absorption spectroscopy and adjustment of the water-layer thickness.
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<概要>
豊橋技術科学大学、分子科学研究所、東京科学大学の研究チーム(代表者:豊橋技術科学大学金城ゆう(博士後期課程3年次)・手老龍吾教授)は、材料表面付近に存在する「界面水」の状態をX線で調べる新しい手法を開発しました。X線吸収分光法とデータ解析を組み合わせ、大量の水に埋もれていた界面水の信号を分離することに成功しました。さらに、無機材料の表面と、生体膜を模した脂質二重膜の表面では、水の状態が異なることを明らかにしました。本手法は、さまざまな材料と水の界面で起こる現象の解明に役立つと期待されます。
本研究成果は、2026年10月1日付で Applied Physics Express 誌にオンライン掲載されました。https://doi.org/10.35848/1882-0786/aea737
<詳細>
水は、私たちの生活や生命活動に欠かせない物質です。水に接する材料の表面付近では、水分子が材料と相互作用することによって、通常の液体の水とは異なる構造や性質を示すことがあります。このような水は「界面水」と呼ばれ、材料への分子の吸着、化学反応、生体分子の働きなど、さまざまな現象に関わっています。界面水の状態を分子レベルで調べることは、材料の機能や生命現象を理解するうえで重要です。
水分子の状態を調べる方法の一つに、X線吸収分光法があります。この方法では、水にX線を照射し、吸収されるX線のエネルギーと量の関係から、水分子の電子状態や周囲の水素結合の状態を調べます。しかし、材料表面付近に存在する界面水は、水全体のごく一部にすぎません。そのため、一般的な測定では大量に存在する通常の水(バルク水)からの信号に埋もれてしまい、界面水だけの情報を取り出すことが困難でした。
そこで研究チームは、水中測定用セルを用い、X線が通過する水の層の厚さを変えて測定し(図1)、得られたデータを数値解析する方法を考案しました。水の層を厚くすると、バルク水の量は増加しますが、材料表面に接する界面水の量はほぼ変わりません。この違いを利用し、水の層の厚さを変えてX線吸収スペクトルを複数測定し(図2(a))、多変量曲線分離・交互最小二乗法(MCR-ALS)というデータ解析手法を用いることで、バルク水と界面水に由来するスペクトルを分離しました(図2(b))。実験には、分子科学研究所の放射光施設UVSOR-IIIを利用しました。
この手法を、無機材料の一種である窒化ケイ素表面の酸化膜と、生体膜のモデルである脂質二重膜に適用しました。その結果、酸化膜表面付近の界面水には、固体表面との相互作用や水分子間の水素結合に関係する特徴的なスペクトルが現れました。一方、脂質二重膜が存在する場合には、界面水のスペクトルがよりなだらかな形状となり、界面水に由来する信号の割合も大きくなりました(図3)。この結果は、無機材料の表面付近では水分子の構造が比較的強く制約されるのに対し、柔らかく動きのある脂質二重膜の表面では、より多様な水素結合状態の水分子が存在することを示唆しています。
本研究では、水の層の厚さを変えるという実験的な工夫とデータ解析を組み合わせることにより、従来は取り出すことが難しかった界面水のX線吸収スペクトルを抽出できることを実証しました。
<今後の展望>
今回開発した手法は、無機材料や脂質二重膜だけでなく、高分子材料やさまざまな機能性材料と水の界面にも応用できると期待されます。今後は、材料の種類や表面の化学状態によって界面水がどのように変化するかを調べるとともに、分子シミュレーションや理論計算と組み合わせ、界面水のX線吸収スペクトルと分子構造の関係を明らかにすることを目指します。これにより、水中で機能する材料の設計や、生体膜と水の相互作用の理解に貢献することが期待されます。
<論文情報>
Y. Kinjo, A. Katase, T. Hayashi, M. Nagasaka and R. Tero (2026). Resolving interfacial water from bulk water by thickness-modulated soft X-ray absorption spectroscopy. Applied Physics Express, 19(10), 107001. https://doi.org/10.35848/1882-0786/aea737
<謝辞>
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JSPS科研費、課題番号:JP25K03396, JP26K24036, JP26K01354)および公益財団法人日本板硝子材料工学助成会の支援を受けて実施されました。X線吸収分光測定は、分子科学研究所の放射光施設UVSORのビームラインBL3Uにおいて実施しました(課題番号:25IMS6620)。また、本研究は文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ(ARIM)」の支援を受けました。
Journal
Applied Physics Express
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Not applicable
Article Publication Date
1-Oct-2026